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23話
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揺れ動く心
王都に駐留する帝国軍の様子は、意外なほど穏やかだった。略奪行為は厳罰をもって禁じられ、ハウザー准将自ら見回りを行い、兵を統制している。その結果、極端な混乱は抑えられていた。
しかし、それは“今のところ”にすぎない。帝国内にも様々な派閥があり、より強硬な支配を求める者が王都に到着すれば、事態は一変しかねない。コーラルは毎日が綱渡りのような心境だった。
そんな中、彼女は昼夜を問わず救援活動や交渉に奔走する。ある夜、ふとしたきっかけでハウザーと二人だけで話す機会が訪れた。城下の一角にある屋敷で、帝国軍の事務作業を終えた後、ハウザーが帰路につくコーラルを送ってくれるというのだ。
「コーラル嬢、先ほどの報告では、周辺の村からまた新たな避難民が押し寄せているとか。疲れが溜まっているのではないか?」
「……大丈夫です。これぐらい、平気ですわ」
そう言いながら、コーラルは夜空を見上げた。星が薄雲に隠れて淡く瞬いている。王都の街灯がまばらに照らす道を歩きながら、ハウザーは重い口を開いた。
「今回の侵攻作戦……私は正直、全面的に賛成していたわけではありません。しかし、帝国の方針として下された以上、従わざるを得なかった。……けれど、こうしてみると、王都にも普通に暮らす人々の生活がある。失われていいものなんて、どこにもないんだと痛感します」
普段は軍人として冷静に振る舞う彼が、珍しく感情を吐露した。コーラルは足を止め、ハウザーの横顔をそっと見つめる。
思えば、自分と似ているかもしれないと感じた。立場や責務に押し流されながらも、人々を救いたい、守りたいという思いを抱いているところが。
「私も、これ以上の流血は見たくありません。帝国の兵士さんだって、誰かの大切な家族ですから。お互い、もっと穏やかな形で共存できればいいのに……」
そう呟いたコーラルの瞳には、涙が浮かんでいた。戦争がなければ、今ごろ王国も帝国も、普通に行き来していたかもしれないのに――そう思うと悔しくてたまらない。
ハウザーはそっとコーラルに近づき、差し出された彼女の手を、傷つけないよう包み込む。その手は冷たく、微かに震えていた。
「……貴女が、私にそう感じさせてくれたんだ。国や立場を超えて、人は手を取り合えると。だから私は、可能な限り王都を暴力から守りたい。たとえ帝国内の強硬派から批判されようとも……」
彼の声は低く静かで、どこか熱を帯びていた。お互いの立場を思えば、これ以上踏み込むのは危険かもしれない。それでも、二人の距離は、あの夜空の下で少しだけ縮まっていく。
コーラルの胸が切なく疼く。かつて、アリオンを想って胸を焦がしたあの日の気持ちとは違う、もっと静かで大きな、しかし確かなぬくもりを覚える。そして同時に、薄氷の上を歩むような不安もあった。
帝国の人間であるハウザーと、敗戦国の貴族令嬢である自分。二人の絆が、どんな形であれ、無事でいられる未来はあるのだろうか――。
王都に駐留する帝国軍の様子は、意外なほど穏やかだった。略奪行為は厳罰をもって禁じられ、ハウザー准将自ら見回りを行い、兵を統制している。その結果、極端な混乱は抑えられていた。
しかし、それは“今のところ”にすぎない。帝国内にも様々な派閥があり、より強硬な支配を求める者が王都に到着すれば、事態は一変しかねない。コーラルは毎日が綱渡りのような心境だった。
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「今回の侵攻作戦……私は正直、全面的に賛成していたわけではありません。しかし、帝国の方針として下された以上、従わざるを得なかった。……けれど、こうしてみると、王都にも普通に暮らす人々の生活がある。失われていいものなんて、どこにもないんだと痛感します」
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思えば、自分と似ているかもしれないと感じた。立場や責務に押し流されながらも、人々を救いたい、守りたいという思いを抱いているところが。
「私も、これ以上の流血は見たくありません。帝国の兵士さんだって、誰かの大切な家族ですから。お互い、もっと穏やかな形で共存できればいいのに……」
そう呟いたコーラルの瞳には、涙が浮かんでいた。戦争がなければ、今ごろ王国も帝国も、普通に行き来していたかもしれないのに――そう思うと悔しくてたまらない。
ハウザーはそっとコーラルに近づき、差し出された彼女の手を、傷つけないよう包み込む。その手は冷たく、微かに震えていた。
「……貴女が、私にそう感じさせてくれたんだ。国や立場を超えて、人は手を取り合えると。だから私は、可能な限り王都を暴力から守りたい。たとえ帝国内の強硬派から批判されようとも……」
彼の声は低く静かで、どこか熱を帯びていた。お互いの立場を思えば、これ以上踏み込むのは危険かもしれない。それでも、二人の距離は、あの夜空の下で少しだけ縮まっていく。
コーラルの胸が切なく疼く。かつて、アリオンを想って胸を焦がしたあの日の気持ちとは違う、もっと静かで大きな、しかし確かなぬくもりを覚える。そして同時に、薄氷の上を歩むような不安もあった。
帝国の人間であるハウザーと、敗戦国の貴族令嬢である自分。二人の絆が、どんな形であれ、無事でいられる未来はあるのだろうか――。
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