婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました

鍛高譚

文字の大きさ
19 / 45
第2章 舞踏会の夜、伯爵令嬢は嘲笑される

20話

しおりを挟む
婚約話の浮上

 バルコニーから戻ったサラが、再びフロアの端に陣取っていると、両親が慌てた様子で駆け寄ってきた。
 「サラ! 大変よ、ガイ・アルノー殿が……まさかお前に声をかけてきたの?」
 母は目を輝かせて問いただす。どうやら今しがた、ガイが誰かと話しているところを目撃したらしい。サラが小さく肩をすくめると、父の方がさらに前のめりになってくる。
 「公爵家の令息がわざわざお前に話しかけに来たということは……もしかして、婚約の可能性があるのではないか?」
 「いや、ありません。そんな話じゃなかったので、ご心配なく。」
 サラがきっぱり否定すると、父と母は落胆の表情を浮かべ、「そうか……」と肩を落とす。どうにもこの二人は、公爵家との繋がりを夢見ているらしい。

 サラとしては、両親を傷つけるつもりはないが、実際ガイとの結婚など考えられない。そもそも、この時点でサラには結婚自体に興味がない。
 「申し訳ないですけど、わたし……一度休憩しますわ。少し疲れました。」
 そう言いおいて、サラはフロアの外に用意された休憩室へと向かった。そこにはテーブルと椅子が置かれ、ダンスに疲れた人々が水分補給をする場となっている。

 休憩室には、まだ誰もいなかった。サラは椅子に腰掛け、ふう、と息をつく。
 「はあ、やれやれ……こんな無駄なイベント、早く帰りたい。」

 すると、がらりと扉が開き、予想外の人物が入ってきた。――ガイ・アルノー本人である。
 「……おい、勝手に人の前で“ない”と言ってくれるなよ。」
 やや不満そうな口調。どうやら先ほどサラが両親に「婚約の可能性はない」と言っているのを、何らかの形で耳にしたか、あるいは目撃したのかもしれない。

 「盗み聞きは悪趣味ね。」
 サラが冷ややかに返すと、ガイは苦笑した。
 「仕方ないだろう。公爵家の令息が伯爵令嬢に近づいたら、周囲は色めき立つ。勝手な憶測が飛び交うものだ。」
 「……それが嫌なら、こんなところに来なければいいでしょう?」
 「お前こそ、どうして休憩室にいる? フロアに戻って他の男と話せばいいだろうに。」
 「話したくないの。」

 しばし沈黙が降りる。サラはガイの顔を見ずに、テーブルに置かれた水差しから水を注いで飲む。
 ガイは椅子にどかりと腰を下ろし、ため息をついた。
 「お前には興味があるが、結婚する気はない――そういうことか?」
 「ええ、そういうことね。」

 ガイは苦々しい表情を浮かべるが、何か考え込んでいるようでもある。サラはその様子を観察する。もしかすると、公爵家としては“有能な商人”を取り込むためにサラと婚約する手もあると考えているのかもしれない。だが、サラから見れば“束縛”の恐れが大きい。

 「正直に言おう。わたしはお前が本当に稼げるなら、婚約してしまうのも悪くないと思っている。公爵家としての地位は守られ、さらに財力が増せば、王族にも物が言えるかもしれないからな。」
 「……本気? そんな理由で婚約だなんて、わたしからすれば興味ないわ。」
 「まあ、そうだろうな。だが、世の中には政略結婚というものがある。お前も理解しているだろう?」

 サラは、水の入ったグラスを置き、ガイを見据えた。
 「理解はしているけど、従うつもりはないわ。わたしにはわたしのやり方がある。あなたに協力を求める日が来るかどうかは、“わたしが決める”こと。あなたが決めることじゃない。」
 「……強気なことだな。」
 ガイは薄く笑うが、その笑みには焦燥感も混じっているように見える。

 数秒の沈黙。休憩室のドアが開き、別の貴族が「失礼」と言って入ってきたので、ガイは「ではな」と呟いて立ち上がり、部屋を出ていく。サラはその背を見送る形となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」 ソフィア・クラリスの婚約者である デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると 周囲の雰囲気は大笑いに包まれた 彼を賞賛する声と共に 「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」 周囲の反応に喜んだデイモンドだったが 対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした 「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」 彼女の言葉の意味を 彼はその時は分からないままであった お気に入りして頂けると嬉しいです 何より読んでくださる事に感謝を!

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...