勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

文字の大きさ
13 / 103

11「オフショルか魔王復活か」

しおりを挟む

「お? おいアレク。どこ行こうってのよ?」

 ふらりと部屋を出て行こうとしたアレクにジンさんが声を掛けました。
 そりゃあそうですよね。
 魔王復活騒ぎの真っ最中ですから。


「こんな事してる場合じゃないんだ」

「――おい。まさかもう魔王の奴が来たってのか!?」

「魔王なんかどうでも良いんだ……。そんな事よりリザが……、オフショルのリザが……」


 ジンさんの当然の疑問に涙目のアレクがえぐえぐと、涙がこぼれ落ちないように堪えながらそう言いました。

「……あぁ、思い出しちまったのか。やべーな」
「やばすぎ。絶対ダメ。もう一度殴る」

 ジンさんとレミちゃんが視線を重ね、決心したように頷き合いました。
 ちょっと貴方たち、そんなのでも勇者さまなんですよ?

「じゃ、僕は行くから」

 そう言い残したアレクが扉に手を掛け、そろりそろりとその後ろから殴り掛かろうとするジンさんとレミちゃん。

 置いてけぼりを喰らった老トロル三人が息を呑んで様子を見守っていましたが、意を決したニコラが声を上げました。

「アレク殿! 事は魔王復活なのですぞ!」

「――貴方がたは! 魔王復活とリザとどちらが大事だと言うのですっ!」

 勢いよく振り向いてそう叫んだアレク。
 十二歳の少年が発したとは思えない物凄い迫力です。

「……ど、どちらが大事……ですと? そりゃあ――」
「そりゃ姫さまが何事よりも一等大事に決まってらぁ」

 ニコラとジルがアレクの言葉に頷き合いました。
 アレクの迫力に気圧けおされての事だろうと思いますけど、論点がはっきりとズレているように思いますよ?

 肩を出したリザがカルベとデートをしたからって誰も死にはしませんからね。


「でしょう!? だから僕はリザのもとへと参ります。ジンにレミ、アネロナへの手紙に精霊武装の件も書き添えておいてね」

 再び、じゃ! と言い残して背を向けたアレクへ、今度はアイトーロル王が声を上げました。

「待たれよアレク殿!」

「……なんです?」

 少し殺気を帯びたアレクがアイトーロル王へ顔だけ向けてそう言います。ピリピリしてますね。

「今、リザは人生初のデート、それは知っておられるか?」

「――! やっぱりそう……なら急がなきゃ――」

 再び慌てた様子のアレクが扉に手を掛け――

「――リザに嫌われますぞ」

 ――王の声に反応しビクリと背を伸ばしました。


 ピタリと体を止め、ゆっくりと振り向いてみんなの顔へ視線を彷徨わせたアレク。

「……き、嫌われちゃう?」

 老トロル三人と勇者パーティの二人がコックリと頷いて、代表する様に唯一の若い女性であるレミちゃんが言いました。

「嫌われる。絶対。間違いない」


 ノブを掴んだままのアレクはわなわなと体を震わせ、そして意を決したか、勢いよく扉を開きました。

「リザに嫌われたくない! けど……、けど男には行かなきゃならない時があるんだ……。それは……今なんだ!」


 カッコいい事を言った風にそう叫び、バァンと開いた扉からアレクが勢いよく飛び出して行ってしまいました。


 …………行っちゃいましたね。


「なんだか分かんねえが、童っ子わらしっこ勇者は青春してやがるんだな」
「それがなジル婆。こないだアレク殿がリザ姫にな――、でな――、でもな――」

 ニコラがジルにこの間の告白の顛末を事細かく耳打ちして、さらにアイトーロル王も聴力強化を自分に施し盗み聞きしています。

 アレクのプライバシーなんて全くありませんね。
 だからって私は別に気にしませんし、きっとアレクも気にしないと思いますけど。


「ジン。どうする?」
「どうするったってオメー。俺がアレク、レミが魔王復活騒ぎ、そうしかねぇだろ」

 老トロル三人と違い、勇者パーティの二人はいたって冷静に今やるべき事を速やかに簡潔に相談し、さっくり結論に至ったようですね。

 暴走しそうなアレクをレミちゃんじゃ体力的には止められない――、そういう意味かと思いましたが実際は、ジンさんじゃアネロナへの公式な手紙を書くのが難しい、というのが真実らしいです。

「そうね。じゃ、ジン。アレクよろしく」
「任しとけって」

 ジンさんらしくビッと二本の立てた指を額に当ててレミちゃんへ返事を返し、そしてアレクの後を追って駆け出しました。

 もう少しこちらの様子を見てから私も後を追いましょうかね。
 ジンさんも頼もしいんだか頼もしくないんだか良く判りませんからね。


「……いのか?」

 アイトーロル王が再び筆を取って手紙を書き進めながらレミちゃんに声を掛けました。

「良くはない。けど、今できる最善を尽くす。それしかないでしょ」

 その後、王が書き終わるのを待ち、それを一読したレミちゃんも違う便箋に向かい何事かをしたため、それをニコラへと差し出しました。

「出来るだけ早く、アネロナへ」

「相分かった。トロル騎士団ナイツの中でも最も足の速いものをると誓う」

 騎士団とは言いますが、これを読んでいる皆様方のイメージと異なりトロル騎士団ナイツの者は馬に乗る訳ではありません。
 乗れる馬がないんですよ、重くて。
 ですから基本的に走るしか手紙を届ける手段はありませんのよ。

 それでもトロルの筋肉で走れば、そんじょそこらの馬より速いですけどね。

 そしてニコラはトロルナイツの詰所へ駆け、レミちゃんとアイトーロル王は今後の為の打ち合わせを始めました。


 さて私はと言いますと、少し前から意識をいてリザ達の様子も窺っていたんですけどね。

 それがなんだかね。またややこしくなりそうな展開だったんですよ。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...