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しおりを挟む「やってられないわ!!」
「飲み過ぎですよ」
「だって、だって…!!」
その日侯爵邸に帰り着いた私は食欲がなかった為、ディナーを取らなかった
そして月が空の真上に登った時間にアルフレッド様が前回と同じようにワインを持って部屋へとやってきた
飲み始めて体感で2時間は経過した気がする
今日のことがやりきれない私はまたもや許容範囲を超えてワインを飲んでしまった
ぐわんぐわんと揺れる頭の中でも愚痴を吐いてしまう私をアルフレッド様は柔らかな表情でうんうんと話を聞いてくれていた
「31にもなって…こんな…りえんなんて…」
「……男爵殿に未練があるのですか?」
「みれん?そんなのないですよ!でもりえんしたらもう…」
20代の離縁ならまだしも30を超えた私が今後できることは修道女になることか、かなり年上の後妻ぐらいだろう
そんな未来を想像して悲しい気持ちになる一方で、結局は自分の身を守ろうとしている自分が醜い
私の思っていることがなんとなくわかったのかアルフレッド様は右手に持っていたワイングラスを置いて私の手の上にそっと右手を重ねた
「貴方はとても魅力的ですよ」
「まあ。おじょうずだこと」
6つも年下の彼に慰められる私って、とさらに自己嫌悪に陥りつつも表面上はありがとうと。感謝の表情を作る
酔っていても幼い頃からそれなりに貴族として鍛えられた表情筋は上手く動いてくれたようだ
「…さあ、もう寝ましょう。だいぶ飲んでいるので水をいっぱいは飲んでください」
「そうね。………ぷはっ、つめたくて気持ち良い」
彼が差し出したコップ1杯の水を一気に飲み干す
冷たく冷やされていたその水が火照った体に染み渡る
今日の夜は暖かくもなく寒くもないちょうど良い気温だった
月を眺めながら立ちあがろうした私は一気に疲れと眠気が来たのか目の前がぐらりと揺れた
倒れる、そう思ったがすぐにアルフレッド様が私を支えてくれたために転倒は免れた
「ありがとうございます」
「いえ。足元がおぼつかないですね」
お手伝いしますよ、と私の耳元で囁いた彼の声にぶるりと身震いする
やけに色香が漂った声に体がゾワゾワしてしまう
これ以上は危険だと頭の中で警鐘が鳴り響くが体がいうことをきかない
かなり飲みすぎてしまったようだ
「うっ…ごめん、なさっ」
その言葉を最後に私の意識は深くへと落ちていった
ーーー
「王都のオペラは圧巻ですね」
「本日の演目は特に人気ですから、エミリエンヌが喜んでくれて嬉しいです」
酔い潰れたあの日から早いものでマリーズ公女との面会の日にちになった
公爵邸に向かう道中、待ち合わせ時間を遅らせてほしいとの言伝があった私たちは時間潰しのために王都ではポピュラーなオペラへとやってきた
「ありがとうございます。アルフレッド様」
「楽しんで頂けてよかったです。…ちょうど良い時間ですね、公爵邸に参りましょうか」
予約なしでオペラがみれるなんてさすがラバール侯爵だわ…と圧巻させられた
(「侯爵家より広いわ…!」)
オペラ会場から馬車で15分程の場所にある公爵邸はやっと見慣れた侯爵邸よりも広く、荘厳な屋敷だった
「お待たせして、申し訳ございませんでしたわ。」
エントランスでボケーっとしている私に鈴の音を転がしたような可憐な声が話しかける
そちらに意識を向けるとマリーズ公女が車輪のついた椅子(車椅子というらしい)に乗って出迎えてくれた
「時間もありませんし、早速お話ししましょうか!」
パンっと両手を合わせた公女の掛け声で私と彼は客間へと案内された
「夫人。これを」
「…これは!」
「はい。特別離縁承諾証になります」
特別離縁承諾証
王族、または一部の高位貴族のみだけが使えるその特別な書類に私の動きが止まる
しかも証人の欄には恐れ多くもマリユス公爵の名前がかかれているではないか
「公女様!流石にこれは…!」
「気にすることはありませんわ。父からは早急に離縁を、と言われております」
この意味がわかりまして?とマリーズ公女が微笑む
(「マシューの裁判を早く行いたいのね…私にも罪が来ないように配慮してくださってるわけね」)
断る必要がない。そう判断した私は自分の名前をサラサラと記入する
迷いのないペンの動きを見て公女の顔が綻ぶ
「たしかに、確認しましたわ」
サッと書類に目を通して確認した公女は後ろに控えていた侍従にその書類を手渡す
静かに部屋を退室していった彼の向かう先は王宮だろう
「さ!これで憂いはなくなりましたわ!」
よかったですわね。アルフレッドお兄様?と意味ありげな笑顔で公女が彼へと振り向いた
「…協力ありがとうございます」
「まあ!なんてそっけないのかしらっ」
15歳にしてはやけに大人びている公女の言葉や仕草に私は苦笑する
まだまだ大人の階段途中なのに立場的にそう振る舞わざるを得ない彼女をみて改めて高位貴族のしがらみというものに舌を巻く
「ねえ、夫人。いえ、エミリエンヌ様?今日は我が家に泊まって私と女子会をしましょう」
「女子会…?えぇ、っと。アルフレッド様、よろしいでしょうか?」
私はチラリと横に座る彼へと視線を向ける
現在お世話になっている彼に承諾を得るのは流れ的にはおかしくない
衣食住を好意で整えて頂いているのにおいそれと自分の我儘を押し通せるわけではないからだ
「明日の10時には迎えの馬車を送ります」
それならば良いですよ。と無表情で言い放つ彼に、ありがとうございます。と返した。
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