悪女に仕立てたのはあなたでしょう?〜婚約破棄は歓迎ですわ、後悔なさいませ〜

鍛高譚

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第3章:蠢(うごめ)く陰謀と、私が選ぶ未来

12話

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王太子アルベルトとの婚約破棄、そして“聖女”リリアの急な台頭。
 私の身辺は、以前とは比べものにならないほど慌ただしく変化していた。だが、その変化は私自身が望んだものでもある。王太子妃という重圧から解放され、今こそ自分の道を歩む――そう決心したはずだった。

 しかし、実際に行動に移すのは簡単ではない。なにしろ公爵家の令嬢として、この国を離れるとなれば相応の覚悟が必要だ。隣国エグゼルバ王国の第一王子・レオニスは私の意思を尊重すると言ってくれているが、すべてを投げ打って飛び込むには、あまりにも不透明な点が多すぎる。

 その上、王太子アルベルトとリリアは私を“悪女”としたまま、私の前に再三姿を現そうとはしない。一方で、王都には奇妙な噂が絶えず流れ、**「リリアの『聖女』としての力が果たして本物なのか」**という疑問がちらほらと囁かれはじめていた。

 ――混沌とした状況の中で、私が手探りしながらも前に進もうとする物語の幕が、いま再び開く。


---

 父との対峙、そして私の決断

「セイラ、またあの隣国の王子と会っているそうだな?」

 アークライト公爵家の執務室。
 朝早く、私は父に呼び出されていた。相変わらず机の上には書類が山のように積まれており、その中には王太子との婚約破棄に関する報告や、他の貴族との連絡事項などが混在しているらしい。父はそれらを整理する合間に、私の行動を注意深く見張っているのだ。

「ええ、先日、レオニス殿下が茶会を開かれましたので、招かれたからには失礼のないように行ってまいりました。それが何か問題でしょうか?」

 このところ私は、できる限り落ち着いた態度を保つよう心がけている。先日の茶会では王太子たちが乱入してきて騒ぎかけたが、レオニスのおかげで大事には至らなかった。むしろ、あの一件で改めて「隣国の王子」という存在に大きな安心感を覚えたくらいだ。

 父は眉をひそめ、疲れ切った溜め息を漏らす。

「問題は大ありだ。王太子アルベルト殿下との関係が断たれた今、我が家は国王陛下にどう顔を向ければいいのか分からん。私があれこれ手を尽くしても、あのリリアとやらが王太子の耳元で何を吹き込んでいるのか……とにかく、殿下は我が家に冷たい。おまけに、おまえはその隙に隣国の王子と懇意にしている……周囲がどう思うか想像してみろ」

「……それは、公爵家の威信が下がるとか、そういったことでしょうか?」

 父はうんざりしたように頭を振る。

「威信の問題だけではない。政治的にも好ましくないんだ。もし隣国の王子と懇意になり、そちらへ嫁ぐなどという話になれば、国内の貴族は『アークライト家はもうこの国を見捨てたのだな』と受け止めるだろう。王太子との関係が拗(こじ)れたと思った途端に、隣国の王子に走ったなどと……」

 そこまで言われると、私も言い返しづらい。私自身、まだはっきりした決断を下していないが、レオニスの誘いがある以上、その可能性はゼロとは言えないからだ。

「……お父様は、私にどうしてほしいのですか? このまま何もしないで、王太子殿下の寵愛を取り戻せとでも?」

「それは……正直、今のままでは難しいだろう。アルベルト殿下は完全にリリアを信じきっている。だが、おまえは公爵家の娘だ。もしこのまま外に逃げるようにして隣国へ行ったら、私どもは『国を裏切った』と見なされる恐れがある。そんなことになれば、我が家がこれまで築いてきた信用も地に落ちるだろう」

 要するに、父としては「出て行かれるのは困る」ということだろう。もちろん、その気持ちは理解できる。私が王太子妃になることは、家にとって非常に大きな意味があった。婚約破棄そのものですら公爵家の威信を揺るがしているのに、さらに私が隣国へ嫁ぐとなれば、「アークライト公爵家が王家に反旗を翻した」と思われてもおかしくはない。

 けれど、それでも私にとっては大事な人生だ。今さら「公爵家のために犠牲になれ」と言われても、もう戻る場所はアルベルトのもとにはない。どう説得されようが、あの王太子の下で再び生きるつもりなど、微塵も抱けないのだ。

「お父様。私も、この家を軽んじているわけではありません。アークライト家を支えてくださった皆様には感謝しかありませんし、私が家のために何かできることがあるならやりたいです。でも、王太子妃になる道はもう閉ざされました。私は悪女とされ、彼からも捨てられた。それでも戻れというのは、あまりにも理不尽ではないでしょうか」

 淡々と話す私に、父は苦しそうな顔を浮かべる。きっと私の言い分が分からないわけではないのだろう。ただ、「公爵家の当主」としての義務が、彼を縛りつけている。

「……分かった、これ以上は無理強いせん。だが、頼むからしばらくは軽率な行動は控えてくれ。アルベルト殿下やリリアの真意も定かでない以上、下手に外へ飛び出すのは危険すぎる。もしおまえが“国外脱出”と受け止められるような真似をすれば、この国の貴族社会に波紋を広げることになる」

 苦渋に満ちた声。私が黙っていると、父は手元の書類に視線を落とした。
 ――これが、今の私たち親子の精一杯なのだろう。絶対に国外へ行くなと強要するわけではないが、少なくとも慎重に動け、と。私はうなずき、深くお辞儀して執務室を後にした。

「……分かりました。しばらくは変に騒ぎを起こさないように気をつけます。でも、お父様。私もじっとしているばかりではいられません。必ず、何かしらの形で“自分の進む道”を見つけてみせますから」

 父は答えず、ただ小さくため息を漏らした。私もそれ以上言わず、そっとドアを閉める。いつか、この国を出るにせよ出ないにせよ、まずは王太子とリリアの動向を探る必要がある。もし彼らが近い将来、私にまた何かしらの形で干渉してくるのなら、その時は堂々と立ち向かわねばならない。
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