婚約破棄したあなたが処刑台に立つ頃、私は帝国将官に求婚されていました』

鍛高譚

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32話

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最終の平穏

 それから数か月後。王都の再建はまだ道半ばではあるが、少しずつ人々の生活は落ち着きを取り戻し始めた。かつての栄華には遠く及ばないものの、市場や商店にも笑顔が戻り、街角で歌を口ずさむ子どもの姿が見られるようになる。
 帝国側は行政を整えつつ、王国の資源や地理を活用しようと躍起になっている。中には相変わらず強硬な手段を求める派閥も存在するが、ハウザーやその同僚たちは可能な限り穏やかな共存を模索し、何とか大きな衝突を抑え込んでいた。
 コーラルは伯爵邸を拠点に、帝国と王国を繋ぐ窓口役として奔走している。慈善活動も継続しながら、多くの負傷兵や孤児を支え、物資不足の村々へ救援を送る。その在り方に共感する帝国兵も増え、少しずつだが相互理解の輪が広がっているように感じられた。

 ある午後、コーラルはハウザーの用意してくれた馬車で王都を巡回していた。彼女は車窓から街並みを見つめながら、ふと思い出を懐かしむ。

(あの日、アリオン様との婚約が決まったとき、私たちはここを馬車で通って……)

 だが、すぐにその思考を振り払う。もうそれは過去のこと。思い返しても、胸をえぐるような痛みはない。アリオンは己がまいた種を刈り取り、最期を迎えた。それが残酷な現実だとしても、もう一度振り返って悲しむつもりはなかった。
 そうして、自分の未来をまっすぐ見つめるためにも、コーラルは今日を大切に生きようと心に決めている。

「……皆さんが、少しでも笑顔になれる場所を増やさないと」

 コーラルは小さく呟き、馬車を降りると市民たちに声をかける。そこには帝国兵の姿も混じっていたが、彼らと共に炊き出しや荷運びを手伝う場面も珍しくなくなっていた。敵国同士だったはずの人々が、一つの社会の中で少しずつ交わりを持ちはじめている。その光景に、コーラルは胸が温かくなる。
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