政略結婚の末に愛されたヒロインは、やがて世界を変える

鍛高譚

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第3章 策略と真実

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  朝の光が公爵家の庭を照らし始める頃、レクシアは自室の窓辺で身支度を整えていた。結婚生活が始まってからというもの、彼女にとっての日々はめまぐるしくもあり、同時に単調でもある。夫であるダリオンの不在が多く、夫婦らしい時間はほとんど持てずにいたが、それでも先日の出来事――厩舎で見た優しい横顔や、書庫で危ないところを助けてくれた一瞬などが頭から離れない。

 それまでは“冷酷な公爵家の嫡男”という噂どおりの距離感ばかりだったダリオンが、ほんの少しずつレクシアに歩み寄るような言動を見せている気がした。深い心の内まではわからないものの、彼の優しさや、不器用ながらも守ろうとしてくれる姿勢を感じるたび、レクシアの胸の中で小さな喜びが芽生えている。
 自分でも驚くほど、今は「ダリオンにもっと近づきたい」という想いが強くなっていた。政略結婚という形で繋がっただけのはずなのに、彼と心を通わせたいと願う自分に気づく。
 その一方で、レクシアはまだ“公爵家の当主夫人”として不十分だと感じていた。日々の社交や使用人たちとのやり取りこそ滞りなくこなしているが、ダリオンが抱える仕事の内容や、公爵家の内情には深く関われていない。彼が背負う責任や苦悩を知ることで、もっと彼を支えられるのではないか――そんな思いが募っていた。

 けれど、ダリオンは自分の仕事についてめったに語ろうとしない。王宮での政務や、領内の管理、あるいは王家への報告など、山ほど業務があることは薄々感じているが、それがどういったもので、どれほど大変かは想像するしかない。
(いつか私にも協力してほしいと言っていたけど……具体的に何を求められているのだろう?)
 ぼんやりとそんな思考をめぐらせながら、レクシアはドレッサーに向かい、軽く髪をまとめる。鏡に映る自分の瞳は、どこか決意に満ちているようでもあった。今まで受け身でいることしかできなかったけれど、少しでもダリオンの力になりたい――そう思うと、自分から動き出す必要があるのではないかと感じる。

 朝食を終えると、執事のオルディスがいつものようにレクシアに声をかけた。
「奥様、本日は領内で催される収穫祭の準備があり、使用人たちも何かと外へ出入りいたします。奥様も、もしご興味があればご見学なさってはいかがでしょうか」
「収穫祭……ですか? この公爵領でもそういう行事があるのですね」
「ええ。領民たちの生活や作物に感謝を捧げる伝統行事でございまして、ダリオン様も例年は顔を出されるのですが、今年は公務と重なっております。もし奥様がお出かけいただけるなら、民の方々もきっと励みになるかと」
 領民の前に公爵家の人間が現れるのは一種の“お披露目”にもなる。レクシアは少し緊張するが、自分がこの土地に嫁いできたからには、領内の行事に関心を持つのは当然の役目だ。
「それはぜひ行かせていただきたいわ。よろしくお願いします」
 そう微笑むと、オルディスもどこか嬉しそうな表情を浮かべて頭を下げた。
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