日替わりメイド・ミリア 〜追い出されたけれど両家から引っ張りだこ! 最後に選ぶのは“恋”ですか?“居場所”ですか?〜

鍛高譚

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第15話 レオンの最後の説得

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第15話 レオンの最後の説得

 翌朝。

 屋敷の空気はどこか静かで、いつもの明るさよりも一枚うすい膜がかかったようだった。
 その理由は、屋敷の誰もが薄々理解していた。

 ——ミリアが、重大な選択を迫られているからだ。

 そんな中でもミリアは変わらず働き、
 変わらず優しく、変わらず丁寧に仕事をこなしていた。

 廊下にすれ違う使用人たちは皆、そっと温かい視線を向けた。

(悩んでるのは……見ればわかるよ……)
(でもミリア様にとって、どちらも大切なんだろうな……)

 誰も口に出さないが、屋敷の空気はあたたかかった。


---

◆レオンハルトの来訪

 昼下がり。
 屋敷の扉が再びノックされた。

「レオンハルト様が……今日は正式に来訪を申し込まれています」

 執事の声に、アーロンの眉が僅かに動く。

「……通せ」

 執務室へ通されたレオンハルトは、
 昨日よりも穏やかな雰囲気を漂わせていたが、
 どこか決意に満ちていた。

「アーロン卿。昨日は取り乱してしまい、失礼した」

「いい。ミリアに想いがあるのなら、取り乱すのも無理はない」

 互いに短く礼を交わすと、レオンハルトは切り出した。

「今日は……ミリアに、最後に話をさせてもらいたくて来た」

 アーロンの表情がわずかに硬くなる。

「決めるのはミリアだ。ただし——無理強いはするな」

「当然だ。彼女を苦しめたくて来たわけではない」

 レオンハルトは深く頷いた。

「では、客間を用意しよう」


---

◆二人きりの時間

 しばらくして、ミリアが客間に呼ばれた。

「レオン様……」

 ミリアが扉を開けると、レオンハルトは椅子から立ち上がり、
 まるで壊れ物を扱うように優しい目を向けた。

「ミリア。来てくれてありがとう」

「……レオン様こそ、お忙しいのにわざわざ」

 二人は向かい合って座る。

 沈黙が、しばし流れた。


---

◆レオンの告白

「ミリア……私は、君に頼み事がある」

 ミリアはまっすぐに彼を見る。

「昨日言ったことだが……あれは本気だ。
 君に戻ってきてほしい。
 だが、それだけじゃない」

「……?」

「君に謝りたいのは、誤解の件だけじゃない」

 レオンハルトは膝の上で拳を握り締めた。

「私は……君を“都合よく働く優秀なメイド”として見ていたところがあった。
 心のどこかで、君は家に尽くして当然だと思っていたんだ」

 ミリアは目を瞬いた。

(そんな……)

「だから、君が追放されたと聞いた時……
 私は君がいない屋敷を初めて見た。
 その時にようやく気づいたんだ」

 レオンの声が震える。

「君は“いて当然の存在”じゃなかった。
 君は、私の家を支えてくれていた、大切な……“家族”だったんだ」

 ミリアの胸がぎゅっと締め付けられる。

「もちろん、戻るかどうかは君が決めることだ。
 でも……君が望むなら」

 レオンは深く頭を下げた。

「君がどんな道を選んでも——私はそれを尊重する。
 ただ、私の気持ちだけは伝えたかった」

 その言葉には嘘が一つもなかった。


---

◆ミリアの答えはまだ出せない

「レオン様……ありがとうございます」

 ミリアは少し俯き、胸に手を当てた。

「わたくし……レオン様のお屋敷で育ちました。
 恩もあります……。
 そして、レオン様のことが嫌いになったことは一度もありませんわ」

 レオンハルトは目を伏せ、静かに頷く。

「……だが」

「はい……」

 ミリアは困ったように微笑む。

「こちらのお屋敷での毎日が……とても、とても大切なのです」

 レオンの表情がわずかに揺れる。

 しかし彼は、それを押し殺して穏やかに微笑んだ。

「……そうか。
 君の気持ちは分かったよ」

 その笑みがあまりに優しくて、ミリアの胸が痛くなる。

「ただ、答えは急がなくていい。
 私はいつまでも待つ」

「……ありがとうございます」


---

◆見つめる視線

 ミリアが客間から出てくると、
 廊下の少し離れた場所で、アーロンが静かに立っていた。

 ミリアと目が合うと、彼は言葉もなく穏やかな微笑みだけを向ける。

(……ご主人様)

 ミリアの胸に、温かさが広がった。

 そのとき——
 廊下の角の陰から、使用人たちのひそひそ声が聞こえた。

「ミリア様……どっち選ぶんだろう」
「アーロン様がんばれ……」
「いや、元主様もいい人だぞ……」

 ミリアは顔を真っ赤にして慌てて走り去った。

(ああもうっ、皆様、お聞き苦しいですわ……!!)

 しかし——
 ミリアの胸には、まだ答えは形になっていなかった。

 大切なのは“どちらが優れているか”ではなく、
 “自分がどこで生きたいか”——その答え。


---
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