追放令嬢の辺境パティスリー ~桃のタルトと第二王子の溺愛~

鍛高譚

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14話

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 そして翌朝、わたくしは雇った狩人たち――二人組の青年と中年男――を連れ、森の奥へ向かうことになった。馬車は途中までしか通れないため、まずは狩人たちが用意した馬で山道を抜け、それからは徒歩で森に入るという段取りだ。店は数日休業とし、ピエールには留守を任せてある。

 森へと近づくにつれ、木々が生い茂り、空気がしっとりと湿り気を帯びてくる。鳥のさえずりもだんだん遠のき、何やら背筋に冷たいものを感じる。噂に聞く“迷いの森”というのは伊達ではないようだ。

 「あんまり奥まで行きたくはねえが、アンリ様がどうしてもって言うならね。俺たちも商売なんで、危険手当を頂けるならば行きますぜ」

 中年の狩人が苦笑混じりに言う。彼らには事前に多めの報酬を約束してあるからこそ、こうして同行してくれているのだ。すでに斧や弓といった武器もしっかり携帯しているから、万が一の時にも頼りになるだろう。

 森の入り口に足を踏み入れた途端、世界ががらりと静まり返った。鬱蒼とした木々が光を遮り、足元には苔や落ち葉が散り、地面がふかふかしている。ところどころに獣道のようなものがあるが、はっきりとした道標はない。これでは確かに迷い込みそうだ。

 「……こんな奥に、本当に果樹園なんてあるのかしら」

 半信半疑になりつつも、わたくしは狩人たちの案内に従って歩みを進める。時折、小動物の走る気配や、遠くで羽ばたく鳥の音が聞こえるだけで、人間の姿などまったくない。

 どれくらい歩いただろう。森の空気に慣れ始めた頃、先頭を歩いていた青年が、木の枝をかき分けて立ち止まった。

 「おい、見ろよ……あれ」

 指差す先には、信じられない光景があった。森の中、ぽっかり開けた空間に、何本もの果樹が立ち並んでいる。遠目にも、それらが桃の木であることは明らかだった。

 「本当に……あったんだわ……!」

 わたくしの胸は高鳴る。野生の桃の木――想像以上に整然と並んでいて、荒れ果てているという印象はない。背丈も大きく、枝にはまだ青い実がついている。時期的に収穫はもう少し先かもしれないが、これだけの本数があれば十分な量が得られそうだ。

 「へえ、本当に桃だ。こりゃ噂は本当だったってわけか」
 「しかし、どうしてこんな場所に……」

 狩人たちも怪訝そうに辺りを見回す。木々の根元には古い柵のような残骸も見える。もしかしたら、ここはかつて誰かが大規模な果樹園を作ろうとしていた場所なのかもしれない。

 「こんなに大きな木があるなら、管理さえすればかなりの収穫が見込めるはずですわ」

 わたくしは興奮に震えながら、足を進めようとする。だが、その瞬間、狩人の青年が目を鋭くしてわたくしを制止した。

 「待った。足元に変な足跡があるぞ。これは……獣のものじゃないか?」

 そこには、大きな爪の跡のような痕が土に刻まれている。明らかにイノシシや狼の類いではない。もっと大きく、爪が長い。もしこれが魔物の足跡だとしたら……一気に緊張感が高まる。

 「あいつが近くにいるかもしれん。気をつけろよ」

 狩人たちは武器を構え、あたりを警戒する。わたくしもゴクリと息を飲みながら、進むか引き返すかを一瞬迷った。けれど、わたくしがここまで来た目的は桃の確認だけではない。生きて帰らなければ意味がないのだ。

 「……急いで木の状態だけ確認して、すぐに戻りましょう。今はまだ実が青いし、無理に採る必要はありませんわ。ここが存在するなら、あとは管理方法を考えればいいだけですもの」

 提案に狩人たちは頷き、わたくしを中心に周囲を囲むように進み出す。木の根元をざっと見たり、枝の高さや実のつき具合を観察するだけでも、いろいろと情報は得られる。
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