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第2章:優雅な自由生活と新たな婚約者
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ヴァレンティン公爵が帰ったあと、わたくしは夜の時間を自室で過ごしていました。手元のランプの灯りを頼りに、読みかけの本をめくりつつ、今日の出来事を思い返してみます。婚約……それも、“白い結婚”の約束。まさか、王太子との破談後すぐにこんな展開になるとは想像もしていませんでした。
「王太子妃なんかよりは、ずっと気楽かもしれませんが……」
ぽつりと呟いて、ページをめくります。本当なら、こうして何の気兼ねもなく読書に没頭できる時間がわたくしにとって何よりの幸せ。けれど、その陰で王太子と義妹マリアンヌは、どんな風に社交界で振る舞っているのでしょう。すでに噂では「王太子はリュシエンヌを捨てて、妹を選んだらしい」などと盛んに言われているとか。義妹のマリアンヌは王太子にべったりと取り入り、さも「わたくしこそが正統な婚約者でございます」と言わんばかりの態度を見せているのだそうです。
(……まあ、わたくしには関係のないことですわ。勝手にやっていればいいんですの)
そう頭を切り替え、再び本の文字を目で追い始めます。物語の世界に没頭していると、嫌なことや面倒なことから一瞬でも逃れられる――これは、わたくしにとって大切なひとときです。
ところが、今夜はどうも文字が頭に入ってこない。いつもならすぐに物語に引き込まれるのに、なぜか気もそぞろになり、先ほどのヴァレンティン公爵の顔や声が脳裏をよぎってしまいます。あの目つき、あの冷静な仕草、そしてはっきりした物言い……。
(変な人。でも、変じゃないかもしれない……)
今まで出会ったどの貴族男性とも、まるで違うタイプです。どこか計算づくのように見えて、その実、自分が欲しいと思ったものには一切迷いなく手を伸ばす強引さを持っている――。わたくしが彼をどう理解すればいいのか、まだよくわかりません。けれど、少なくとも「わたくしの自由を守る」という点については本気で動いているように見えました。
(まあ、利用価値があるからこそ、大事に扱おうとしているだけかもしれませんけど)
自嘲気味に笑って、わたくしは再び本のページに視線を落とします。――それでもいいのです。利用価値というのは、相手を互いに尊重することと表裏一体ですから。彼もわたくしを利用しようとしているのなら、わたくしも彼を“自由確保の盾”として利用させてもらう。そう割り切ることが、今回の白い婚約における最善の道でしょう。
それにしても、いざ婚約を公表するとなったら、いったいどれほどの騒動が起きるのか……。わたくしは息を吐きながら、頭を横に振りました。想像するだけで疲れてしまいそうです。
「まあ、考えても仕方ありませんわ。なるようになるのです」
自分にそう言い聞かせるようにして、本を閉じます。部屋の窓から夜空を見上げれば、雲の合間にちらちらと星が瞬いていました。明日こそは、朝までぐっすり寝て、美味しい焼き菓子を食べながら気ままに過ごして――そうやって一日が終わるはずだったのに、近い将来、その生活が少しずつ変わる可能性もあるのだと考えると、複雑な心境です。
(ヴァレンティン公爵が約束を守ってくれるなら、そんなに変わらない……はず。そう信じておきましょう)
そう思いなおし、わたくしはランプの火を消してベッドに潜り込みました。今夜も、ぐっすりと眠れるといいのですが……。
「王太子妃なんかよりは、ずっと気楽かもしれませんが……」
ぽつりと呟いて、ページをめくります。本当なら、こうして何の気兼ねもなく読書に没頭できる時間がわたくしにとって何よりの幸せ。けれど、その陰で王太子と義妹マリアンヌは、どんな風に社交界で振る舞っているのでしょう。すでに噂では「王太子はリュシエンヌを捨てて、妹を選んだらしい」などと盛んに言われているとか。義妹のマリアンヌは王太子にべったりと取り入り、さも「わたくしこそが正統な婚約者でございます」と言わんばかりの態度を見せているのだそうです。
(……まあ、わたくしには関係のないことですわ。勝手にやっていればいいんですの)
そう頭を切り替え、再び本の文字を目で追い始めます。物語の世界に没頭していると、嫌なことや面倒なことから一瞬でも逃れられる――これは、わたくしにとって大切なひとときです。
ところが、今夜はどうも文字が頭に入ってこない。いつもならすぐに物語に引き込まれるのに、なぜか気もそぞろになり、先ほどのヴァレンティン公爵の顔や声が脳裏をよぎってしまいます。あの目つき、あの冷静な仕草、そしてはっきりした物言い……。
(変な人。でも、変じゃないかもしれない……)
今まで出会ったどの貴族男性とも、まるで違うタイプです。どこか計算づくのように見えて、その実、自分が欲しいと思ったものには一切迷いなく手を伸ばす強引さを持っている――。わたくしが彼をどう理解すればいいのか、まだよくわかりません。けれど、少なくとも「わたくしの自由を守る」という点については本気で動いているように見えました。
(まあ、利用価値があるからこそ、大事に扱おうとしているだけかもしれませんけど)
自嘲気味に笑って、わたくしは再び本のページに視線を落とします。――それでもいいのです。利用価値というのは、相手を互いに尊重することと表裏一体ですから。彼もわたくしを利用しようとしているのなら、わたくしも彼を“自由確保の盾”として利用させてもらう。そう割り切ることが、今回の白い婚約における最善の道でしょう。
それにしても、いざ婚約を公表するとなったら、いったいどれほどの騒動が起きるのか……。わたくしは息を吐きながら、頭を横に振りました。想像するだけで疲れてしまいそうです。
「まあ、考えても仕方ありませんわ。なるようになるのです」
自分にそう言い聞かせるようにして、本を閉じます。部屋の窓から夜空を見上げれば、雲の合間にちらちらと星が瞬いていました。明日こそは、朝までぐっすり寝て、美味しい焼き菓子を食べながら気ままに過ごして――そうやって一日が終わるはずだったのに、近い将来、その生活が少しずつ変わる可能性もあるのだと考えると、複雑な心境です。
(ヴァレンティン公爵が約束を守ってくれるなら、そんなに変わらない……はず。そう信じておきましょう)
そう思いなおし、わたくしはランプの火を消してベッドに潜り込みました。今夜も、ぐっすりと眠れるといいのですが……。
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