36 / 40
第36話 本番間近 カイルの胸に芽生える焦りと嫉妬
しおりを挟む
第36話 本番間近 カイルの胸に芽生える焦りと嫉妬
収穫祭の儀式当日まで、あと三日。
リオナはセドリック直伝の「リズム学習法」でみるみる上達し、
祝詞も所作も、あれだけ苦戦していた右足問題までも克服しつつあった。
レアナ侍女長は驚嘆を隠さず言った。
「リオナ嬢。あなた、まるで別人のようです」
「えへへ…殿下のステップが分かりやすかったから」
リオナは嬉しそうに笑う。
その横で、カイルは複雑な心境だった。
セドリックとリオナが並んでステップを踏む姿。
祝詞を唱えながら、くるりと回る姿。
まるで二人だけの世界があるように見えて――
胸が、きゅっと痛む。
(ああもう…何をイライラしてるんだ、俺は…)
レアナは冷静に状況を評価する。
「殿下は昔から舞の才がありましたからね。教えるのも上手です」
「そうですね…リオナ嬢との相性も良いのかもしれません」
その言葉に、カイルの眉がわずかに動く。
相性が良い。
それは仕事の話のはずなのに、
心の奥をざらりと引っかいた。
セドリックとリオナは笑顔で訓練を続けていた。
リオナ「こう? 合ってる?」
セドリック「いいぞ。姿勢もきれいだ」
リオナ「やった…!」
まるで兄妹のように見えるが、
リオナがステップにつまずきそうになると、
セドリックは迷いなく手を差し伸べた。
その距離は――少し近い。
「……」
カイルは小さくため息をついた。
レアナが声をかける。
「カイル卿。厳しい顔をしていますよ?」
「い、いや…別に…」
「もしかして、殿下とリオナ嬢の距離が気になりますか?」
「っ……いや、だから別に!」
否定するほど、図星だと理解される。
レアナはほんの少しだけ口元を緩めた。
「心配しなくても、リオナ嬢はあなたを信頼しています」
「……信頼、だけではないと…嬉しいのですがね」
思わず本音が漏れ、カイル自身が驚いた。
リオナのことが好きだ。
それに気づいてから、胸の奥が不安でいっぱいだ。
気持ちを伝えたい。
でもタイミングが掴めない。
そして――
セドリックの存在が、その焦りを強くする。
そんな中。
「カイル!」
リオナが駆け寄ってきた。
さっきまでセドリックと笑っていた顔が、今はカイルだけを見つめている。
「見て! 私、祝詞を通しで言えたの! 一度も噛まずに!」
「それは…すごいな」
本当に嬉しそうだ。
そして、自分に一番に報告しに来てくれた。
それだけで胸があたたかくなる。
「カイルのおかげでもあるよ。最初に基本を教えてくれたから」
「リオナ…」
「それにね、カイルが見てると頑張れるの」
一瞬、時間が止まる。
リオナは無邪気に笑った。
「ほら、昨日も私、間違えたけど…
カイルが優しく言ってくれると、落ち着くんだよ」
その言葉は、どんな宝石よりも眩しかった。
胸が熱くなり、カイルは目をそらす。
「そ、そうか…」
顔が赤いのを隠せていない。
リオナは首を傾げる。
「カイル、体調悪いの? 顔赤いけど…?」
「な、なんでもない!」
あわてて背を向けると、後ろから小さな声でつぶやかれた。
「カイルって不思議。私、カイルといると落ち着くし…なんか…あったかい」
その言葉が胸を貫いた。
(リオナ…それ以上言われたら…本当に…)
告白してしまいそうだ。
だが、今は儀式前。
彼女に余計な負担をかけるわけにはいかない。
カイルは心を落ち着けるよう、ゆっくり息を吐いた。
そこへ、またもやタイミングよくセドリックが割り込んでくる。
「おおっと、カイル。ぼんやりしてるなら交代だ。
次は魔法陣の歩法の確認をするぞ、リオナ嬢」
「はい!」
リオナはすぐセドリックのほうへ向かってしまう。
カイルはため息をついた。
(殿下…どこまで俺の邪魔をする気ですか…)
レアナが横で呆れ顔をする。
「カイル卿。あなた、嫉妬深いですね」
「……否定できません」
レアナは微笑んだ。
「だったらさっさと伝えればいいのです。
リオナ嬢は鈍いですから、待っていると殿下に先を越されますよ?」
「そ、それは困る…!」
カイルの声が上ずる。
レアナは肩をすくめた。
「では頑張ってください。儀式の後が勝負だと思いなさい」
儀式の後。
本番まであと三日。
カイルの胸には、焦りと決意が混ざり合った感情が渦巻いていた。
(絶対に…伝える。もう迷わない)
リオナの笑顔を見つめながら、
カイルは静かに拳を握った。
収穫祭の儀式当日まで、あと三日。
リオナはセドリック直伝の「リズム学習法」でみるみる上達し、
祝詞も所作も、あれだけ苦戦していた右足問題までも克服しつつあった。
レアナ侍女長は驚嘆を隠さず言った。
「リオナ嬢。あなた、まるで別人のようです」
「えへへ…殿下のステップが分かりやすかったから」
リオナは嬉しそうに笑う。
その横で、カイルは複雑な心境だった。
セドリックとリオナが並んでステップを踏む姿。
祝詞を唱えながら、くるりと回る姿。
まるで二人だけの世界があるように見えて――
胸が、きゅっと痛む。
(ああもう…何をイライラしてるんだ、俺は…)
レアナは冷静に状況を評価する。
「殿下は昔から舞の才がありましたからね。教えるのも上手です」
「そうですね…リオナ嬢との相性も良いのかもしれません」
その言葉に、カイルの眉がわずかに動く。
相性が良い。
それは仕事の話のはずなのに、
心の奥をざらりと引っかいた。
セドリックとリオナは笑顔で訓練を続けていた。
リオナ「こう? 合ってる?」
セドリック「いいぞ。姿勢もきれいだ」
リオナ「やった…!」
まるで兄妹のように見えるが、
リオナがステップにつまずきそうになると、
セドリックは迷いなく手を差し伸べた。
その距離は――少し近い。
「……」
カイルは小さくため息をついた。
レアナが声をかける。
「カイル卿。厳しい顔をしていますよ?」
「い、いや…別に…」
「もしかして、殿下とリオナ嬢の距離が気になりますか?」
「っ……いや、だから別に!」
否定するほど、図星だと理解される。
レアナはほんの少しだけ口元を緩めた。
「心配しなくても、リオナ嬢はあなたを信頼しています」
「……信頼、だけではないと…嬉しいのですがね」
思わず本音が漏れ、カイル自身が驚いた。
リオナのことが好きだ。
それに気づいてから、胸の奥が不安でいっぱいだ。
気持ちを伝えたい。
でもタイミングが掴めない。
そして――
セドリックの存在が、その焦りを強くする。
そんな中。
「カイル!」
リオナが駆け寄ってきた。
さっきまでセドリックと笑っていた顔が、今はカイルだけを見つめている。
「見て! 私、祝詞を通しで言えたの! 一度も噛まずに!」
「それは…すごいな」
本当に嬉しそうだ。
そして、自分に一番に報告しに来てくれた。
それだけで胸があたたかくなる。
「カイルのおかげでもあるよ。最初に基本を教えてくれたから」
「リオナ…」
「それにね、カイルが見てると頑張れるの」
一瞬、時間が止まる。
リオナは無邪気に笑った。
「ほら、昨日も私、間違えたけど…
カイルが優しく言ってくれると、落ち着くんだよ」
その言葉は、どんな宝石よりも眩しかった。
胸が熱くなり、カイルは目をそらす。
「そ、そうか…」
顔が赤いのを隠せていない。
リオナは首を傾げる。
「カイル、体調悪いの? 顔赤いけど…?」
「な、なんでもない!」
あわてて背を向けると、後ろから小さな声でつぶやかれた。
「カイルって不思議。私、カイルといると落ち着くし…なんか…あったかい」
その言葉が胸を貫いた。
(リオナ…それ以上言われたら…本当に…)
告白してしまいそうだ。
だが、今は儀式前。
彼女に余計な負担をかけるわけにはいかない。
カイルは心を落ち着けるよう、ゆっくり息を吐いた。
そこへ、またもやタイミングよくセドリックが割り込んでくる。
「おおっと、カイル。ぼんやりしてるなら交代だ。
次は魔法陣の歩法の確認をするぞ、リオナ嬢」
「はい!」
リオナはすぐセドリックのほうへ向かってしまう。
カイルはため息をついた。
(殿下…どこまで俺の邪魔をする気ですか…)
レアナが横で呆れ顔をする。
「カイル卿。あなた、嫉妬深いですね」
「……否定できません」
レアナは微笑んだ。
「だったらさっさと伝えればいいのです。
リオナ嬢は鈍いですから、待っていると殿下に先を越されますよ?」
「そ、それは困る…!」
カイルの声が上ずる。
レアナは肩をすくめた。
「では頑張ってください。儀式の後が勝負だと思いなさい」
儀式の後。
本番まであと三日。
カイルの胸には、焦りと決意が混ざり合った感情が渦巻いていた。
(絶対に…伝える。もう迷わない)
リオナの笑顔を見つめながら、
カイルは静かに拳を握った。
1
あなたにおすすめの小説
白狼王の贄姫のはずが黒狼王子の番となって愛されることになりました
鳥花風星
恋愛
白狼王の生贄としてささげられた人間族の第二王女ライラは、白狼王から「生贄はいらない、第三王子のものになれ」と言われる。
第三王子レリウスは、手はボロボロでやせ細ったライラを見て王女ではなく偽物だと疑うが、ライラは正真正銘第二王女で、側妃の娘ということで正妃とその子供たちから酷い扱いを受けていたのだった。真相を知ったレリウスはライラを自分の屋敷に住まわせる。
いつも笑顔を絶やさず周囲の人間と馴染もうと努力するライラをレリウスもいつの間にか大切に思うようになるが、ライラが番かもしれないと分かるとなぜか黙り込んでしまう。
自分が人間だからレリウスは嫌なのだろうと思ったライラは、身を引く決心をして……。
両片思いからのハッピーエンドです。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました
黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。
激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。
王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。
元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。
期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか?
そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは?
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※他サイトからの転載。
『君だから、恋を知った 』――冷徹殿下×天然令嬢のじれ甘ロマンス――
だって、これも愛なの。
恋愛
冷徹と呼ばれる殿下と、おっとり天然な令嬢。
恋をまだ知らない彼女は、ただ彼を「優しい人」と信じていた。
けれど殿下は――彼女が気になって、心配で、嫉妬して、もだもだが止まらない。
すれ違い、戸惑い、やがて気づく初めての恋心。
星空の下で結ばれる両想いから、正式な婚約、そして新婚の日常へ。
じれじれの甘やかしを、小さな出来事とともに。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢ミュールは、重度のシスコンである。「天使のように可愛い妹のリナこそが、王妃になるべき!」その一心で、ミュールは自ら「嫉妬に狂った悪役令嬢」を演じ、婚約者であるキース王太子に嫌われる作戦に出た。
計画は成功し、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡されるミュール。「処罰として、王都から追放する!」との言葉に、これで妹が幸せになれるとガッツポーズをした……はずだったのだが?
連れて行かれた「追放先」は、王都から馬車でたった30分の、王家所有の超豪華別荘!?
しかも、「君がいないと仕事が手につかない」と、元婚約者のキース殿下が毎日通ってくるどころか、事実上の同棲生活がスタートしてしまう。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる