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第2章 舞踏会の夜、伯爵令嬢は嘲笑される
22話
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夜の帰還
馬車が伯爵家へ到着するころには、すでに深夜の気配が濃厚だった。屋敷に戻り、父と母は玄関先で「今夜のことは一体……」とサラに問いかける。サラは「わたしもよくわかりません。ただ、公爵令息が勝手に言い出しただけです」とだけ伝えて、そのまま部屋に引きこもった。
両親は再度混乱するだろうが、とりあえず今は詳細を説明する気にならない。サラ自身も体力的に疲れていたし、一度整理したいことが山積みだった。
部屋に戻ると、寝台の上に投げ出すように身体を倒す。白いドレスのまま仰向けになり、天井を見つめた。今日の舞踏会で得たものは何か? ――ほとんど何もない、というのが正直な感想だ。せいぜい、公爵令息が“自分の利益のためにサラを利用しようとしている”可能性を感じ取れたこと。そして、公爵が“サラの秘密”に薄々気づいていること。
(それにしても、公爵本人がわたしの正体をどこまで知っているのかしら。どこかで情報が漏れた? あるいは、いずれ世界を牛耳るかもしれないと勘づいたのか。もっと慎重に動くべきだったかしら……)
しかし、取り返しのつかないような失態ではない。むしろ公爵家が変に近づいてくる前に、息子の暴走という形で関係が断ち切れたのは幸いといえる。サラはほっと胸をなで下ろす。
「さて……明日からまた動き出そう。この国の通貨制度を根本から握るには、まだ調べが足りない。」
金貨や銀貨の“為替差”を利用する裁定取引は、既にサラが独自に進めている。だが、それだけで王国を、そして世界を牛耳るほどの資金力を得られるかは疑問だ。もっと大きな枠組み――例えば、各国が抱える戦争リスクや鉱山利権、貿易ルートの独占など、あらゆる要素を統合しなければ真の支配には及ばない。
「……公爵令息は、きっといずれ後悔するでしょうね。わたしを“格下”扱いしたことを。」
そう呟いて、サラは瞼を閉じた。舞踏会で派手に騒ぎが起きたせいで消耗しているのを感じる。
しばらくすると、ドアの外から母の小さな声が聞こえる。
「サラ……大丈夫? 入ってもいい?」
サラは小さく溜息をつき、布団の中から「どうぞ」と返す。母がドアを開け、心配そうな面持ちで入ってきた。
「ねえ、サラ……本当に、何も婚約を迫ったりはしていないのね?」
「ええ、わたしは何もしていない。あちらが勝手に決めて、勝手に破棄しただけです。」
「そう……でも、お父様はずっと怒っているわ。“伯爵家を愚弄された”って……」
母は泣きそうな顔だ。もしかすると、伯爵夫人としては公爵家との縁を本当に期待していたのだろう。サラは内心で申し訳ないと思いつつ、口では「仕方ないでしょう」としか言えない。
「とりあえず今夜は休みます。明日になれば、もう少し頭が冷えるでしょうし。」
「……そうね。ごめんね、サラ。舞踏会がこんなことになるなんて……」
母がドアを閉めて出ていくと、部屋に静寂が戻る。サラは再び天井を見つめた。暗い天井は、まるでこの先の未来を暗示しているかのようだが、サラは恐れを感じない。
むしろ、この騒動はサラに確信を与えた。上位貴族たちは結局のところ、家柄や体面ばかりを気にする集団だ。けれど、「経済」は彼らの予想を超える力を秘めている。サラがそれを完全に握ったとき、彼らはもう家柄だけでは立ち行かなくなるだろう。
「婚約破棄? いいわよ。興味ないし。――でも、覚えていて。わたしは“ただの伯爵令嬢”なんかじゃないってことを。」
そう心の中で呟き、サラはゆっくりと眠りに落ちていく。
夜は更け、アルステード王国の王都は沈黙に包まれ始めていた。
だが、サラの中では新たな計画と策略が息づいている。公爵令息との茶番が終わった今、いよいよ次のステージへ。――世界の経済を手中に収めるための、大いなる一歩が始まろうとしていた。
馬車が伯爵家へ到着するころには、すでに深夜の気配が濃厚だった。屋敷に戻り、父と母は玄関先で「今夜のことは一体……」とサラに問いかける。サラは「わたしもよくわかりません。ただ、公爵令息が勝手に言い出しただけです」とだけ伝えて、そのまま部屋に引きこもった。
両親は再度混乱するだろうが、とりあえず今は詳細を説明する気にならない。サラ自身も体力的に疲れていたし、一度整理したいことが山積みだった。
部屋に戻ると、寝台の上に投げ出すように身体を倒す。白いドレスのまま仰向けになり、天井を見つめた。今日の舞踏会で得たものは何か? ――ほとんど何もない、というのが正直な感想だ。せいぜい、公爵令息が“自分の利益のためにサラを利用しようとしている”可能性を感じ取れたこと。そして、公爵が“サラの秘密”に薄々気づいていること。
(それにしても、公爵本人がわたしの正体をどこまで知っているのかしら。どこかで情報が漏れた? あるいは、いずれ世界を牛耳るかもしれないと勘づいたのか。もっと慎重に動くべきだったかしら……)
しかし、取り返しのつかないような失態ではない。むしろ公爵家が変に近づいてくる前に、息子の暴走という形で関係が断ち切れたのは幸いといえる。サラはほっと胸をなで下ろす。
「さて……明日からまた動き出そう。この国の通貨制度を根本から握るには、まだ調べが足りない。」
金貨や銀貨の“為替差”を利用する裁定取引は、既にサラが独自に進めている。だが、それだけで王国を、そして世界を牛耳るほどの資金力を得られるかは疑問だ。もっと大きな枠組み――例えば、各国が抱える戦争リスクや鉱山利権、貿易ルートの独占など、あらゆる要素を統合しなければ真の支配には及ばない。
「……公爵令息は、きっといずれ後悔するでしょうね。わたしを“格下”扱いしたことを。」
そう呟いて、サラは瞼を閉じた。舞踏会で派手に騒ぎが起きたせいで消耗しているのを感じる。
しばらくすると、ドアの外から母の小さな声が聞こえる。
「サラ……大丈夫? 入ってもいい?」
サラは小さく溜息をつき、布団の中から「どうぞ」と返す。母がドアを開け、心配そうな面持ちで入ってきた。
「ねえ、サラ……本当に、何も婚約を迫ったりはしていないのね?」
「ええ、わたしは何もしていない。あちらが勝手に決めて、勝手に破棄しただけです。」
「そう……でも、お父様はずっと怒っているわ。“伯爵家を愚弄された”って……」
母は泣きそうな顔だ。もしかすると、伯爵夫人としては公爵家との縁を本当に期待していたのだろう。サラは内心で申し訳ないと思いつつ、口では「仕方ないでしょう」としか言えない。
「とりあえず今夜は休みます。明日になれば、もう少し頭が冷えるでしょうし。」
「……そうね。ごめんね、サラ。舞踏会がこんなことになるなんて……」
母がドアを閉めて出ていくと、部屋に静寂が戻る。サラは再び天井を見つめた。暗い天井は、まるでこの先の未来を暗示しているかのようだが、サラは恐れを感じない。
むしろ、この騒動はサラに確信を与えた。上位貴族たちは結局のところ、家柄や体面ばかりを気にする集団だ。けれど、「経済」は彼らの予想を超える力を秘めている。サラがそれを完全に握ったとき、彼らはもう家柄だけでは立ち行かなくなるだろう。
「婚約破棄? いいわよ。興味ないし。――でも、覚えていて。わたしは“ただの伯爵令嬢”なんかじゃないってことを。」
そう心の中で呟き、サラはゆっくりと眠りに落ちていく。
夜は更け、アルステード王国の王都は沈黙に包まれ始めていた。
だが、サラの中では新たな計画と策略が息づいている。公爵令息との茶番が終わった今、いよいよ次のステージへ。――世界の経済を手中に収めるための、大いなる一歩が始まろうとしていた。
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