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第4章 「離婚と決断――仮面夫婦の行方」
しおりを挟む1.静寂の部屋で語り合う夜
「アルタイ、来てくれてありがとう」
深夜、公爵邸の一角にある辺境伯ベガの部屋。
私はソファの端に腰かけ、少しだけ緊張した面持ちで視線を上げる。大きなベッドの脇に置かれた淡いランプの光が、部屋を柔らかく照らしていた。
ベガはまだ右肩に痛みを抱えているらしく、ベッドの横に座したまま私を見つめている。
つい数時間前まで、私たちは公爵家の大宴会で大勢の来客をもてなし、華やかな音楽と舞踏の中を過ごしていたはずだ。だが、いまこの部屋にあるのは、しんとした静寂のみ。
「いえ、そもそも貴方が“宴が終わったら話したい”とおっしゃったのですもの。……体のほうは大丈夫ですか?」
思わず問いかけると、彼は苦笑まじりに肩をすくめる。
「まだ痛むが、さっき治療師に薬をもらったから、今は少し落ち着いている。……お前に迷惑をかけっぱなしで、情けない限りだ」
「そんなことありません。私は、貴方が無理をしなくて済むように手伝いたいだけです」
そう言いながら、私は自分の胸の鼓動が早まるのを感じた。
この数か月、戦地から戻ってきた彼を看病するうちに、私の中には彼への特別な感情が静かに芽生えてきた。それがいま、はっきりと“愛情”という形をとろうとしている。
(けれど、その想いを打ち明ければ、彼はどう反応するのだろう?)
まだ確信が持てないまま、言葉にならないもどかしさが募っていく。そんな私の様子を察したのか、ベガが小さく息を吐く。
「……アルタイ。実はずっと、俺はお前に言わなくてはならないことを先延ばしにしてきたと思っている。戦地に行く前から、お前を“解放”したいと――そう告げたことがあっただろう?」
思い出すのは、あの日の夕刻。ベガが国境へ赴く直前に切り出してきた“離婚しよう”という申し出。
あのとき私は“ここで別れたら私が悪者です”などと皮肉を返したが、内心は複雑な思いでいっぱいだった。
「ええ、覚えています。私も、貴方が本当にそう考えているのなら……と、最初は思っていました。でも……」
「……帰ってきたら、お前はまるで昔からの妻のように、俺を看病してくれた。仮面夫婦だったはずなのに、いつの間にかお互いが相手を必要としている。……俺はそれが、すごく嬉しくて、同時に戸惑ってもいたんだ」
ベガは苦しげな表情を浮かべる。右肩の痛みだけではない、心のうちに渦巻く“言葉にならないもの”をこらえているように見えた。
「だから、いま改めて聞かせてくれ。アルタイ、お前は本当に俺と……離婚したいと思っているのか? それとも、ずっとこのまま……夫婦でいたいと思っているのか?」
正面からの問い。
胸が一瞬にして熱くなり、頭の中が真っ白になる。私自身、はっきりとした結論は出せていない。けれど、彼にここまで問われた以上、曖昧な態度は許されないだろう。
「……私も、正直に言います。かつては“こんな仮面夫婦なら、いっそ離婚したほうが楽”だと思っていました。政治的な結婚に愛など不要だし、貴方も私も束縛されたくない――そう考えていました」
一言ずつ区切るように続ける。
「でも、戦地から戻ってきた貴方を見て、私は心が変わっていったんです。貴方が命を懸けてこの国を守ってきたことを知り、傷を負いながらも自分の役目を全うしようとする姿を目にして、放っておけなくなった。……いえ、それだけじゃありません。私は、貴方と一緒にいると“安心”できるんです」
そこまで言って、私は顔を伏せる。頭の中にいくつもの思いが巡り、どう言葉を紡げばいいのか戸惑った。
すると、ベガがそっと手を伸ばして私の顎を支え、静かに視線を合わせてくる。
「……安心、か」
「はい。私、ずっと貴族の娘として周りに完璧であることを求められてきました。感情を大きく動かすよりは、常に冷静で、家名を汚さないように振る舞うべきだと。そうやって自分の気持ちを抑えるのが“当たり前”だったんです」
「アルタイ……」
「でも、貴方の前では少しだけ素直になれる気がして。たとえ仮面夫婦だと言われても、私はこの関係を手放したくないと思うようになりました。だから、その……」
唇が震え、声が途切れそうになる。だけど、ここで引き返したらいけない。
私は覚悟を決め、彼をまっすぐに見つめ返す。
「私は、離婚したくありません。貴方とずっと一緒にいたい。……もし、貴方が私を嫌になったわけでないのなら、これからは本当の“夫婦”として過ごしてみたいんです」
一気に言葉を吐き出すと、心臓が早鐘を打ち、体が熱くなるのを感じた。
ベガは驚いたように目を見開き、そのまま短い沈黙に沈む。
(断られたら、どうしよう……。やはり“お前を解放したい”という意志は変わらないとしたら……)
そんな不安が胸を締め付けるなか、彼は少し硬い表情をほぐし、ほんのわずかに微笑んだ。
「……ありがとう。お前がそう言ってくれるなんて、正直、想像もしていなかった。俺のほうこそ、お前と離れたくないと思っているよ」
「……え?」
思わず聞き返すと、ベガはさらに言葉を重ねる。
「お前は公爵家の令嬢で、俺なんかよりずっと多くのことを見てきた。王都の貴族社会でも、あれだけの宴を仕切れるほど有能で、美しくて……俺にはもったいないくらいだ。だから、戦地に行くときは“こんな粗野な男に縛られては、お前の人生を潰すかもしれない”と思っていたんだ」
自嘲気味に笑う彼を見て、私は胸が痛む。
確かに彼は戦士として生きてきたため、王都の華やかな社交界には不慣れだ。だが、私はそんな彼の“無骨さ”や“まっすぐさ”にこそ救われている部分が大きい。
「でも、帰ってきてからのお前は、俺の想像を超えて優しくしてくれた。傷の痛みで苦しむ俺に手を差し伸べてくれたし、あの大宴会でも、お前がいなければ俺は最後まで耐えられなかっただろう。……そんなお前を解放したいなんて、今となっては言えなくなってしまった」
「それって……」
「俺も、お前と共にありたいと思っている。……いまさら俺なんかが一緒にいようと言っても、迷惑かもしれんが」
途切れ途切れの言葉には、初めて見せる弱々しさが滲んでいた。それを聞くと、私はむしろ安心して、彼の手をぎゅっと握る。
「迷惑だなんて、そんな。……私がどれほど貴方を必要としているかわかりますか? ずっと傍にいてくれるなら、私は嬉しいに決まっています」
「アルタイ……」
私たちは互いに手を握り合い、しばし言葉を失う。
――もはや“仮面夫婦”ではない。私たちは、少なくとも離婚という道を望んでいない。では、あの約束――「戦争が終わったら離縁する」という話は、どう決着をつければいいのだろう。
「……実はな、離婚の手続きに着手したという正式な書類は、まだ王宮には出していない。だから、何も問題はないはずだ」
「そう……なんですね。よかった」
「だが、公には“辺境伯夫妻は近々離婚するらしい”という噂が出回っている。それについては、王宮も黙視できない。俺たちが正式に“離縁はしない”と意思を示すか、あるいは“別れる”か、どちらかをはっきりさせる必要があるようだ」
確かに、王家や貴族社会にとっては大きな問題だ。公爵家と辺境伯家の結びつきは王国の安定にも関係している。あやふやなまま放置するわけにはいかないだろう。
「そうなると、私たちはどこかで正式に宣言をしなくてはならないかもしれませんね。……“離婚はしません。私たちはこれからも夫婦です”って」
「そうだ。これまでの噂を一掃するためには、公の場で改めて関係を示す必要がある。……もしお前がそれでいいなら、だが」
「もちろんです。むしろ私から望みたいくらい。……ただし、周囲から“ああ、やっぱり政略結婚だから仕方ない”なんて揶揄されるかもしれません。それでもいいの?」
私が問いかけると、ベガはわずかに笑い、肩をすくめる。
「噂好きが何を言おうが構わんさ。お前と俺がどうありたいか――それだけが重要だろう?」
「……そうですね。私も、そう思います」
その一言で、長かった迷いがやっと払拭された気がした。
ベガは私の手をさらに強く握り、そっと引き寄せる。
「アルタイ……お前には感謝してもしきれない。今までも、これからも。俺はお前を大切にしていきたい」
「私も、ベガ様のことを大切にしたいです。だから、これからは……本当の意味で夫婦として、手を取り合っていきましょう」
二人の距離が近づき、互いの息づかいが感じられる。
胸が高鳴るまま、私は目を閉じた。すると、彼はそっと頬に手を添え、ためらいがちに唇を重ねてくる――優しく、けれど確かな意志を感じる口づけだった。
(ああ、私はいま、確かにこの人と結ばれたいと思っている……)
その瞬間、長い迷いが雪解けのように消え去り、心が満たされていく。
私たちはこれまで“仮面”をかぶっていたかもしれない。けれど、それを外し合い、互いに寄り添おうと決めたのだ。
深い静寂の夜。公爵邸の片隅で、ようやく本当の夫婦としての第一歩を踏み出した――そんな予感が胸を温めてくれる。
2.朝の光と新たな始まり
翌朝、私はいつもより早く目覚めた。
けれど、なぜか体は軽い。まだ夜が明けきらない空を見つめながらベッドを出ると、部屋の外から微かな物音が聞こえた。
「リュネ? どうしたの、こんな朝早く」
ドアを開けると、侍女のリュネが驚いたように振り返る。両手には朝食用のトレーが乗せられていた。
「あ、アルタイ様。おはようございます。……その、ベガ様から伝言がありまして、“自分は少し早く王宮へ行くので、アルタイに食事を運んで差し上げてほしい”とのことでした」
「ベガ様が、もうお出かけに?」
昨日まであれほど痛んでいた肩は大丈夫なのだろうか。心配になった私は、急いで身支度を整える。だが、リュネがやんわりと制止するように首を振った。
「治療師の先生も“少しずつ体を慣らすにはちょうどいい”と言っていらっしゃいましたし、そんなに長居はしないそうですよ。王宮への挨拶を済ませたら戻るとのことです」
「……そう。わかったわ。ありがとう、リュネ」
私は微かな寂しさを感じながらも、胸の底には温かいものが宿っていた。
――ベガはもう、私を避けるために突然出て行くような人ではない。“夫婦”としてこれからも一緒にいるのだと、昨夜お互いに確認し合ったばかりなのだから。
「では、朝食をいただきますね。そのあとは少し公爵家の仕事をして、ベガ様の帰りを待ちましょうか」
リュネにそう告げると、彼女は微笑ましげに頷く。
「はい。アルタイ様、何だか今朝はとてもいいご表情をなさっていますね。……昨日の宴会が成功したからでしょうか?」
まるで昨夜の出来事を察しているかのような含みのある言い方に、私は少し頬を赤らめた。
それでも、ごまかすように微笑み返す。
「きっとそうね。……さ、食事を済ませてしまいましょう」
トレーの上には温かいスープとパン、それからフルーツが盛られている。いつもよりも心なしか豪華な気がして、リュネの優しさを感じた。
3.王宮からの報せと“本当の婚姻”
その日の午後。
私は執務室で父のガイド・ヴェルノア公爵とともに、宴会の精算書類や今後の予定を確認していた。すると、王宮から使者が訪れ、何やら書状を持参してきたという報告を受ける。
「陛下からの書状でしょうか? それとも、第三王子イリオン殿下が再度何か……?」
父は使者を応接室へ通すよう指示し、私も同席する。すると、使者は恭しく深い礼を取り、王家の紋章が刻まれた封筒を差し出してくれた。
「こちらは、王宮よりガイド・ヴェルノア公爵殿、並びにアルタイ・ヴェルノア殿へ宛てた書簡でございます」
父が封を切り、中の手紙を読み進める。その表情は途中から微妙に険しくなり、私としても少し嫌な予感を覚えた。やがて読み終えた父は、目を細めて私に視線を投げる。
「……なるほど。王宮としては、そろそろ“辺境伯夫妻の離縁”に関する噂を放置できないと考えているらしい。あの戦乱がひと段落した今こそ、貴族たちの軋轢を解消しておかねばならんということだ」
「そう、ですか……。確かに、王家としては国全体の安定を望んでいるでしょうし……」
私は苦い思いで頷く。
書簡の内容を簡潔にまとめると、こうだ――
先日の大宴会では、辺境伯ベガの凱旋が祝福されたが、一方で“夫妻が離縁する”という噂が根強く残っている。
このまま不明瞭な状態が続けば、一部の貴族が余計な憶測を呼び、国内の政治バランスが不安定になる恐れがある。
よって、辺境伯夫妻が「離縁するのか、しないのか」を明確に表明してほしい。できれば、王宮の場で正式な手続き、あるいは宣言を行うことが望ましい。
「……となると、近いうちにベガ様と私がそろって王宮へ伺って、正式に“離婚はしない”という旨を報告しなくてはならないわけですね」
父は小さく息を吐き、重々しくうなずいた。
「そうなるな。ただ、もし離縁の話が真実であれば、その手続きを即刻進めてくださいという意味合いも込められているだろう。王家にとっては、公爵家と辺境伯家の関係性が曖昧なままなのが困るのだ」
「ええ……でも、私たちはもう決めました。離縁はしません」
きっぱりと言い放つと、父は目を見開いて私を見つめる。
「ふむ。では、本当にベガ殿と添い遂げるつもりなのだな? いいのか、アルタイ? お前はずっと“仮面夫婦”だと割り切っていたように見えたが……」
そこには父としての本音があった。私が政略結婚に巻き込まれ、一時的に不幸になるのではないかと心配していたのだろう。
私は少し笑みを浮かべ、父にしっかりとした口調で告げる。
「もう“仮面”ではありません。私とベガ様は、お互いに必要としているのです。……私も心からそう思えるようになりました」
「そうか。……ならば、これ以上とやかく言うまい。お前の人生はお前のものだ。私は父として、一人の公爵として、お前の決断を尊重するよ」
父はそう言って書簡を折り畳み、使者に向かって「辺境伯夫妻が近いうちに王宮へ伺う用意があるとお伝えください」と指示する。
「はっ、かしこまりました」
使者が退出したあと、父はやや気まずそうに私を見やる。
「……いざとなれば、お前の姉も、ほかの家の者たちも協力してくれるだろう。あまり気負わずに、王宮でしっかりと振る舞うのだぞ」
「はい。大丈夫です」
そう返事をしながら、私は決意を新たにする。
――これでようやく、噂からも解放される時が来る。そのためにも、ベガと二人でしっかり意思を示さなければ。
4.ベガの迷いと幼馴染の忠告
夕刻になり、王宮から戻ってきたベガと合流する。
早速、書簡の件を伝えようとすると、彼はもう既にその話をイリオン殿下から聞いていたらしく、予想通りの反応を示した。
「やはり王家としても、ハッキリとさせたいということか……。俺としては、当然“離婚しない”方向で構わないが」
「ええ、私も同じです。書簡には“近いうちにお二人そろって王宮へ”とありましたけれど、詳しい日時の指定はなかったようですし、こちらから日程を提示すれば大丈夫かと」
「わかった。俺のほうも治療師に相談して、体調を整えておこう。ここぞというときに、また倒れてしまっては示しがつかないからな」
そう言って微笑む彼に、私も安心して笑顔を返す。
――これで私たちは正式に“離婚しない”と表明し、新たなスタートを切れるのだろう。
しかし、その夜、思いがけない人物が公爵邸を訪れた。
応接室に通されたのは、私の幼馴染であるルイーゼ・ディルフェン令嬢。以前に比べてやや落ち着いた雰囲気をまといながらも、どこか慌ただしげだ。
「ルイーゼ、久しぶりね。どうしたの、こんな夜遅くに?」
「ごめんなさい、急に押しかけて。どうしてもアルタイに伝えたいことがあって……」
ルイーゼはチラリとベガを見る。彼女にとっては初めての直接対面ではないが、話しづらそうにしている。私は気を利かせて、彼女をサロンのソファへ促した。
「ルイーゼ、ベガ様は気にしなくていいわ。どうせ私たちはもう隠すことなんてないもの。何か話があるなら、はっきり言ってちょうだい」
「うん……それなら遠慮なく。実はね、今日になって私のもとにも“辺境伯夫妻が離婚をするらしい”という噂がまだ絶えないって話が舞い込んできたの。私もずっと“そんなわけない”って否定していたんだけど、ある男爵夫人が『いや、確かに北方で見初めた女が』なんて執拗に……」
私は思わず吹き出しそうになりながら苦笑する。
――またその話か。まったく懲りない連中だ。ベガも呆れたように首を振っている。
「ルイーゼ、安心して。私たちは既に“離婚しない”と決めたの。それを王宮でも正式に宣言するつもり。……ああ、もちろん本当に北方に女性を連れてきたなんて事実もないわ」
「そう……よかった! それを聞いて安心したわ。いや、私もほら、昔からアルタイのことを大事に思っているから。もし万が一、アルタイがつらい思いをしているようなら、何としてでも力になろうとしていたところだったの」
ルイーゼは心底ホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「でもね、気をつけて。噂話って一度広まると、本当かどうかなんて関係なしに延々と尾を引くものよ。今回のことをすっぱり断ち切るには、何かしら強いアクションが必要だと思うわ。……それこそ、王宮の場で正式に発表するなり、みんなが納得する形を取らないと」
「ええ、まさにそうするつもり。心配してくれてありがとう、ルイーゼ」
「ううん、私も力になれるなら何でも言って。あ、ベガ侯爵様……いえ、ベガ様も、どうかアルタイのことをよろしくお願いします。彼女って、外から見るほど強くないところもあるから」
ルイーゼは顔を赤らめながら、真っ直ぐベガに向かって頭を下げる。
ベガは少し驚いたようだが、真剣なまなざしで彼女に答えた。
「もちろんだ。俺のほうこそ、あいつを頼りにしっぱなしだからな。これからも大切にしていく」
その言葉を聞いて、私は胸が熱くなる。そして、ルイーゼは嬉しそうに笑った。
(大丈夫。私たちはもう大丈夫。周囲が何を言おうと、私とベガ様がどうありたいかをはっきり示せばいいのだから)
そう改めて心に刻む。
5.王宮での宣言――噂との決着
数日後。
私とベガは、王宮にて公式の場を用意され、貴族たちの前で“離婚の噂の真否”について表明することになった。
場所は王宮の一角にある小規模なホールで、王族や重臣、そして一部の貴族代表者が集まる形だ。公の大事というよりは、国内の混乱を未然に防ぐためのセレモニー的な意味合いが強い。
「ベガ様、肩の具合は?」
「うん、治療師にかなり診てもらったから、問題ない。無理をしないよう心がけるさ」
私たちは控室で衣装を整え、互いの最終確認をする。私は今日のために用意した淡いグレーのドレス、ベガは濃紺の礼服を身に纏っている。ともに華美すぎず、かといって地味すぎない絶妙なバランスだ。
やがて、案内役の侍従が「よろしいですか」と声をかけてきた。
私たちは顔を見合わせ、そっとうなずく。手を繋ぐわけにはいかないが、歩調を揃えて廊下を進む。
ホールの扉が開け放たれると、そこには王家の代理として第三王子イリオン殿下、そして重臣の何名かが並び立ち、私たちを出迎えていた。
周囲には貴族代表たちもいて、互いにひそひそと囁き合っている。――要するに、今日ここで“辺境伯夫妻”がどのように結論づけるのかを見守っているのだ。
「よく来てくれた、アルタイ・ヴェルノア公爵令嬢。ベガ・アルシェール辺境伯侯爵。……今日は、そなたたちが国中に流布されている噂を払拭するための場である。遠慮なく話してくれ」
イリオン殿下の言葉に合わせて、私とベガはそれぞれ礼をとる。
まずは私が前に進み、一度会釈してから朗々と話し始めた。
「皆様、ご多忙の中お時間をいただき感謝いたします。私、アルタイ・ヴェルノア公爵令嬢より申し上げます。――“私とベガ・アルシェール辺境伯侯爵は、離縁する意思は一切ございません”」
はっきりとそう宣言した瞬間、場内がざわつく。
ある者は「やはりそうか」と安堵の表情を浮かべ、またある者は「えっ、結局しないのか」という驚きを隠せない様子だ。
噂を信じていた人々は、この場で一気に肩透かしを食らった格好になるのだろう。
「……なるほど。では、先に広まっていた“離婚の噂”は、まったく根拠のない風説だったというわけか?」
重臣の一人が問い質す。
私は落ち着いた声で続ける。
「はい。もとはといえば、私たち夫婦が互いに干渉しない関係を望んでいたことが原因で、不仲だと勘違いされた面もあるかと思います。ですが、既に私どもは今後も夫婦として生きていくことを選択しております。……あまり大げさに申し上げても仕方ありませんが、簡潔に言うなら“誤解”です」
「ふむ……公爵家も、その方向で問題ないのだな?」
「はい、わたくしの父ガイド・ヴェルノア公爵も“二人が共に歩むならば、その意思を尊重する”と申しております」
これで私の言葉は終わりだ。次に、ベガが一歩前へ出る。表情に緊張の色はないが、決意を湛えたまなざしがうかがえた。
「辺境伯ベガ・アルシェール侯爵より、補足させていただきます。――私は先の戦乱で負傷し、一時は生きて戻れないかもしれないと考えていた。それゆえ、アルタイを“自由にしてやりたい”とも思ったのは事実だ。だが、いまこうして無事に王都に戻り、彼女と向き合った結果、“彼女を手放したくない”という気持ちが強くなった」
会場の人々が息を呑むように静かになる。
「つまり、私が最初に“妻を解放したい”などと言ったことが、一人歩きして“辺境伯夫妻は離縁必至”という噂につながったのかもしれない。……しかし、これはもう過去の話だ。私は彼女を愛し、これからも夫婦として支え合いたいと考えている。噂を信じてくださった方々には面目ないが、どうか了承してほしい」
堂々たる宣言。周囲に広がるのはどよめきにも似た囁きであり、それはやがて静まり返る。
第三王子イリオン殿下はうっすらと笑みを浮かべて、二人の言葉を聞き届けると、拍手を一つ打ち鳴らした。
「よくわかった。貴公らの意志をしかと聞き届けた。――辺境伯夫妻は離縁せず、共に歩む。そのように王家としても公式に認めよう。……噂好きの諸公も、これで納得されたことと思うが、いかがかな?」
そう投げかけられた貴族代表たちは、渋々と首を縦に振ったり、安堵のため息をついたりしている。
一方、先日の宴会で私を執拗に問い詰めた男爵夫人の姿もちらりと見えるが、彼女はばつが悪そうに視線を逸らしていた。
「では、これにて辺境伯夫妻の件は終わりとしよう。……貴公らの今後に幸多からんことを」
イリオン殿下の宣言とともに、一同は儀礼的に拍手を送り、王宮での“噂裁定”は幕を下ろす。
6.新たな同盟と、帰り道
こうして、正式に“離婚はしない”と公言した私たちは、王宮の小ホールから出るとき、大勢の人々から祝福の言葉をかけられた。
――だが、その中には本当に好意的な者もいれば、半ば興味本位で声をかける者もいる。相変わらず貴族社会の裏表を感じさせる光景だ。
「アルタイ様、本当によかったですね。やはりベガ様とお似合いですわ」
「辺境伯様、今後とも北方の守りを頼みますよ。公爵家との良好な関係が国の安定に不可欠ですからね」
さまざまな言葉を受け流しつつ、私たちは王宮の廊下を進む。
すると、途中である人物が近づいてきた。相手は武官の制服を着ており、厳めしい面構えをしているが、ベガを見つけると隠せない笑顔を浮かべた。
「おお、ベガ殿……いや、辺境伯閣下。ご無事で何よりです。噂は耳にしていましたが、ようやく落ち着かれたようですね」
「ジェラルド卿……久しぶりだな。まだ王都にいたのか」
ベガとジェラルド卿は北方戦線で共に戦った間柄のようで、互いの無事を喜び合っている。私は軽く会釈して「はじめまして、アルタイ・ヴェルノアと申します」と挨拶した。
「お会いできて光栄です。辺境伯夫妻の件は、実は私も気が気じゃありませんでした。ベガ殿が妻を捨てるなど、あり得ない話だと思っていましたから」
「……捨てるって、そんな物騒な」
私が苦笑すると、ジェラルド卿は「ははは」と豪快に笑う。
「すみません、言葉が過ぎました。しかし、それは多くの兵士たちも同じ思いだったはずですよ。ベガ殿がそんな冷たい男だとは、誰も思っていません。今後は辺境伯夫妻として、北方と王都を上手く連携していただけるとありがたい。……もちろん、私も協力を惜しみませんよ」
貴族社会の“噂好き”とは打って変わって、戦士たちの仲間意識は単純明快だ。私は少し感動しながら微笑んだ。
「ありがとうございます。北方の地はまだまだ安泰とは言えないでしょうし、公爵家としても支援は続けます。……これからも、ベガ様を支えていただけると嬉しいですわ」
「無論です。辺境伯閣下の背中は私たちが守りますから、奥方もどうか安心を」
そう言ってジェラルド卿は軽く敬礼し、去っていく。
ベガはどこか照れくさそうに舌打ちまじりの溜息を漏らす。
「ったく……戦友というのは、時に気恥ずかしい言葉をさらりと口にするな。まるで俺が皆に当たり前に慕われているような言い草だ」
「実際、慕われているんじゃないですか? 私にもわかります。貴方は誰よりも危険な前線に立って、仲間や領民を守ろうとする。そんな人が、皆に尊敬されないわけがないでしょう」
私がさらりと言うと、ベガは少しばかり赤面し、黙り込んでしまう。
――そんな彼の様子が可愛らしくて、私も自然と笑みがこぼれる。
(これからは、こうして素直な気持ちを伝え合いながら、共に歩んでいきたい)
穏やかな思いを胸に、私たちは王宮を後にした。噂に振り回され続けてきた時間はもう終わったのだ。
7.本物の夫婦として
翌朝、公爵邸の大広間。
王宮での正式な宣言を終えた私たちのもとには、あの宴会に出席していた人々や、王都に住む貴族たちから、祝福やお祝いの品が次々と届いていた。
「アルタイ様、こちらはローゼン男爵夫人からの贈り物で、メッセージカードが添えられております」
侍女のリュネが可愛らしい花束を運んでくる。淡いピンクのバラが美しく、柔らかな香りが広がった。
「まあ、ありがたいわね。男爵夫人には前にお世話になったし……。“噂が本当ではなくて安心した。お二人がこれからも幸せであるよう祈っている”……ですって」
「やっぱり周囲は“本当に離婚しないんだ”とわかると、雰囲気が変わりましたね。あれほど面白おかしく噂を広めていた人たちも、手のひらを返したように祝福ムードです」
リュネの言葉に、私も少し苦笑する。
――それが貴族社会というもの。ときに薄情で、ときに打算的。しかし、私たちはそれに過度に振り回されず、自分たちの道を進めばいい。
「そういえば、ベガ様は?」
「はい、今朝は治療師のところへ行かれたあと、図書室で北方の資料を整理しておられるようです。領地の復興計画を少しずつまとめていらっしゃるとか」
「そう……彼らしいわね。私も落ち着いたら手伝いに行ってみるわ」
私は使用人たちに贈り物を整理するよう指示を出して、大広間を後にした。
向かう先は、ベガがいるという公爵邸の図書室。天井が高く、壁一面が書棚で覆われている壮麗な空間だ。私自身、父の命で公文書や歴史書などを調べることはあっても、ここでゆっくり過ごす機会はそう多くはない。
ドアを開けると、奥のほうでベガが大きな机に向かって書類に目を通していた。右肩をかばいながらも、ペンを走らせている様子。
私は足音を立てないよう注意して近づき、声をかける。
「ベガ様、何をしているんですか?」
「おっと……驚かせるなよ。ああ、アルタイか。見ての通り、領地の復興計画をまとめていたんだ。戦乱が収まったとはいえ、まだ補修が必要な砦や村は多い。さっそく王宮の助成金や公爵家の支援が得られそうだから、その使い道を考えていた」
彼は書類を見せてくれる。細かい地図が描かれ、砦の位置や街道、被害を受けた村の情報が整理されていた。そこには“荒廃度”や“優先度”などの評価項目も細かく書き込まれている。
私はそれを眺めながら、感心してしまう。
「すごいわ……。私、北方がそこまで広範囲に被害を受けているとは正直想像以上かも。でも、こうして洗い出して、優先度を振り分ければ動きやすいわね」
「お前にも手を貸してほしい。公爵家は財政面で大きな力を持っているし、俺には経理や細々した事務よりも実地の監督のほうが向いているからな。……お前なら、これらの資金や物資をどう配分するべきか、うまく考えられるだろう?」
そう言ってベガは頼もしげな眼差しを向けてくる。私は胸が温かくなり、素直に頷いた。
「もちろんです。私も公爵令嬢として、できることは何でもしたい。北方の領民のためでもあるけれど、何より貴方の力になりたいから」
「ありがとう。助かるよ、本当に」
そのまま、机のそばに椅子を引き寄せ、並んで書類を読み込む。
北方では厳しい寒さを利用した産業がある一方、移動の難しさが課題になっている。これを解消するには街道や橋を整備する必要があるが、それには多額の資金や人手が必要だ。王宮の支援を仰ぎつつ、公爵家が一部負担することが望ましい――などと書いてある。
「なるほど……では、まずは大きな街道の修復を優先して、周辺の村を繋げることが先決かもしれないわね。自然災害も多い地域だし、橋の架け直しも含めて費用を試算する必要があるわ」
「そうだな。あと、防衛ラインの砦の補強も同時に進めたい。戦争は終わったが、蛮族の脅威が完全になくなったわけではないから、守りを怠るわけにはいかない」
「公爵家が騎士団を派遣できれば、領民の安心感も高まるかもしれないわね。少なくとも、復興期間は定期巡回があったほうが……」
私たちは二人で意見を出し合いながら、書類へメモを書き込んでいく。まるで息の合ったチームワークのようで、これが夫婦の共同作業というものなのだと実感する。
昔の私は「政略結婚なんてただの形」と思っていた。だが、こうして一緒に問題を解決しようと動く姿は、まさに“仲間”であり“パートナー”であり――“愛する人”でもあるのだ。
(こんな幸せが本当に手に入るなんて、少し前までは思いもしなかった。あのとき離婚していれば、私は一生この感覚を知らずに過ごしていたかもしれない)
静かに胸が熱くなる。何げなく横を向くと、ベガも少し照れくさそうに笑っていた。
「アルタイ、ありがとう。お前がいるから、こんなにスムーズに考えをまとめられる。俺一人じゃ絶対に無理だった」
「……私こそ、貴方がいてくれるからやり甲斐を感じるわ。これからも、ずっと一緒にがんばりましょうね」
「もちろんだ。――もう二度と、お前を手放す気はない」
その言葉が何よりも嬉しかった。
私は指先に力を込め、そっと彼の手に触れる。気づいたベガが私を見つめ返し、短く唇を重ねた。
外の天気は肌寒い冬だが、図書室の中には私たち二人だけの温かい空気が流れている。
8.エピローグ――離れられない二人
それから数日後。私たちは正式に「辺境伯夫妻として歩み続ける」ことを宣言し、王都の社交界にもその決断が周知されるようになった。
“仮面夫婦”と揶揄されることもなくなり、むしろ「勇敢な辺境伯と知性的な公爵令嬢の美しい夫婦」と称賛される場面が増え始めている。
少々気恥ずかしいが、やっと周囲の雑音を気にせず歩めるようになったのは素直に喜ばしい。
「アルタイ様、ディスカール男爵夫人がお茶会に招待したいと仰っておりますよ。以前は少し嫌味を言われましたが、今度は“辺境伯夫妻にぜひ来ていただきたい”とのことで……」
侍女のリュネが微笑ましげに報告してくる。
男爵夫人といえば、あれほど噂話に執心していた張本人のひとりだが、今では態度を変えてへりくだっているらしい。貴族社会とは、まことに移り気なものだ。
「そう。まあ、今度は嫌がらせじゃなくて“社交界の主役としてお招きしたい”ってことかしらね。……ベガ様が嫌でなければ、顔を出すのもやぶさかではないわ」
「その辺りはベガ様のお気持ち次第かと。最近は書類仕事や北方とのやり取りでお忙しそうですし、今までのように“社交の場は苦手だから行かない”とは言わなくなりましたけど……」
「きっと一緒に来てくれるわよ。あれでいて、私を一人にするのをあまり好まないのよ。……ふふっ」
そう言いながら、思わず微笑む。
私が社交界に出るとき、ベガは可能な範囲で同行してくれるようになった。以前は“煩わしい”と言っていたはずなのに、今では“お前を一人で行かせるのは心配だから”と付き添いを申し出る。
その不器用な優しさが愛おしい。
そうこうしているうちに、図書室のほうからベガがやってくる。治療師からは「まだ過度の運動は慎むように」と言われているが、肩の傷もかなり快方に向かっているらしく、歩く姿に不安はない。
「アルタイ、そろそろ出かける準備はいいか? 父上……じゃなかった、公爵殿が呼んでいる。北方支援の具体的な話をするから、一緒に聞いてほしいそうだ」
「ええ、わかりました。もう行きますね。……ところでベガ様、ディスカール男爵夫人が茶会に招待してくださるそうですけれど、一緒に行ってもらってもいいですか?」
「茶会か……。俺なんかが行って場が持つのか?」
「大丈夫よ。貴方が横にいてくれるだけで、私も心強いもの。……嫌なら無理は言いませんけど」
「……いや、行くよ。お前を一人にさせるのは嫌だからな」
そう言って横を向くベガの耳が、ほんのり赤く染まっている。
私も思わず頬がゆるむ。
「ありがとう、ベガ様。じゃあそのあと、街中を散策してみませんか? 最近は寒いけど、暖かいマントを羽織れば大丈夫でしょうし、久しぶりに王都の風景をゆっくり見て回りたいの」
「……ああ。いいな、それ。俺もそろそろ室内ばかりじゃ退屈していたところだ」
私たちはそう言い合って微笑み、揃って歩き出す。
――もう二度と離れることはない、と固く誓った二人。仮面夫婦だったはずなのに、気づけばお互いに愛し合い、手放せない存在になっていた。
辺境伯ベガ・アルシェールと公爵令嬢アルタイ・ヴェルノア。
この先も、戦乱が再び起きるかもしれないし、貴族社会の陰謀に巻き込まれるかもしれない。それでも、私たちはきっと乗り越えられるだろう。
(だって、こんなにも“一緒にいたい”と思える相手なんだから)
歩調を揃え、廊下の先へ進む。その先には、どんな未来が待っているのだろう――。
いまはただ、この人と共に生きていける幸せをかみしめながら、一歩ずつ前へ進んでいこう。
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