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しおりを挟む「あ、お母さん。やっと来てくれたのね!早くここから出して!ほんっとにここ最悪なの!汚いし、臭いし…」
「あなたは、誰なの…?」
ラバール侯爵家の馬車に厚意で乗せてもらった私は1週間をかけて王都へとやってきた
その間にアルフレッド様(なぜかそう呼んで欲しいと頼まれた)とは世間話をする程度には距離が近くなった
そんな彼の権限ですぐに私はジョアンナと面会を行った
薄暗い面会室でソワソワとまっているとみすぼらしい麻の服に身を包んだジョアンナがやってきた
「ねー早く出してよ。お金あるんでしょ?」
やっと娘に会える!そんな私の気持ちを粉々に打ち砕くように目の前にいるジョアンナの顔をしたジョアンナじゃない誰かが私に話しかけてくる
(「ジョアンナは、こんな話し方をしない…」)
平民が使うような砕けた言葉で次々と話しかけてくる娘の姿に私は一瞬呼吸を忘れた
すぐにハッとしてジョアンナに向き直る
「ジョアンナ…?一体どうしたの?そんな話し方をするなんてっ、それに殺人未遂だなんて…」
「殺人未遂だなんて本当に大袈裟!あの女狐!受け身取れたくせに受け身取らないで落ちるなんて信じられない!!」
思い出しただけでもむかつくー!と叫ぶ彼女は私が知る娘ではなくなっていた
黙り込んだ私に気づいていないのか彼女はベラベラとことの詳細を話してくれた
曰く、私は物語のヒロインでいずれ王子様に見染められて王妃になる運命
曰く、王子様だけではなくその周りにいるイケメンな男たちからチヤホヤされて幸せに生活するんだと
「それをぜーんぶあの女狐が邪魔したのよ!!」
花を愛で、自然を愛した私の娘はいなくなり
人を妬み、憎みそして蔑めることしか考えないバケモノになってしまっていた
「………また、くるわね」
「は?!迎えに来たんじゃないの?!」
「すぐに釈放は出来ないのよ。もうしばらく我慢して頂戴」
「えー?仕方ないなあ…あ、お父さんは?私がこんなになってるならすぐにお金持ってきてくれたでしょ?」
キラキラと期待するような視線を投げてくる娘の目が見れない
「…お父様は、今貴方のために動いてるわ」
だから、もう少し待っててね。と苦笑しながら面会室を後にする
扉越しに娘が悪態をついているのが薄らと聞こえてくるが、それに気づかないふりをして私は前に歩き出した
「エミリエンヌ。大丈夫ですか?」
「アルフレッド様」
面会室を後にした私は途方に暮れていた
王都に着くや否やジョアンナの元へと来た私は宿を手配していなかったのだ
しかも馬車も侯爵家ので来たため、今はもう門にはいない
どうしたものか、と思案していると背中からここ1週間で覚えた声が聞こえた
振り向くと先程、私が出てきた同じ場所から彼が出てきた
1週間共にいたせいか、彼は私のことを名前で呼ぶようになった
年下から名前で呼ばれるとなんだかむず痒い
しかし、こうやって王都に連れてきてもらったりしているのだから文句は言えない
「宿がないなら、我が家に来てはいかがですか?」
「侯爵家に?そんな恐れ多いです」
どこかの宿屋で下ろしていただければ結構です。と答えると彼はその美しい顔を歪ませた
「女性1人で宿を取ることはできませんよ」
トラブルの元になるので断られるとおもいます。と言う彼の言葉に一理あるな、と納得する
夫が起こした事件のせいもあるが、いま国全体が女性に対する扱いは慎重になっているからだ
「さあ、どうぞ。馬車に乗って我が家に参りましょう」
「ちょ、ちょっと!そんな強引に…!」
思案している私の横に立っていた彼は呼んでいた馬車が来たことを確認したのか私の手を取り痛くはない程度の力でグイッと引っ張る
手慣れた様子で私を馬車に乗せた彼は出入り口付近に座り、私の脱出を阻止しようとしているようだった
「侯爵家は広いので、あなた1人増えたところで問題はありませんよ」
「そう、ですか。ではお言葉に甘えて失礼しますね」
下手に街道に下ろされても嫌だと判断し、私は大人しくラバール侯爵家へと連れられていった
(「すごいわね、侯爵家…」)
侯爵家に招き入れられた私はまず使用人の多さに驚きを隠せなかった
数えきれないほどの使用人の数に驚きつつも、確かにこれだけの屋敷を管理するには必要人数かと納得した
我が家の男爵家の屋敷が何棟入るんだ?というぐらいには広すぎる侯爵家に物怖じしてしまう
幸いにも、今この屋敷に住んでいるのは使用人を除くと彼1人らしい
ご両親はご健在だが領地のほうにいると教えてくれた
ホッとした私は現在、ディナーの前にバスタイム中だ
必死に断ったが、侯爵家のメイド長である年配のレディに「身だしなみも整えず、ドレスアップもしないまま旦那様とディナーを取るのですか?それが男爵家では当たり前なのでしょうか?」と圧をかけられた結果だ
話を聞くとメイド長も子爵家の出身だそう
自分よりも爵位の低い者のお世話なんて嫌がられるか、と思ったがどうやら彼女はきっちり仕事をこなすタイプらしい
今も私の髪を丁寧に洗ってくれている
「男爵夫人のお肌はとても瑞々しいですね。20代前半の御令嬢に負けないほどですよ」
「本当に30歳ですか?子持ちにみえませんよ」
侯爵家のメイドたちはお喋りが大好きなようで次々と私に話しかけてくれた
その中には照れるような内容もあったが、社交辞令だと重々承知しているため笑顔で返事をした
さあ、ドレスに着替えましょう。とメイド長に連れられ、あらかじめ用意されていたナイトドレスへと着替えさせられた
(「私の瞳の色よね…?」)
なんの意図があるのだろうか?と強くない頭をフル回転させたが、都合の良い答えは見つからなかった
私の髪色は薄桃色、瞳はエメラルドグリーン
彼が身につけているポケットチーフの色はエメラルドグリーンであり、カフスボタンはエメラルドがあしらわれている
そのことに困惑しながらもハッと自分の着ているドレスを見る
今きているナイトドレスは夜空を移したかのように鮮やかな紫水色(アメジスト)
パッと彼の瞳を見ると黒髪からチラリと覗くのは宝石のように輝いているアメジスト
(「これは多分、厚意よね。深い意味はないわ。きっと。」)
30歳にもなって恥ずかしい。と変な想像をしてしまった自分を諌めながらエスコートを受けて席に座る
給仕される食事はどれも男爵家では到底お目にできない食事ばかりで先ほどまでは感じていなかった空腹感が一気に襲いかかってきた
「用意した部屋に不都合はありませんでしたか?」
和やかに始まったディナーも残りデザートを残すだけとなった
滅多に食べるとこが叶わない高級食材に舌鼓している私に彼がそう問いかけてきた
「ありません。立派なお部屋をありがとうございます。……あっ、そういえば寝室横にあるドアはなんでしょうか?鍵が閉まってて開きはしなかったのですが」
私にあてがわれた客間はとても広く、内扉を通じてバスルームへ繋がっている仕様だった
それとは別にもう一つ内扉があり、ドアノブに手をかけたが鍵がかかっているようで開かなかった
そのことを不思議に思い目の前に座る彼に問いかける
暫く沈黙を貫いていた彼は静かに口を開いた
「あれはドレスルームにつながる扉です」
「ドレスルームに?ドレスルームは別にありましたが…」
「もう一つあるのですよ。ここを建てるときにドレスルームはいくらあっても困らないと先祖が考えたようです」
そうなんですか。と私は納得しながら目の前に置かれたシャーベットをスプーンで掬う
人様の家の間取り事情を気にしても仕方ないと思いながらシャーベットを美味しく頂いた
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