三十路の私に年下夫が出来ました

Ruhuna

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「初めましてシェロン男爵夫人。お忙しい中ご足労頂けてありがとうございます」

「マリーズ公女様においてはご機嫌麗しく存じます。この度は娘が誠に申し訳ございませんでした」


通された応接室の中に入ると豪奢なソファに座っている公女と対面した
加害者の親である私にも礼儀をしっかりと通してくれる公女の態度に私の胸がグッと抉られる
私の後ろでは声が出せないが悪態をついているのかフーフー息を荒立てているジョアンナがいる
少しでも公女の目に入らないようにそっとジョアンナの前に立った

「男爵夫人はそちらにお座りください。シェロン嬢は申し訳御座いませんがケジメをつける為そのままで」

「滅相もございません。寛大なお心に感謝致します」

勧められたソファにそっと腰を下ろす
私が腰を下ろしたのを見届けて公女がその可憐な口元をゆっくりと開いた

「御息女の処遇は私に一任されました。」

はい。と小さな声で頷く
絹糸のように滑らかな金髪と蜂蜜を溶かした様な琥珀色の瞳を持つ公女がニコリと笑う

「私、自分で言うのもなんですが医学への関心がありまして幼い時より医学書を読んできましたの」

何を言われるのかと身構えていた私は公女が話し出した内容を聞いて少し拍子抜けてしまった
そんな私に気付きつつも公女は話を止めない

「特に精神学、心の病については特に興味深いものがありますわ」

心の病、その言葉を聞いてドキッと心臓が跳ねた

「御息女の言動行動、全てにおいて私は心の病だと判断しました。現に夫人は御息女の発言でそう思うことがあるのでは?」

公女のその言葉に私は何も言えず黙り込む
それを肯定と受け止めたのか公女がサッと手を挙げた
その合図を見てジョアンナを抑えていた騎士が猿轡を外した

「この女狐がぁぁぁぁ!!!誰が心の病よ!!さては、あんたも転生者ね?!!じゃなきゃ私がこんなになるなんてありえないわ!!」

「ジョアンナ!貴方はどれだけ罪を重ねれば…!!」

「良いのですよ夫人。ね?これではっきりしましたわ。彼女はかなり重症な心の病を患っていますわ」

これは決して悪魔付きではありませんよ?と可愛らしい顔をこてんとかしげて公女がそう放つ
医学への造詣など深くない私は公女の言うことに反論などできない

「あぁもう!!おかしいのよ!この世界は私のための物語でしょ?!王太子が私に恋して、そしていずれは王妃になる物語!それなのに王太子は私に見向きもしない!それにアルフレッドも!あなたは私を助けるキャラでしょ?!!それなのに一度も学園に来ないなんて…!バグよ、これはバグよ!!!」

公女の声を遮るように騒ぎ立てるジョアンナの顔は悪魔の様に歪んでいた
見たこともない娘の顔に「ひっ」と情けない声が漏れる
その声が聞こえたのかアルフレッド様が「私がついています」とそっと横に寄り添ってきた
そしてまた公女が手を挙げるとジョアンナを抑えていた騎士が先程と同様に彼女に猿轡を噛ませる

ゔっーゔっーと唸る彼女の姿を見たくなくてサッと視線を逸らす

「かなり重症ですわ。当初の予定は修道院を予定しておりましたが…ここは我が公爵領にある精神病院に入院させてはいかがでしょうか?」

「精神病院…?」

「はい。私が創立しました。この国は心の病を悪魔付きだのといってしっかりと治療しません。助かる命が助からない現状なのです。」

私はそんな世の中を変えたいのです。と琥珀色の瞳をキラキラとさせて話す彼女をみて住む世界が違うと思う一方、若い女性が活躍していることに感心した
これからはこういった世代が世の中を発展させていくのだろうとワクワクする
しかし、そんな世代になるはずだった自分の娘がこうなってしまったことが悔やまれる


「公女様のご意志にお任せします。…どっちみち私は近いうちに夫と離縁いたしますからジョアンナの親権は私から離れることになります」

えっ、と実際には聞こえなかったがジョアンナからそんな声が飛び出てきたのではないかと思うほどに彼女の瞳が見開かれた


「左様ですか。良い判断だと思います」

離縁すると母親は子供の親権は残念ながら得ることができない
あくまでも子供の親権は父親で、特にジョアンナは男爵家の一人娘ということもあり私側について行くことはゼロに等しい
先程、彼女には離縁する。と伝えたがそのことを知らなかった彼女は事実を聞いて驚いている様だ

「では、精神病院への入院に関しては離縁する前に夫人の判断で行いましょう。……この紙にサインをお願い致します」

目の前に出された紙には入院する理由、治療内容、今後の為の研究的治療も行う旨が書かれていた
私はそれにサッと目を通してサインをする

エミリエンヌ・シェロン

この名前ともあと少しでお別れだ

「さて、それでは御息女は公爵領に旅立つ準備をしましょう」

公女の後ろに控えていたメイドが車輪がついた椅子を公女の横に置いた
その椅子に片足で立ち上がった彼女がふわりと座る

「公女様!最後に娘と話をしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんわ。ここでもよろしくて?」

構いません。と返事をして扉の近くに立っているジョアンナの元へ向かう
目の前に行くと騎士が心得たように猿轡を外す

「ちょっと、助けてよお母さん!」

「……私の娘は、少しお転婆な所はあるけれどとても優しくて、人を貶める様な子ではありませんでした。貴方は一体だれなの?……私の娘を返して!!!」

私の怒号に驚いたのかジョアンナが固まる
ハァハァと緊張からか息が乱れる
公女は心の病と言ったが、私はジョアンナが何者かによって乗っ取られたと思っている
だが、そんなことを言ったら私の方が精神を疑われてしまう
ジョアンナをどう足掻いても助け出すことができない私は公女の申し入れに納得しつつも、心のうちを元凶に対してぶつけてしまった


「夫人。落ち着いてください。お気持ちはわかりますが…これ以上は彼女の心に毒です」


いつのまにか私の横に公女がやってきた
私の左手にそっと手を添えた彼女の顔は曇っている

「申し訳ございません…」

ハッとした私は一歩後ろに下がる
すぐ後ろにアルフレッド様がいたのか私の体はアルフレッド様の逞しい体にぶつかってしまう

「彼女は、私が責任を持って治療いたします。いつか、貴方の本当の御息女が戻ってくることを願っていてください」

車輪がついた椅子に座ったままの公女に慰められる
いつの間にか溢れ出ていた涙が頬を流れた

「貴方のせいではありませんよ」

「アルフレッド様…」

「涙を我慢しないで。…私の胸を貸します」

そう言うと彼がそっと私の背中に手を回す
抱きしめられた私は人の温もりを感じて堰が切れたかの様にハラハラと涙を流した
ポンポンと規則正しく撫でられるテンポがさらに私の涙を増やした

「さあ、参りましょうシェロン嬢。

 




   ヒロインざまあって案外簡単なのね」



「クソがぁぁ、あがっ!!」

私が涙を流している間に公女がジョアンナに話しかける
その言葉を聞いてジョアンナがまたも声を荒げようとしたがその言葉は猿轡によって遮るれた


「さて!私とシェロン嬢は公爵邸に戻ります。夫人は侯爵邸でゆっくり休まれてください。1週間後にまたアルフレッドお兄様と我が家にいらしてくださいな。離縁に関してお力になれたらと思います」


では、ご機嫌よう。と言葉を残して公女が部屋から退室する
その後に続いて彼女たちの使用人も退室した為、部屋には私とアルフレッド様の2人が残った

「私たちも帰りましょう」

「はい…」

涙を流して体力がなくなったのか足元がふらつく私をアルフレッド様が支えながら私たちは侯爵邸へと戻っていった

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