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健康な姉
4.
しおりを挟む「婚約、破棄ですか」
「そうだ。そして新しい婚約者はソルティナだ」
殿下から婚約破棄されたと父から聞かされた
それは私に対する侮辱だと思った
呆然とする私の横でソルティナは恋する乙女のように顔を真っ赤にして喜んでいた
「なぜ、破棄なのですか?解消ではなく」
「……ルフィーナよ。お前は、ソルティナを虐めていたな?」
「は?」
私の言葉を聞いた父はめんどくさそうに大きなため息をついた
なんでも私は妹であるソルティナを虐めていた、らしい
父は忌々しそうに私に視線を向けて話し始めた
いわく、
病弱な妹の前で健康な体をひけらかした
いわく、
王太子の婚約者であることを盾に妹からドレス、宝石などを奪った
いわく、
王太子と仲の良い妹に嫉妬し怪我をさせた
などなど
父から語られる内容はどれも心当たりのないものばかりで困惑した
そもそもモノを取られていたのは私であったし、エルナンドとソルティナの仲に嫉妬などもしたことがない
しかも怪我などさせたこともなければソルティナに直接触れたことすら数えるほどに等しいのだ
「以上の報告からお前は未来の王妃として相応しくないと判断された。よって婚約破棄という形だそうだ」
「何かの間違いです。私がソルティナのモノを身につけていたことがありましたか?それに政略的婚約をした殿下に嫉妬する必要もありませんし、なによりソルティナは怪我などしていませんわ!」
私は身の潔白を父に訴えた
必死な私を父は哀れむような目でみてきた
「お前は罪を認めないのか」
「罪も何もそんな事実はありません」
「これをみてもそれが言えるのか?」
ソルティナ、傷をルフィーナに見せてあげなさい。父が隣にいるソルティナに話しかけた
静かに私と父のやりとりを見ていたソルティナはもじもじとしながらドレスの裾を少し上げ右の片足を晒した
「な、なんなのその傷は…!!」
ソルティナの右足にはおびただしい数の切り傷が刻まれていた
太腿部分はまだ傷が新しいのか包帯を巻いており少しずつ血が滲んでいた
「私、怖かった…!!毎日毎日お姉さまから傷をつけられて、だ、誰にも相談できなくて…!!」
「あなた、何をいってるの?私が傷をつけてた?そんなバカなこと言わないで!」
「この傷を見てもまだシラを切る気か!我が娘ながらなんと醜いやつだ!」
「お父様!よく考えてください!私はほぼ毎日朝早くから夜遅くまで王城にいたのですよ?!ソルティナと関わる時間なんてありませんでしたわ!」
「ではソルティナのこの傷はどう説明するんだ!」
「そんなの知りませんわ!」
「えぇい!聞くに耐えん!!ルフィーナが反省するまで部屋に閉じ込めておけ!!」
泣きじゃくるソルティナと激怒する父を部屋に残し私は使用人に引き連れられて部屋に閉じ込められた
ーーー
外からの情報もなく、1日3度持ってこられる食事を食べ読書をする日々
毎日王妃教育で忙しかったあの日々が今では遠い思い出だ
そうして数日経った頃、やっと私はこの状況の分析を始めた
あれだけ可愛がってくれていた王妃はどうしているのだろうか、
そもそも、エルナンドを嫌っていた母がなぜソルティナとの婚約を承諾したのか
謎だけが深まる一方だった
(そういえばどうしてあの場にお母様はいなかったのかしら?……最近お母様に会ってないわね。それよりもソルティナのあの傷、どうしてあんな傷が…?)
私の1番の疑問はそこだった
屋敷で大事に育てられてたソルティナを害する輩などはいない
ドレスに隠れている足にあそこまで大胆に傷をつけられるものなど早々にいないこともわかっていた
では誰があんなことを?
いや、だれが、ではなくきっとあの傷はソルティナ自身がつけたものだろう
妹は昔から自分を卑下し相手の同情と関心を引くために必死に行動する気があった
生まれながらに病気体質であることも助長したのか年齢が上がるにつれその行動範囲は広くなってきた
その対象にエルナンドがいたのも薄々は気づいていた
遅かれ早かれエルナンドもまたソルティナに取られる運命だったのかもしれない
元よりエルナンドのことを好きでもなんでも思っていなかった私にはどうで良いことだ
むしろ煩わしい王妃教育から抜けられたことは素直に嬉しいものだ
ベッドの上に寝転びながら本を広げて、好きな時に寝る
存外こんな生活も悪くないモノだと私は思っていた
枕元に積み重ねた本が崩れそうになっているのを見た私は何冊かの本を抱えて本棚に片付けることにした
「精神疾患について?」
何冊目かの本を片付けていると目についた本に興味が引き寄せられた
王妃教育の一環で簡単な医療を習うこともあったのでその時の本か、と思いパラパラとめくった
「ミュンヒハウゼン症候群」
一つの病名に行き着いた
【ミョンヒハウゼン症候群】
・虚偽性障害
・周囲の関心や同情を引くために病気を装ったり、体を傷つけたりするといった行動が見受けられる
ゴクリと喉が鳴った
まさにこれはソルティナの症状に当てはまっていたからだ
私が長年思っていた妹はやはり心の病は患っていたのだ
ミュンヒハウゼン症候群は根本的な治療は確立されていない
つまりソルティナの虚偽妄想はこれから永遠に続く恐れがあるのだ
「その度に私が貶められるの?」
いつだって妹は私を悪者にしてきた
お姉さまが、お姉さまが、と言い続けて全ての責任を私に押し付けるすべは見事なものだ
きっと今はエルナンドの婚約者という立場を私から奪い、病弱で健気な私は姉からの虐めも耐え抜き、王子様に助けてもらえたと、優越感に浸っているかもしれない
私の中でふつふつと燃え上がるものがあった
王族の分家筋のハプスブルク家に生まれた時から貴族として政略結婚は仕方のないものだと思っていた
家のために活躍することは当たり前であったし、一応何不自由なく育ててくれた父と母にはまあ感謝はしている
だが、ソルティナだけは違う
妹は私から奪うことしかしない
私に優しくしてくれた使用人もいつのまにかソルティナにつきっきりになっていた
少しでも私が声を荒げソルティナに注意すればいつも泣きながら周りに泣き付き、私は泣かせた犯人として白い目で見られてきたのだ
(あら、どうして私はこんなことで悩んでいたのかしら)
怒られないようにいつも顔色を伺って接してきた両親
形だけの婚約者
私に流れる血だけに期待する王家
(何もかも、私の道を邪魔するのね)
(私は神に選ばれし尊い血を引き継ぐハプスブルク家の子よ。誰かに従うなんてあり得ないわ)
あぁ、なんだ、簡単なことだったのか
私の生きる道を邪魔する者には制裁を
ルフィーナはパタリと本を閉じ漆黒に包まれた夜空を見上げた
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