婚約破棄したあなたが処刑台に立つ頃、私は帝国将官に求婚されていました』

鍛高譚

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20話

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降伏と動揺

 王都の城門が開かれ、帝国軍が進駐してくる日は、曇天の重たい空模様だった。
 城下の大通りには王国軍の兵士の姿はほとんどない。もはや戦意を失った彼らは、上官の命令で武装解除されている。人々は家の扉や窓を閉ざし、怯えながらその瞬間を迎えた。
 帝国軍の旗を掲げた部隊が、規律正しく列を組んで入城してくる。その先頭にいたのは、濃紺の軍服を纏ったハウザー准将の姿だ。背が高く、凛とした空気をまとい、鋭い眼差しで王都の様子を見渡している。
 コーラルは、人々の代表として城門近くの広場に立ち、彼らを迎え入れる役目を担っていた。伯爵家の紋章を背負いながらも、恐怖を抑えて顔を上げる。ハウザーも彼女に気づいたのだろう、馬上で一瞬こちらを見やると、ほんのわずかに表情を緩めた。

(思っていたよりも険しい顔をしていない……)

 コーラルはホッとしたような、しかし同時に複雑な胸の内を抱く。ハウザーの瞳からは、あの日出会ったときの穏やかさと同時に、軍人としての厳しさも感じられた。
 やがて彼は馬を降り、静かにコーラルへと歩み寄る。周囲の帝国兵たちが警戒態勢を解かないまま距離をとるが、ハウザー自身は落ち着いた口調で言葉を発した。

「お久しぶりです、コーラル・エヴァリー伯爵令嬢。……このような形で再会することになるとは、私も望んではいませんでしたが」

 その声には、一部の偽りもない悲しみが混じっていた。コーラルはなるべく動揺を抑え、深く礼をして答える。

「ハウザー准将……私たちも、再び戦いになるとは思いもしませんでした。どうか、王都の人々にこれ以上の被害が及ばぬよう、帝国軍をお導き願えませんか?」

 そう切実に訴えるコーラルの姿は、気高さと同時に脆さを感じさせる。ハウザーはその視線を正面から受け止めると、小さく頷いた。

「民衆を守りたいという思いは、私も同じです。……陛下(帝国の皇帝)の命により、我々は必要以上の暴力行為を控えるよう厳命を受けています。この場を混乱に陥れるつもりはありません」

 周囲の帝国兵からは、やや驚きの視線が注がれる。王都進駐の任を帯びた将官が、ここまで柔軟な姿勢を見せるのは異例だからだろう。
 コーラルはハウザーの真意を測りかねながらも、一縷の望みを見出す。かつての停戦期に感じた通り、彼は紛れもなく“血を求める侵略者”とは異なるタイプの軍人だ。ならば、なんとか協議の場を設け、王都の人々を守る道を探れるかもしれない。
 こうして、王都は大混乱の中で帝国軍の進駐を迎えた。しかし、大規模な略奪や破壊が起こることはなく、表面的には秩序が保たれたまま“帝国の管理下”へ移行していった。
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