婚約破棄したあなたが処刑台に立つ頃、私は帝国将官に求婚されていました』

鍛高譚

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33話

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誓いの日

 そして、その数日後――王都郊外の古い礼拝堂で、控えめながらも心温まる式が行われた。
 式の名目は、帝国と王国の友好を願う“合同祈願祭”というもの。敗戦によって精神的に打ちひしがれている民衆を慰め、復興への希望を示すために企画されたものだが、その裏にはもう一つ、関係者だけが知る“特別な儀式”が隠されていた。
 それは、コーラル・エヴァリーとハウザー准将の“結婚の誓い”だった。王国や帝国の法制度が複雑に入り乱れている今、正式な手続きを踏むには時間と手間がかかる。だが、二人はまず“互いの意志を示す”という形で、ささやかな誓いの式を行いたいと考えたのである。
 この合同祈願祭には帝国側の関係者や王国の貴族、そして一部の民衆代表などが招かれているが、誓いの場面そのものはごく限られた者しか知らない。いわゆる“内輪”の儀式というわけだ。

 礼拝堂の奥に設けられた祭壇の前で、コーラルは白い衣装を身にまとっていた。織物自体は質素なものだが、どこか気品があり、彼女自身の清らかな雰囲気を引き立てている。かつて社交界で飾ったきらびやかなドレスとは違う、飾り気のない優しい白。
 一方、ハウザーは帝国軍の礼装をベースにしながらも、威圧感を抑えたシンプルな装いで祭壇に立っている。姿勢は端正で、落ち着いた面持ちだが、その瞳にはやはり情熱が宿っていた。

 司祭が古い言語で祈りの言葉を捧げる中、二人は静かに向き合う。周囲には、伯爵夫妻やハウザーの側近、わずかながら帝国の将官もいるが、場を乱す者は誰一人いない。むしろ、長く続いた戦乱の果てに生まれる一筋の光を見守ろうとする温かな空気がそこにあった。
 コーラルは、ほんの少しだけ緊張した面持ちで、ハウザーを見つめる。声を落として、誓いの言葉を囁くように告げた。

「私は、あなたの隣で、未来を見つめたい。どんな困難があっても、人々のために力を尽くし、そしてあなたを支えることを、ここに誓います」

 震える唇で語られるその決意は、偽りのない真実だった。アリオンとの過去を乗り越え、王国の崩壊と帝国の侵略という悲劇を超えて、今こそコーラルは心からそう願っている。
 続いてハウザーは、コーラルの手をそっと握り、やはり静かに答える。

「私は、帝国に生きる者として、この地を守り、余計な流血を招かないために最善を尽くす。そして、貴女が悲しむことがあれば、必ずそれを取り除く手伝いをする。貴女の笑顔こそが、私の生きる道標になると、誓います」

 その言葉に、涙がコーラルの頬を伝う。悲しみではなく、心からの喜びと安堵の涙。
 司祭が祝福の言葉を述べ、二人の手をそっと重ねる。拍手や歓声が大きく響き渡ることはない。しかし、そこにいる全員の心には温かな感動が宿っていた。
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