6 / 11
6
しおりを挟む「やってられないわ!!」
「飲み過ぎですよ」
「だって、だって…!!」
その日侯爵邸に帰り着いた私は食欲がなかった為、ディナーを取らなかった
そして月が空の真上に登った時間にアルフレッド様が前回と同じようにワインを持って部屋へとやってきた
飲み始めて体感で2時間は経過した気がする
今日のことがやりきれない私はまたもや許容範囲を超えてワインを飲んでしまった
ぐわんぐわんと揺れる頭の中でも愚痴を吐いてしまう私をアルフレッド様は柔らかな表情でうんうんと話を聞いてくれていた
「31にもなって…こんな…りえんなんて…」
「……男爵殿に未練があるのですか?」
「みれん?そんなのないですよ!でもりえんしたらもう…」
20代の離縁ならまだしも30を超えた私が今後できることは修道女になることか、かなり年上の後妻ぐらいだろう
そんな未来を想像して悲しい気持ちになる一方で、結局は自分の身を守ろうとしている自分が醜い
私の思っていることがなんとなくわかったのかアルフレッド様は右手に持っていたワイングラスを置いて私の手の上にそっと右手を重ねた
「貴方はとても魅力的ですよ」
「まあ。おじょうずだこと」
6つも年下の彼に慰められる私って、とさらに自己嫌悪に陥りつつも表面上はありがとうと。感謝の表情を作る
酔っていても幼い頃からそれなりに貴族として鍛えられた表情筋は上手く動いてくれたようだ
「…さあ、もう寝ましょう。だいぶ飲んでいるので水をいっぱいは飲んでください」
「そうね。………ぷはっ、つめたくて気持ち良い」
彼が差し出したコップ1杯の水を一気に飲み干す
冷たく冷やされていたその水が火照った体に染み渡る
今日の夜は暖かくもなく寒くもないちょうど良い気温だった
月を眺めながら立ちあがろうした私は一気に疲れと眠気が来たのか目の前がぐらりと揺れた
倒れる、そう思ったがすぐにアルフレッド様が私を支えてくれたために転倒は免れた
「ありがとうございます」
「いえ。足元がおぼつかないですね」
お手伝いしますよ、と私の耳元で囁いた彼の声にぶるりと身震いする
やけに色香が漂った声に体がゾワゾワしてしまう
これ以上は危険だと頭の中で警鐘が鳴り響くが体がいうことをきかない
かなり飲みすぎてしまったようだ
「うっ…ごめん、なさっ」
その言葉を最後に私の意識は深くへと落ちていった
ーーー
「王都のオペラは圧巻ですね」
「本日の演目は特に人気ですから、エミリエンヌが喜んでくれて嬉しいです」
酔い潰れたあの日から早いものでマリーズ公女との面会の日にちになった
公爵邸に向かう道中、待ち合わせ時間を遅らせてほしいとの言伝があった私たちは時間潰しのために王都ではポピュラーなオペラへとやってきた
「ありがとうございます。アルフレッド様」
「楽しんで頂けてよかったです。…ちょうど良い時間ですね、公爵邸に参りましょうか」
予約なしでオペラがみれるなんてさすがラバール侯爵だわ…と圧巻させられた
(「侯爵家より広いわ…!」)
オペラ会場から馬車で15分程の場所にある公爵邸はやっと見慣れた侯爵邸よりも広く、荘厳な屋敷だった
「お待たせして、申し訳ございませんでしたわ。」
エントランスでボケーっとしている私に鈴の音を転がしたような可憐な声が話しかける
そちらに意識を向けるとマリーズ公女が車輪のついた椅子(車椅子というらしい)に乗って出迎えてくれた
「時間もありませんし、早速お話ししましょうか!」
パンっと両手を合わせた公女の掛け声で私と彼は客間へと案内された
「夫人。これを」
「…これは!」
「はい。特別離縁承諾証になります」
特別離縁承諾証
王族、または一部の高位貴族のみだけが使えるその特別な書類に私の動きが止まる
しかも証人の欄には恐れ多くもマリユス公爵の名前がかかれているではないか
「公女様!流石にこれは…!」
「気にすることはありませんわ。父からは早急に離縁を、と言われております」
この意味がわかりまして?とマリーズ公女が微笑む
(「マシューの裁判を早く行いたいのね…私にも罪が来ないように配慮してくださってるわけね」)
断る必要がない。そう判断した私は自分の名前をサラサラと記入する
迷いのないペンの動きを見て公女の顔が綻ぶ
「たしかに、確認しましたわ」
サッと書類に目を通して確認した公女は後ろに控えていた侍従にその書類を手渡す
静かに部屋を退室していった彼の向かう先は王宮だろう
「さ!これで憂いはなくなりましたわ!」
よかったですわね。アルフレッドお兄様?と意味ありげな笑顔で公女が彼へと振り向いた
「…協力ありがとうございます」
「まあ!なんてそっけないのかしらっ」
15歳にしてはやけに大人びている公女の言葉や仕草に私は苦笑する
まだまだ大人の階段途中なのに立場的にそう振る舞わざるを得ない彼女をみて改めて高位貴族のしがらみというものに舌を巻く
「ねえ、夫人。いえ、エミリエンヌ様?今日は我が家に泊まって私と女子会をしましょう」
「女子会…?えぇ、っと。アルフレッド様、よろしいでしょうか?」
私はチラリと横に座る彼へと視線を向ける
現在お世話になっている彼に承諾を得るのは流れ的にはおかしくない
衣食住を好意で整えて頂いているのにおいそれと自分の我儘を押し通せるわけではないからだ
「明日の10時には迎えの馬車を送ります」
それならば良いですよ。と無表情で言い放つ彼に、ありがとうございます。と返した。
136
あなたにおすすめの小説
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
ただ誰かにとって必要な存在になりたかった
風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。
その日の夜、ビューホ様はこう言った。
「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」
家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。
結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。
お飾りの妻でいい。
私を必要としてくれるなら…。
一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変!
こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。
※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。
※クズが多いです。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
見習い薬草師はイケメン騎士団長からの察してくれアピールを察せない
宮永レン
恋愛
恋愛に疎くて三度の飯より薬草作りが大好きな見習い薬草師のアリス、イケメンだけど過去のトラウマから遠回りなアピールしかできないイケメン騎士団長ランメルト。
二人の恋の行く末は――?
※他サイトにも掲載しております。
お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?
リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。
5話完結。
念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。
婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました
四折 柊
恋愛
私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。
【完結】虐げられた可哀想な女の子は王子様のキスに気付かない
堀 和三盆
恋愛
ノーラはラッテ伯爵家の長女。けれど後妻となった義母も、そして父も、二人の間に産まれた一歳違いの妹だけを可愛がり、前妻との娘であるノーラのことは虐げている。ノーラに与えられるのは必要最低限『以下』の食事のみ。
そんなある日、ピクニックと騙され置き去りにされた森の中でノーラは一匹のケガをした黒猫を拾う。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
婚約破棄、国外追放しておいて、今さら戻ってきてほしいとはなんですか? 〜今さら戻るつもりなどない私は、逃げた先の隣国で溺愛される〜
木嶋隆太
恋愛
すべての女性は15歳を迎えたその日、精霊と契約を結ぶことになっていた。公爵家の長女として、第一王子と婚約関係にあった私も、その日同じように契約を結ぶため、契約の儀に参加していた。精霊学校でも優秀な成績を収めていた私は――しかし、その日、契約を結ぶことはできなかった。なぜか精霊が召喚されず、周りからは、清らかな女ではないと否定され、第一王子には婚約を破棄されてしまう。国外追放が決まり、途方に暮れていた私だったが……他国についたところで、一匹の精霊と出会う。それは、世界最高ともいわれるSランクの精霊であり、私の大逆転劇が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる