婚約破棄したあなたが処刑台に立つ頃、私は帝国将官に求婚されていました』

鍛高譚

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27話

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裁定の日

 中央広場は、敗戦後の混乱の中で荒れ果てていたが、そんな場所に人々が集まっていた。そこに設置された簡素な壇上には、帝国軍の法務官が数名。拘束具をつけられたままうなだれるアリオン、そして同じく捕らえられたガーレン将軍とその部下らが並んでいる。
 帝国側は当初、内部の軍法会議で粛々と処分を下す方針だったのだが、「戦争を利用し、自らの私利私欲を満たしてきた者たちの罪状を公に示す」という目的で、王都の民衆の前で裁定を行うという形に変わった。これにより、王国の貴族や兵士たちへの見せしめにもなるのだろう。
 昼過ぎ、法務官が淡々と罪状を読み上げ始める。以下のような不正が、明確な証拠をもって立証されたらしい。

兵糧や医薬品を横領し、闇市で私腹を肥やしていたこと

負傷兵や民衆から徴収した保険金や税金を私的に流用したこと

戦況報告を偽造し、前線で苦戦する兵士たちを見殺しにしながら、自分たちは安全地帯に留まり、出世の足掛かりを築いたこと

最後には敗北が決定的となった王国を見捨て、帝国に寝返るような裏取引を持ちかけたこと

 膨大な証拠が次々と読み上げられるうちに、民衆の間から罵声が飛び交う。「裏切り者」「下衆貴族」「お前らのせいでどれだけの人が死んだと思っている!」――そんな言葉が広場を満たす。
 一方、当のアリオンはぼんやりと虚空を見つめたまま、なすすべもなく項垂れている。今まではどんな手段を使っても自分だけは助かる道を探してきた彼だが、今回ばかりは逃げられないと悟ったのだろう。隣のガーレン将軍が必死に何かを主張しているが、法務官たちは耳を貸さない。帝国は既に“不要”と判断した者を躊躇なく切り捨てる――それが今回の裁定の意味だ。

 コーラルは、遠巻きにその光景を見つめていた。馬車から降りて広場の一角に立ち、複雑な面持ちで壇上を見上げる。そうして、かつてのアリオンの姿を思い出さずにはいられない。子どものころは誰よりも優しく、騎士を夢見て剣術や馬術に励んでいたあの少年が、どうしてこんな結末を迎えることになったのか。
 もちろん、同情するべきではないし、アリオンが犯した罪はあまりにも重い。多くの民衆を苦しめ、自分自身の命と権勢だけを求め続けた。だが、コーラルは悲しみを飲み込むように、唇を噛みしめた。

(さようなら……アリオン様。)

 小さく呟いた瞬間、壇上の法務官が重々しく宣言する。

「これより、アリオン・サリヴァン伯爵並びにガーレン将軍ほか数名を、戦争犯罪者として裁定し、極刑に処す。即日、刑を執行する」

 人々がどよめく。あまりにも短い“裁判”の末、帝国軍は処刑を決定したのだ。
 嘆きの声や歓声が入り混じる中、アリオンとガーレン将軍たちは強引に引き立てられ、広場の端へと連行されていく。コーラルは人波に流されながらも、必死にその場から目を逸らさずにいた。思わず顔を背けたくなる衝動をこらえ、彼らが迎える最後の瞬間を見届ける。それは自らへの区切りでもあった。

 先に首を落とされるのはガーレン将軍らしい。帝国の処刑人が剣を構える姿に、民衆はごくりと息を呑む。レイナーはどこにいるのか、もはや広場には見当たらない。一説には、別の場所で拘束されているとも言われるが、正確なところはわからない。
 ガーレン将軍が断頭台に押しつけられ、地鳴りのような轟音とともに処刑が完了すると、人々の間から安堵とも恐怖ともつかない叫びが上がる。そして、続いてアリオンが呼ばれる。

 アリオン・サリヴァン――かつては伯爵家の嫡子として社交界の花形であり、コーラルの大切な婚約者だった青年。今はぼろぼろの服をまとい、足取りも覚束ないまま断頭台へと登らされる。引きずられるように首を固定されると、その瞳がかすかにこちらを向いた。
 距離があるうえに、アリオンの顔は血の気が失せて青白くなっている。だが、確かに彼はコーラルを見つめていた。震える唇で何かを言おうとするが、声にならないようだ。
 処刑人が剣を振り上げる。コーラルは涙を堪え、最後まで目を逸らさない。
 次の瞬間、鈍い響きが広場にこだまし、アリオンの命が途切れた。草葉の露のように脆く、儚く。そこにあったのは、愛を語り合った昔日の面影ではなく、無残な末路に散った一人の男の姿だ。
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