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アルテリア公爵家は王都からやや離れた郊外に、広大な庭園と白亜の城館を構えていた。その門をくぐると、まるで一幅の絵のように手入れの行き届いた薔薇の花壇と噴水が目を引く。さらにその奥には、古の建築様式を取り入れた格調高い邸宅が佇んでいる。この屋敷は、長らくアルテリア公爵家の繁栄と権威の象徴だった。
しかし、そこに生まれ育った私は、今やここでの居場所を大きく揺るがされていた。
私――ジョゼフィーヌ・アルテリアは二十二歳。アルテリア公爵家の第一令嬢として生まれ、幼い頃から“品行方正に”と厳しく育てられてきた。それでも、かつては穏やかな母の笑顔とともに、それなりに安らぎを感じることもできていた。
それが変わったのは、母が病に倒れ、逝去したあの日。公爵――つまり私の父は、母を失った悲しみからなのか、心ここにあらずといった様子で日々を送っていた。そしてその数か月後、私を含む周囲の誰もが予想だにしなかった人物を、新たな妻として迎え入れる。
名をメリンダという。驚くべきことに、彼女はまだ十二歳という年端もいかぬ少女だった。王立学院に通う学生のようなあどけない顔立ち。だが、そんな外見とは裏腹に、彼女はわがままで自己中心的という噂を耳にしていた。
実際、メリンダは当家にやってきた初日から“好き勝手”を始め、父もあれよあれよという間に振り回されてしまったのだ。いま思えば、父自身、母を亡くして完全に心の支えを失っていたのだろう。そこをメリンダに取り入られた、というのが正しい見方かもしれない。
私は母の死から立ち直りきれていない父を責めることなどできず、ただ見守るしかなかった。ただし、メリンダがどれだけ傍若無人に振る舞おうと、「年端のいかない子供だから」と多めに見るように言われてきたのも事実。
だが、そんな甘い扱いは、次第にこの屋敷全体を彼女の思うがままに変えていく。
薔薇の花壇はメリンダが「虫がいや」と言い出せば引き抜かれ、代わりに彼女好みの派手な花が植えられた。食事も好き嫌いが激しく、毎日のように使用人が新しい料理を用意しなければ気が済まない。どれほど浪費になろうとも、公爵は「メリンダの好みに合わせるのだ」と言って聞かない。
さらには、私が慈善活動の一環で開いていた近隣の子供たちへの読み聞かせ会や、使用人への勉強会を「くだらない時間の無駄」と断じ、私に中止を通達してくる。もちろん、それはこの屋敷を仕切る公爵夫人としての“命令”だった。
私はこれまで当主である父の指示に従ってきたし、その背後で糸を引くのがメリンダだということもわかっていた。けれど、どうあっても父はメリンダの言うことに従い、私の意見は聞き入れられない。結果的に、私がこの家で担ってきた役割も、次第に奪われていくように感じられた。
しかし、そこに生まれ育った私は、今やここでの居場所を大きく揺るがされていた。
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それが変わったのは、母が病に倒れ、逝去したあの日。公爵――つまり私の父は、母を失った悲しみからなのか、心ここにあらずといった様子で日々を送っていた。そしてその数か月後、私を含む周囲の誰もが予想だにしなかった人物を、新たな妻として迎え入れる。
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