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第2章:揺れ動く王都と、隣国の誘い
6話
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広がる噂と、求婚者たち
父の懸念を裏付けるように、王太子との婚約破棄をめぐる噂は王都にますます広がっていた。
その内容は多岐にわたる。例えば、
「セイラ・フォン・アークライトは、実はとんでもない悪事を働いていたらしい」
「いや、実は悪事など存在せず、聖女リリアが王太子を誘惑しているのだ」
「アークライト公爵家は裏で王家を操ろうとして失敗したのでは?」
……などなど、どれも根拠に乏しいものばかり。にもかかわらず、人々は面白がって噂を囁き合う。そんな中で、私の評判については「本当に悪女なのだろうか?」「彼女が何をしたというのだ?」と、むしろ疑問を呈する声のほうが大きかったようだ。かえって、具体的な証拠を提示しないアルベルトやリリアへの不審が高まっているらしく、**「王太子がおかしくなったのでは?」**と囁く者までいるという。
そうして王太子の株が下がる一方、私のもとには妙な手紙が増え始めた。差出人はほとんどが上級貴族の家柄で、内容は**「セイラ様がもし王太子殿下と破談となったのなら、我が家に嫁がれませんか?」**――要するに求婚状だ。
中には、**「王太子殿下の見る目がないのなら、私がその賢さを生かせるようお支えします」といった好意的な文面もあれば、「公爵家との繋がりを深めたい」**という露骨な政治的思惑が透けて見えるものもある。いずれにせよ、私が婚約破棄された今こそがチャンスだと考えているわけだ。自分で言うのもなんだが、王太子候補だったという経歴は、ある種の「箔付け」になってしまうらしい。
「……ただの下心ばかりね」
書斎の机でその手紙の束を眺めながら、私はひとりごちる。たしかに貴族の婚姻は政略が絡むものだし、私もそれを完全に否定する気はない。けれど、今の私にとっては「ただちに次の結婚相手を探すこと」は求めていない。そもそも私は、この機会を利用して自由に生き方を選びたいと考えているのだから。
そっと手紙の束を脇に寄せ、私は深呼吸する。ふと、隣国の第一王子・レオニスの姿が脳裏をよぎる。――数日前、突然訪れてきたあの男性は、「私に興味がある」「隣国へ来ないか」と言った。あれは衝撃的な提案だった。まさか私が「隣国の王妃候補」になる可能性を示唆されるとは……。
だが、いきなり決められることではない。そもそも、お互いほとんど知らない間柄だ。それに、私がレオニスに惹かれないとは言えないまでも、まだ自分の気持ちがはっきり定まっているわけでもなかった。
しかし、一方で**「レオニスなら私の自由を尊重してくれそう」**という期待もある。あの落ち着いた物腰や鋭い洞察は、アルベルトにはなかった魅力だ。もし彼のもとでなら、王妃としての役割をこなしながらも、自由に研究や旅を楽しめるのだろうか……? 少なくとも「悪女だ」と決めつけられることはなさそうだが。
頭の中でぐるぐる思考が渦巻いていると、ノックの音がした。使用人が顔を出し、私に知らせる。
「セイラお嬢様。隣国の王子――レオニス殿下から、茶会への招待状が届いております。どうなさいますか?」
ドキリと胸が高鳴った。ちょうど考えていた矢先のことだ。先日、彼と交わした言葉を思い出す。「近々、茶会を開く予定だ。都合がつけば来てほしい」――あれは本気だったらしい。
私は使用人から招待状を受け取り、さらりと目を通す。そこには確かに、日取りと場所が書かれており、丁寧な言葉で「ぜひいらしてほしい」と誘われている。どうやらこの国で滞在している客殿を借り、レオニス自身が主催する形の茶会になるようだ。出席者は私以外にも数名ほど、王都の上級貴族が招かれるらしいが、その顔ぶれは不明だ。
……ここで私が行くべきか、行かざるべきか。迷う気持ちはあるが、行かずにいても一向に話は進まない。むしろ「知りたい」と思うなら、自分の足で確かめるべきだろう。
「……出席いたします、とお返事してちょうだい」
そう使用人に告げて、私は招待状を大事に机の引き出しにしまった。
父の懸念を裏付けるように、王太子との婚約破棄をめぐる噂は王都にますます広がっていた。
その内容は多岐にわたる。例えば、
「セイラ・フォン・アークライトは、実はとんでもない悪事を働いていたらしい」
「いや、実は悪事など存在せず、聖女リリアが王太子を誘惑しているのだ」
「アークライト公爵家は裏で王家を操ろうとして失敗したのでは?」
……などなど、どれも根拠に乏しいものばかり。にもかかわらず、人々は面白がって噂を囁き合う。そんな中で、私の評判については「本当に悪女なのだろうか?」「彼女が何をしたというのだ?」と、むしろ疑問を呈する声のほうが大きかったようだ。かえって、具体的な証拠を提示しないアルベルトやリリアへの不審が高まっているらしく、**「王太子がおかしくなったのでは?」**と囁く者までいるという。
そうして王太子の株が下がる一方、私のもとには妙な手紙が増え始めた。差出人はほとんどが上級貴族の家柄で、内容は**「セイラ様がもし王太子殿下と破談となったのなら、我が家に嫁がれませんか?」**――要するに求婚状だ。
中には、**「王太子殿下の見る目がないのなら、私がその賢さを生かせるようお支えします」といった好意的な文面もあれば、「公爵家との繋がりを深めたい」**という露骨な政治的思惑が透けて見えるものもある。いずれにせよ、私が婚約破棄された今こそがチャンスだと考えているわけだ。自分で言うのもなんだが、王太子候補だったという経歴は、ある種の「箔付け」になってしまうらしい。
「……ただの下心ばかりね」
書斎の机でその手紙の束を眺めながら、私はひとりごちる。たしかに貴族の婚姻は政略が絡むものだし、私もそれを完全に否定する気はない。けれど、今の私にとっては「ただちに次の結婚相手を探すこと」は求めていない。そもそも私は、この機会を利用して自由に生き方を選びたいと考えているのだから。
そっと手紙の束を脇に寄せ、私は深呼吸する。ふと、隣国の第一王子・レオニスの姿が脳裏をよぎる。――数日前、突然訪れてきたあの男性は、「私に興味がある」「隣国へ来ないか」と言った。あれは衝撃的な提案だった。まさか私が「隣国の王妃候補」になる可能性を示唆されるとは……。
だが、いきなり決められることではない。そもそも、お互いほとんど知らない間柄だ。それに、私がレオニスに惹かれないとは言えないまでも、まだ自分の気持ちがはっきり定まっているわけでもなかった。
しかし、一方で**「レオニスなら私の自由を尊重してくれそう」**という期待もある。あの落ち着いた物腰や鋭い洞察は、アルベルトにはなかった魅力だ。もし彼のもとでなら、王妃としての役割をこなしながらも、自由に研究や旅を楽しめるのだろうか……? 少なくとも「悪女だ」と決めつけられることはなさそうだが。
頭の中でぐるぐる思考が渦巻いていると、ノックの音がした。使用人が顔を出し、私に知らせる。
「セイラお嬢様。隣国の王子――レオニス殿下から、茶会への招待状が届いております。どうなさいますか?」
ドキリと胸が高鳴った。ちょうど考えていた矢先のことだ。先日、彼と交わした言葉を思い出す。「近々、茶会を開く予定だ。都合がつけば来てほしい」――あれは本気だったらしい。
私は使用人から招待状を受け取り、さらりと目を通す。そこには確かに、日取りと場所が書かれており、丁寧な言葉で「ぜひいらしてほしい」と誘われている。どうやらこの国で滞在している客殿を借り、レオニス自身が主催する形の茶会になるようだ。出席者は私以外にも数名ほど、王都の上級貴族が招かれるらしいが、その顔ぶれは不明だ。
……ここで私が行くべきか、行かざるべきか。迷う気持ちはあるが、行かずにいても一向に話は進まない。むしろ「知りたい」と思うなら、自分の足で確かめるべきだろう。
「……出席いたします、とお返事してちょうだい」
そう使用人に告げて、私は招待状を大事に机の引き出しにしまった。
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