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8「言い訳と報告と」
しおりを挟む「まぁちょっと落ち着けって。な?」
「落ち着いてられないよ!」
ジンに拳骨を落とされた頭を手で押さえたアレクが、丸腰のカルベに向けて今にもレイピアを突き込みかねないほどの様子で凄みます。
男の嫉妬も凄いものですねぇ。
「待って下さ――」
カルベの前へ進み出たリザ。
「リザ、そこを退いて」
アレクがそう言いますが、しかしそれに従うリザではありません。首を振って答えました。
「剣を下ろし、冷静な頭で話を聞いてくれるまでは退きません」
「…………」
真剣な面持ちで、じぃっと見詰め合う二人。
そして不意に、キィンと音を立てレイピアを左手首の腕輪に仕舞ったアレクが言いました。
「聞くよ、リザ」
「あ、アレク、聞いてくれるのね」
「うん。だから、言い訳してみてよ」
「…………言い訳?」
「違うの? その男と腕組んで楽しげにしてるの見たんだよ。この僕がいながら――」
……ああ、これは問題ですね。
しばらく目を離した間に、アレクは何か自分に都合の良い妄想が捗ってしまっていた様子ですね。
「――アレク」
「なんだいリ……ザ…………はっ!」
リザの纏う雰囲気の変化に気付いたようですね。
ま、どちらにしてももう遅過ぎたでしょうけど。
「わたくし、貴方に対してなんら不貞を働いた覚えがないのだけれど?」
「なっ!? 僕という男がいなが――」
「わたくしは貴方の妻でも恋人でもないわ!」
確かにそう。
アレクにプロポーズはされましたけど、何も返事をした訳でもない――、あ、いえ、『無理』と呟いて突き飛ばしましたから、どちらかと言えば断った事になるのかしら。
「――――っ!」
何かガツンと衝撃を受けたかのように、アレクがビクッと体を震わせ二歩三歩と後退り。
そのさらに後方、それを見たジンとレミが顔を見合わせ、それぞれ掌で目元を覆って空を仰ぎました。
彼らの心の声が手に取る様に分かりました。
きっとこうでしょう。
『アレクのバカ』
「リ、リザ――っ、ゴメン! 僕ちょっと調子に乗っちゃって――」
「謝って頂かなくて結構です」
ツン、と目を逸らしたリザがピシャリと冷たく言い捨てて、「カルベ、参りましょう」と、再びカルベの腕を取って町へと歩き始めてしまいました。
「ぼ、僕の話を聞いて! お願いリザ!」
「聞きません。調子に乗っていたのかも知れませんし、勘違いしていたのかも知れません。しかし、貴方は安易に剣先を人に向けたのです。わたくしは貴方を見損ないました!」
「……あ……ぁぁ――」
なんとなくアレクが可哀想な気もしますけどね、けれど私もリザと同じ考えです。
武器という物は、覚悟と信念を持たずして手に取ってはならないモノと考えていますから。
どうやらアレクもそれは充分に分かっている様ですね。
アレクはリザの言葉を受け、深い後悔と反省を面に滲ませ顔を歪めた後、崩れ落ちて地面に突っ伏しました。
歩き去るリザとカルベも気になりますが、ここはさすがにアレクを見守る事にしましょうかね。
突っ伏したままで嗚咽を漏らすアレクに対し、お互いを見合って溜息をこぼしたジンさんとレミちゃん。
アレクの背に手を置いたジンさんが声を掛けました。
「……あー。もう分かってるだろうとは思うが、今のはオメエが間違ってたと思うぞ」
ジンさんもレミちゃんもああ見えて常識人の内ですからね、きっと大人らしくアレクを導いてくれるでしょう。
「……うん、今は分かるよ。僕が間違ってた……」
「そうか。分かってくれりゃ良いんだよ」
幼いとは言ってもさすがは勇者ですね。
一度の過ちで全てを察してくれたようで――
「……リザに付き纏う虫をまずは排除しなくっちゃいけなかっ――げぺっ!」
「何が、げぺっ、なの」
――さすがはレミちゃん、問答無用です。
組んだ両掌を振り上げて振り下ろし、アレクの脳天に叩き付けて最後まで言わせませんでした。
……レミちゃんのお陰で、私にはアレクがなんと言おうとしたのかちょっと分かりません。
誰が何と言おうと、断固として分かりません。
国民にも、その他の人族にも、絶対に聞かせる訳にはいきませんからね。
世界を救った勇者さまが、ストーカーなだけでなく危険思想の持ち主だと知られるのは正直いただけませんから。
「ジン」
「おう、任せとけ」
レミちゃんの意を汲んだジンさんが速やかに、うつ伏せたまま動かないアレクを肩へと担ぎ上げました。
「アレクはこんなだけどよ、とにかく先に報告に行くぜ」
「ええ、それで良い」
報告? 魔の棲む森で何か変わった事でもあったのでしょうか?
リザとカルベよりもアレク達に付いていて正解でしたね。
大した問題でなければ良いのですけど――。
なんて、私も思ってたんですけどね。
ちょっと思ってた以上の問題だったんですのよ。
「なんだってぇ! それはホントの事かよ!?」
場所はアイトーロル王の寝室兼執務室。
声を上げたのはジル婆やです。
「たぶんな」
「たぶん間違いない。三人で何度も確認した」
まだ目を覚まさないアレクは椅子に座らせて、ジンさんとレミちゃんがそう言うのへ、アイトーロル王が驚きを隠せない声音で言いました。
「……早くも魔王が復活した……と言うのか――」
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