三十路の私に年下夫が出来ました

Ruhuna

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「では、男爵殿とは離縁を?」

「ええ。だあって、あんな浮気しょうな、男なんてかばいたくありませんもの!」

「そうですか。それでは離縁の証人には私がお手伝いしますよ」

「ほんとですかあ?えへへ、ありがとうございますぅ」

1本しかなかったワインボトルが今は2本3本と増えている
ここ最近のストレスからか私は自分の許容範囲を超えているのにもかかわらず未だガブガブとワインを飲んでいた
呂律が回っていない言葉を紡ぎながら身振り手振りを交えてアルフレッド様と話す私は側からみれば滑稽だっただろう


「ん……ねむい」

「ベッドに行きましょう」

「え~?わぁ!ちからもちですねぇ」

私の頭はふわふわとしていた
気持ちが良い、この酩酊感が心地よい
ゆらゆらと揺られた後に背中に感じるフワッとした感触
ふふふ、と笑う私の口元に温かい風が流れ込む
体全体には程よい重たさが加わっているがその重たさが何かは酔った頭ではよくわからなかった

「……良いですかエミリエンヌ?」

「ふふふ、なにがいいのですかぁ?」

「あぁ…こんなに酔って、本当にあなたは可愛らしいお方ですね」


「わたしがかわいい?うふふ、うれしっ」

「可愛いお方。どうか私に慈悲をください」

「じひ?よくわからないけど、あるふれっどさまがすきにすればいーとおもいますよ?」

クスクスと笑う私を上から見つめる彼の喉がごくりと鳴る
ベッドに横たわった私は急激な眠りに襲われる

「……では、いただきます」


瞼が重く閉じる前に聞こえた声に返事をすることができないまま、私の意識は遠のいていった
時折、一瞬だけ覚醒しても襲ってくる何かの波に飲まれ、その度に意識がなくなっていた私が目を覚めしたのは太陽が空高く登っている時間だった







貴族の離縁はとても難しいものだ
まず持って女性からの離縁なんて言語道断
女性からできる離縁は白い結婚が認められた場合と夫のみが罪を犯したとき

今回の私は後者に当てはまる

ガンガンと痛みが強い頭に鞭を打ち、私は王宮の戸籍・貴族籍を取り扱う部署にやってきている

(「頭も痛いし、腰も痛いわ。頭は昨日の夜飲み過ぎたとして、腰は何でかしら?」)

月の障が来て終わったのはつい先週だ
謎の腰の痛みに苛まれながらも私は長い長い廊下を歩いた


「では、ここの欄に男爵様のお名前を、こちらに夫人の名前を。そしてここには必ず男爵以上の爵位の方のお名前をお願い致します」

メガネをかけた文官がマニュアル通りに私に離縁申請届の記入方法を教えてくれた
その紙を受け取って私は、ジョアンナと面会するべく場所へと足を運んだ





~~



「お父さんも捕まってるの?は?女の子に手を出した?まじ、サイテー」


一昨日あった彼女は変わらず私の知らない娘のままだった
もしかしたら、という希望は早々に打ち砕かれた結果である

「そう、なの。だからねお父様とは離縁しようと思っているの」

「ふーん、好きにしたら?あ…まってそしたら私はどうなるの?私が出るためのお金は?」


身を乗り出して焦った様子で問いかけてくるジョアンナに苦笑しつつも、本当のことを話さないと、と身を引き締める

「ジョアンナ、実はね………」








「うそ…私が修道院行き…?」


私はジョアンナがわかりやすいように言葉を選びながら彼女がこれから受けるであろう罰を説明した
彼女がしたことは悪質で、男爵家よりもっともっと殿上人の方達が怒っていることを話した
むしろ死刑ではなく修道院行きで済むのだからかなりの温情を頂いたと言っても過言ではない

「うそようそようそよ!まってバッドエンド?!信じられない!」


ブツブツと嘘だと繰り返すジョアンナの気迫にたじろぐ
そして私は一つの疑問を払拭するために彼女にある言葉をなげかけた

「ねえ、ジョアンナ、隣のジムおじさんと遊んだことは覚えてるわよね?」


私の中の一つの大きな疑問
それは、ジョアンナの中身が誰かと入れ替わってしまったのではないかという馬鹿げたことを考えだった
そんなことを考えるほどには娘の言動がおかし過ぎて不安だったのだ

「あー…あぁ、ジムおじさんね、覚えてるわよ!よくかけっこして遊んだもの!」

「ーー!!!そう…」


私の愛した、愛しいジョアンナはいなくなった
目の前にいる女は娘の皮を被ったただの他人だと言うことが確信的となってしまった


ジムおじさんなどこの世には存在しない
私はジョアンナにカマをかけたのだ
だがそれも虚しく彼女は嘘をついた

(「ジョアンナ…ジョアンナ…!!」)

目頭がグッと熱くなる
少しでも気を緩めたら溢れ出してきそうな涙を必死に抑える
今ここで泣いたら混乱を招くだけだ


「エミリエンヌ。それとシェロン嬢。マリーズ公女が呼んでいます。」

涙を堪える私の後ろの扉が開くとアルフレッド様の声が面会室に響く

「アルフレッド?!私を助けにきてくれたの?やだ嬉しい!」

「ジョアンナはアルフレッド様と知り合いだったの?」

「いいえ。彼女を拘束する時に会っただけです」

アルフレッド様の姿を見て椅子から勢いよく立ち上がったジョアンナは彼に近づこうとした
近づけてはいけないと判断した私はその間に入り込んでジョアンナに問いかける
しかし、帰ってきたのはアルフレッド様からの答えだった

「やっぱアルフレッドはお助けキャラなのね!」

「ジョアンナ!貴方って子は…!」

「構いませんよエミリエンヌ。自分の罪が受け入れられなくて気が触れることはよくあることですから」

ジョアンナの不躾な言葉と視線を意に介さず、彼は「さあこちらです」と私の手を取りエスコートをしようとする

「は?!なにお母さんの手を取ってるの?!そこは私でしょ?!」

「……うるさい。その口を塞げ」

「んぐぅっ!!」

大きな声で騒ぎ立てるジョアンナの口を後ろに控えていた騎士が顎を掴み固定した上で彼女の小さい口に猿轡を噛ませた
あっ、と私が声を漏らすと横から大丈夫です。と宥めるような声が聞こえた


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