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第3章 策略と真実
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翌日、レクシアが公爵家の書庫で書簡の整理をしていると、侍女が急いだ様子でやってきた。
「奥様、大変です。エルデ伯爵家の使者の方が、ご面会を求めて来られました」
「えっ……伯爵家から?」
レクシアの実家であるエルデ伯爵家。その家族からの連絡は結婚以来ほとんどなく、たまに母から手紙が届く程度だったので、使者が直接公爵家を訪ねてくるのは珍しい。
「わかりました。私が会います」
そう告げて、レクシアは緊張しながら応接室へ向かった。結婚という大きな使命を果たすため、無理やり嫁がされたというのが現実なので、今更どんな用件だろうと戸惑いが募る。
応接室に入ると、そこには伯爵家の従者らしき男が一人待ち構えていた。恭しく頭を下げ、レクシアに対しては「お久しゅうございます、レクシアお嬢……いえ、奥様」と言葉を慎重に選んでいる。
「急に押しかけてしまい申し訳ありません。伯爵様がぜひ奥様にお伝えしたいことがある、と言付けを仰せつかりまして……」
「父が? いったい、どのような要件なのですか?」
レクシアは伯爵家の財政難がどうなったのか気になりつつ、居住まいを正して尋ねる。すると使者は紙の束を差し出した。
「こちらの書類をご確認いただきたいとのことです。今、伯爵家はあまり芳しくない状況に陥っておりまして……公爵家の力添えをいただけないか、と……」
嫌な予感が胸をよぎる。政略結婚によってエルデ伯爵家の破産は回避されたはずだが、完全に立ち直ったわけではなかったのだろう。書類を受け取り、その場でざっと目を通すと、領地の管理費や王宮への献上品の不足、さらには商会との契約トラブルなど、不穏な単語が並んでいる。
(こんなに問題が山積みだなんて……しかもまた公爵家に頼ろうというの?)
伯爵家が一方的に頼る形になれば、ダリオンの負担になるのは明白だ。それに、レクシア自身も今の立場で安易に実家を援助できるわけではない。公爵家の公的資金と、私的な思惑は完全に区別しなければならないからだ。
「……わかりました。父や伯爵家の関係者にも事情を聞いてみたいので、改めてこちらから返答します。今日はご足労いただき、ありがとうございます」
深く頭を下げる使者を見送りながら、レクシアは胸の奥がざわつくのを感じていた。この書類にある問題が事実だとすれば、伯爵家はますます窮地に陥っているのかもしれない。そんなときに頼れる相手として、公爵家の権力を利用しようとしているのだろうか。
(でも、ダリオン様に相談しても、彼はどう思うだろう……? 私の実家の問題なんて、関わりたくないと思うかもしれない。それでも放っておくわけには……)
悩ましい思考が頭を巡る中、レクシアはふと「ダリオンはまだ帰邸していない」と気づく。いつも通り、王宮に出向いているのだろうか。もし彼にこの話を切り出すなら、どう切り出すべきか。
(結婚前から分かっていたことだけど、伯爵家は私を“切り札”のように使ってきた。財政難を救うための縁談だったし……。でも私は、ダリオン様にこれ以上の負担はかけたくない。どうしたらいいの……?)
思い悩むうちに、あっという間に夕刻の鐘が鳴り、レクシアは侍女と共に夕食の準備へと向かった。しかし、ダリオンはその日も夜遅くまで戻らなかった。
「奥様、大変です。エルデ伯爵家の使者の方が、ご面会を求めて来られました」
「えっ……伯爵家から?」
レクシアの実家であるエルデ伯爵家。その家族からの連絡は結婚以来ほとんどなく、たまに母から手紙が届く程度だったので、使者が直接公爵家を訪ねてくるのは珍しい。
「わかりました。私が会います」
そう告げて、レクシアは緊張しながら応接室へ向かった。結婚という大きな使命を果たすため、無理やり嫁がされたというのが現実なので、今更どんな用件だろうと戸惑いが募る。
応接室に入ると、そこには伯爵家の従者らしき男が一人待ち構えていた。恭しく頭を下げ、レクシアに対しては「お久しゅうございます、レクシアお嬢……いえ、奥様」と言葉を慎重に選んでいる。
「急に押しかけてしまい申し訳ありません。伯爵様がぜひ奥様にお伝えしたいことがある、と言付けを仰せつかりまして……」
「父が? いったい、どのような要件なのですか?」
レクシアは伯爵家の財政難がどうなったのか気になりつつ、居住まいを正して尋ねる。すると使者は紙の束を差し出した。
「こちらの書類をご確認いただきたいとのことです。今、伯爵家はあまり芳しくない状況に陥っておりまして……公爵家の力添えをいただけないか、と……」
嫌な予感が胸をよぎる。政略結婚によってエルデ伯爵家の破産は回避されたはずだが、完全に立ち直ったわけではなかったのだろう。書類を受け取り、その場でざっと目を通すと、領地の管理費や王宮への献上品の不足、さらには商会との契約トラブルなど、不穏な単語が並んでいる。
(こんなに問題が山積みだなんて……しかもまた公爵家に頼ろうというの?)
伯爵家が一方的に頼る形になれば、ダリオンの負担になるのは明白だ。それに、レクシア自身も今の立場で安易に実家を援助できるわけではない。公爵家の公的資金と、私的な思惑は完全に区別しなければならないからだ。
「……わかりました。父や伯爵家の関係者にも事情を聞いてみたいので、改めてこちらから返答します。今日はご足労いただき、ありがとうございます」
深く頭を下げる使者を見送りながら、レクシアは胸の奥がざわつくのを感じていた。この書類にある問題が事実だとすれば、伯爵家はますます窮地に陥っているのかもしれない。そんなときに頼れる相手として、公爵家の権力を利用しようとしているのだろうか。
(でも、ダリオン様に相談しても、彼はどう思うだろう……? 私の実家の問題なんて、関わりたくないと思うかもしれない。それでも放っておくわけには……)
悩ましい思考が頭を巡る中、レクシアはふと「ダリオンはまだ帰邸していない」と気づく。いつも通り、王宮に出向いているのだろうか。もし彼にこの話を切り出すなら、どう切り出すべきか。
(結婚前から分かっていたことだけど、伯爵家は私を“切り札”のように使ってきた。財政難を救うための縁談だったし……。でも私は、ダリオン様にこれ以上の負担はかけたくない。どうしたらいいの……?)
思い悩むうちに、あっという間に夕刻の鐘が鳴り、レクシアは侍女と共に夕食の準備へと向かった。しかし、ダリオンはその日も夜遅くまで戻らなかった。
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