勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

文字の大きさ
7 / 103

6「試合と約束と」

しおりを挟む

 アレク達がアイトーロルを離れた昨日と同様に、今日の午後もリザは広場近くのギルドに併設された訓練場で新人冒険者への戦闘訓練を行っています。

 アレク達はもう四、五日は帰って来ないらしいとニコラ爺やに聞いたからでしょうね、リザも気兼ねなく戦斧を振るっていますよ。

 今日のリザの装いは足首で裾を絞った紺色のパンツに白のブラウス、その上に軽い革鎧を左肩と胸部だけ付け、手には愛用の戦斧を模した木斧。

 大体いつも通りの訓練着ですね。

 
「さ、次はどなたかしら?」

「姫、次は自分の相手をお願い致します!」

「……それは構わないのですけどカルベ、貴方は新米冒険者ではないでしょう?」


 リザにカルベと呼ばれたトロルの殿方。
 二十人ほどの新人冒険者がぐるりと作る円の中央に歩み出ました。

「ルーキー達に玄人同士の戦いも見せた方が良いと考えました!」

「確かに一理ありますわね。良いでしょう、おいでなさい」


 円の中央、巨大な木斧を構えるリザに対し、穂先にしっかりと革布を巻いた、槍としてはやや短い手槍を構えたカルベ・ジロウ。

 ニコラ爺やの「始め!」という合図を期にお互いに距離を詰めました。


 ところでこのカルベ・ジロウというお名前ですけど、なんとなく皆様読者様方の世界のお名前っぽいでしょう?

 皆様お好きなんですってね。え、と、異世界転生? とか言うんでしたわね。
 ですけど全然関係ないんですよ。

 生まれも育ちもここアイトーロルの、生粋のトロル。当然ながら前世の記憶があるなんて事もありません。
 なおかつジロウは名でなく姓ですしね。

 カルベは総勢四百名からなるトロル騎士団ナイツの一員でね、団を四つに分ける時にはその一つを率いる隊長格なんですよ。

 若くして隊長格に選ばれたのも、後進の育成だとか騎士団の若返りだとか、色々と理由があるにはあるのですけど、それにしたって大抜擢だったんです。

 トロルナイツ団長のリザと隊長格のカルベがここにいますから、当然今日はもう一人の隊長格が国の警護を担っている訳ですね。


「勝負あり!」

 あら、私の雑談の間に終わっちゃったみたいね。

 もちろんカルベも強いんですけど、何度挑んでもリザには一度も勝ったことがありませんの。
 今度もやっぱりダメだっ――


「勝者――カルベ!」

 って……ええ!? まさかのカルベ勝利ですって!

 ごめんなさい。
 余所見よそみしていたものだから細かい展開は分からなかったんですけど、木斧を地面に落としたリザに対して、リザのお腹の辺りに突き入れる寸前の手槍を構えたカルベ。

 確かにカルベの勝利の様ですけど、一体どうしたんでしょう?

「やっ……った! 遂に……遂に姫さまに……!」

「……参りました。言い訳のしようもないですわ」

 あら、本当に実力でリザを負かしたみたいですね。カルベったら大金星じゃないですか。
 しかしこれは、後々のちのちに一悶着起こりそうな予感がしますよ。

「ひ、姫さま、その、じ、自分が勝ったので、あの――」

「ええ、約束ですからね。わたくしに出来る範囲で、貴方の願いを叶えますわ」

「な、ななななならば――、今度、自分とデデデデートを!」

 まぁ、当然そうなりますよね。かねてからカルベが勝ったら願いを一つ聞くと約束していましたから。
 さてリザの反応はどうかしら?

「分かりました。では今度のお休みが重なる日に――」

「ならん。認めぬ」

 あら。あっさり認めたリザと違って認めない人が――、ってニコラ爺やですけどね。

「そりゃないっすよニコラ様! ニコラ様だって自分の勝ちだと仰ったじゃ――」

「黙れぇぇぃ!」


 ビリビリと空気を震わすほどのニコラの一喝に、驚いて新人冒険者達が飛び上がりました。

 そりゃぁそうです。
 なんと言ってもニコラ爺やは――

「姫さまが認めたとしても儂が認めん! このトロル騎士団ナイツ副団長、隊長格筆頭であるこの儂が!」

 ――リザと並ぶ、この国一番の猛者の一人ですからね。

 トロル騎士団ナイツを二つに分けた時、一つはリザが、もう一つはニコラ爺やが率いるのが常なんです。
 カルベにとっては直属の上司ですし、何を隠そうリザを鍛えたのもニコラ爺やですからね。

「そ、そんな事言ったって……、間違いなく自分が――」

「黙らんか! あんな試合で認められるかぁ! 明らかに姫さまはうわの空、そんな姫に勝ったとて誇れるものかぁ!」

 ははぁ、なんとなく分かりました。

 もちろんカルベは武力的には申し分ありません。
 しかしトロルの中ではね、こう言っちゃなんですけど、筋肉量バルクがイマイチなんですよ。

 そうは言ってもあの勇者パーティのジン・ファモチと比べればバルクたっぷり。当然トロル故に長身なので、トロルにしてはどちらかと言えばスラリとした体型をしています。

 もちろんお肌は緑、顔は割りと大きく顎もいかついんですけど、体型だけはリザの理想に近いんです。
 それも、トロルにしては、ですけどね。

 そのカルベと対峙して、顔だけすげ替えたかして成長したアレクを空想してぼんやりしちゃったんじゃないかしら。
 なんだかんだ言って、アレクに求婚された事を意識しまくってるみたいですから。


「姫さまと貴様の約束は承知しておる。しかし先の試合では納得がいかん。どうしてもと言うならば、この儂を倒してからにせよ!」

 ニコラ爺やがアツくそう言って、リザの落とした木斧を拾い上げ、長柄ながえを脇に挟むや否や腰を落として構えて見せました。

 その身体からは目に見えそうなほどの気迫が立ち昇っているかの様です。


「爺や、お待ちなさい」

「姫さまは黙って見ておりなさい」

「――爺。私は''待て"と言っているのです」

「……しかし――」

 ニコラ爺やに勝るとも劣らない気迫をもってリザが睨みつけました。
 この気迫をもってカルベと対峙していたならば、万に一つもカルベの勝利はあり得なかったでしょうね。

「貴方の言い分もよく分かります。けれど真剣勝負に言い訳してもしょうがないでしょう。下がりなさい」

「……くっ――、かしこまりました」

「ありがとう、爺や」

 そう言って常と変わらない穏やかなリザに戻り、そしてカルベへと向き直り続けました。

「間違いなく貴方の勝利。約束はたがえません。次のわたくしのお休み、一日貴方にお付き合いします。行き先などお任せ致しますわ」


 確かリザとカルベのお休みは明後日。
 アレク達が戻るまでにはまだ日がありますけど、大丈夫かしらね?


~~~

ちなみにニコラは今日がお休み。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...