勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ

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18「オドとマナとロンの目的」

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「でも勘違いしないで」

 十年前にザイザールを襲った魔族の名は、デルモベルトという名だったと、そう言ったアレクが慌ててそう付け加えました。


「僕は去年、魔王デルモベルトを討った。急襲作戦が実ってロクに会話もしなかったけど、明らかにウル姉弟から聞いたデルモベルト像とは様子が違ってたんだ」

 私が抱いていた魔王デルモベルトのイメージは、
『子供っぽくて落ち着きのない思慮魔族』、というものです。


「ウル姉弟からはこう聞いてる。『下品で野蛮なバカ』って」

 私の評価も大概ですけど、ウル姉弟にさらにボロクソに言われてますね、魔王デルモベルト。


「それって僕が仕留めた魔王デルモベルトとは真逆なんだ。僕のデルモベルト像はまさにこの、ロン・リンデルの落ち着きようがぴったりなんだよね」


「……それは一体……どういう事ですの?」


 激しい動揺でこんがらがったリザの頭では話についていけない様ですね。
 アレク、リザのために噛み砕いて説明してあげて下さいませね。


「リザ、分かりやすく言えばね。このロン・リンデルという彼は『ザイザールを滅ぼした魔族』じゃなくて、『アイトーロルを救った元魔族』だってこと。それだけはこの僕が請け合うよ、リザ」

 リザへ向けて、にこりと安心させるような笑顔でそう言ったアレク。
 美少年勇者アレクの真骨頂、恐ろしいほどの美しさに私までメロメロになりそうですよ。

 この十日ほどで、私が持っていた美少年勇者アレクの評価は変態だストーカーだなんだと急降下だったんですけどね、ちょっとこの男らしさは評価を持ち直したかもしれませんね。


「安心して良いと思うよ、リザ。この彼は元魔族で元魔王だけど信用できる、僕はそう思う。たぶんだけどね」

「――アレク……」


 良い話ですね。
 アレクったらリザの為に、どう見ても恋敵であるロンの肩を持ってフォローしたりなんかして、少し大人になったような気がしますね。

 いまだ困惑の表情のリザですけれど、アレクのおかげで幾分すっきりした顔になりましたか。

「……では、ロンはあの時のままのロンだと考えても問題ない訳でしょうか?」

「問題はないんじゃない? そこんとこどうなの?」

「姫、すみません。俺は確かにアイトーロルの為にかつて戦った。しかし俺は貴女方の敵、魔族の王、魔王だったのも確かなのです」


 いたって真面目な顔でそう言ったロンを尻目に、ため息を一つ溢したアレクが紅茶を一口飲んでこう言い放ちました。

「だから何なのさ。僕はね、君の苦悩なんて知らない。ただとにかく僕のリザを悲しませる事だけは許さない」

 さりげなく『僕の』をアピールするあたりも抜け目がありませんね。
 でもやっぱり、ちょっとカッコ良いんじゃありませんか?


「……そうだな。勇者アレックスの言う通りだ。俺のつまらない感情さえ考慮しなければ……、姫、俺はあの頃のロン・リンデルと何も変わりません」


「――ロンっ!」


 感極まったリザがローテーブルに身を乗り出させ、ロンの手を取り涙ぐんで喜びの声を上げました。

 若いって、ホント良いものですよねぇ。


「ぅおっほん! おほんおほん!」

 アレクのわざとらしい咳払いで冷静になったリザ。
 頬を染めて握ったままのロンの手を慌てて離し、今度はそおっと腰を下ろしました。

 また『ぎゅむんぼよん』にならない様にそおっとね。


「ロン・リンデル。一つ聞いておきたいんだけど、良い?」

「勇者アレックス・ザイザール。答えられる事ならば」

「……ねえ。その勇者アレックスってめてくれない? アレクで良いよ」

「分かった。ならば俺もロンで良い」


 なんとなく仲良しですよね、この二人。
 かつては殺しあって実際に殺し殺されしてる筈なんですけどね。


「魔の棲む森で僕が見た魔王デルモベルトは何なんだい? 姿も魔力の波長も、かつてのデルモベルトそのものだったんだけど?」

「……? 森で魔王を? 一体なんのこと?」

 そう言えばリザはアレク達がデルモベルトを見たという件は知らないんでしたね。カルベとデート中でしたから。

 そう言えばカルベはどうしましたかしらね? 今頃はヤケ酒でしょうか。


「それも俺だ」

「え? 貴方、もう変身出来ないって……」


 確かに仰いましたね。
 リザの『今ここで魔族に、魔王になってごらんなさい』という言葉の後に。


「『ここで』は出来ないのです」

「……ははぁん、僕分かっちゃった。だね?」

「その通り。魔の棲む森はそれぞれのオドが膨れ上がるパワースポット――」

 首を捻るリザが一つ声を挟みました。

「オドって何でしたっけ?」

「オドって言うのは、僕ら人族や魔族の体の中にある魔力の源だよ」

じゃなくって?」

「マナは精霊力の源さ。マナは自然界のどこにでも存在する、オドとは全く別物だよ」

 アレクにそう教えられて、ふむふむと頷いたリザ。
 もうちょっと勉強しなければいけませんね、と思いもしますが、大抵のトロルは理性的ではあるけれど知的探究心は薄いのが標準なんですよね。


「俺のオドが膨れ上がるとかつてのデルモベルトの姿に戻ってしまうらしい。しかし力の大きさは今の人族の姿に毛が生えた程度だった」

「うん、分かった。とりあえず大きな疑問はなくなったよ」


 アレクはそう言って、すっかり冷めた紅茶を飲み干しました。
 それに倣うようにロンもカップを空にしてこう聞きました。

「小さな疑問はあるのか?」

「あるよ。ロン、君がここアイトーロルに何をしにきたか、とかね」

「何をしに……、それはこれまでの話と違ってシンプルだ」


 カップをテーブルに戻したロンはおもむろに立ち上がり、二歩ほど進んでソファに座るリザの横で片膝を床につけました。


「エリザベータ姫。貴女に逢うためにここへ来たのです」


 あらあらあら。
 なんだか意味深な発言ね。

 これは荒れるんじゃないでしょうかねぇ。

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