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19「拉致、逃亡、求婚」
しおりを挟むいやそれにしてもびっくりしましたねぇ。
ロンの意味深な発言にもびっくりしましたけど、その後のアレクの行動やらなんやら、驚きの連続だったんですよ。
「エリザベータ姫。貴女に逢うためにここへ来たのです」
そう言ったロンに対してね、
「無理!」
と言ったのはリザではなくてアレクでした。
数日前、アレクはリザに『無理』と言われて突き飛ばされましたからね。
まぁあれも、アレクの事が『無理』だったんでなくて、リザが『アレクの綺麗な幼い顔にトロルのムキムキ筋肉ボディ』を想像したせいなんですけどね。
そこからアレクの動きは迅速でした。
まだ何かを話そうとしていたロンの綺麗な顔へと足を飛ばし、足裏でロンの目の辺りを蹴って壁へと叩きつけ、そして驚くリザを肩に担いで窓から外へと飛び出したの。
「こ、こらっ! アレク! ふざけてないで降ろしなさい!」
「降ろさない! このまま二人で国を出よう! もう魔王はいないんだから、悪いムシがつく前にどこか遠くで二人っきりで暮らそう!」
アレクはリザを担いだままで走り出しました。
アレク四十キロに対してリザ百四十五キロ。
その差百五キロを物ともしないアレクの肉体の強靭さはさすがですね。
あんな細っこい体のどこにそんな力があるのでしょうねぇ。
「アレク! と、とにかく降ろしなさ――っ」
しかしアレクの逃亡劇もそこまででした。
広場を抜けて東へ東へと軽快に走っていたアレクでしたが、何かに両足を掴まれて盛大に転倒。
リザは投げ出されて地面に叩きつけられるかに思われましたが、空中でくるりと回転して華麗に着地に成功しました。
百四十五キロあってもこの身の軽さ、さすがトロルナイツ団長だけありますね。
「いてて……リザ! 無事かい!? 怪我なかった!?」
痛打したらしい顔面を擦り傷だらけにしながらも、リザにアレクが大きな声でそう言いました。
「ええ、わたくしは平気ですけど……。アレクこそ擦り傷だらけじゃありませんか。一体どうなさったのですか?」
リザがアレクへと歩み寄ったその時、二人はぐるりとすっかり取り囲まれている事に気付きました。
「何をやっとるんじゃ二人して」
「どうせアレクの暴走。自明」
二人を取り囲んだのは、ニコラ爺やとレミちゃんの二人、それに十人ほどのトロルナイツ。
「あら、ニコラにレミさん。物々しい感じでどうされたの?」
「どうされたもこうされたもないですぞ。『広場で姫と勇者と自称魔王の人族が言い争ってる』という訳のわからぬ報せがあって馳せ参じれば――」
「――姫を拉致しようとする勇者がいた。だからそれを阻止。レミ偉い」
どうやらアレクの足を掴んで止めたのはレミちゃんの魔術だったみたいですね。
「アレク、どういう事か説明して――と言いたいとこだけど。とりあえず連行」
パチンとレミちゃんが指を鳴らすと、アレクの足を縛っていた魔力のロープが蠢いて、そしてアレクの全身を雁字搦めに縛り上げてしまいました。
さすがはアネロナでもトップレベルの魔術士。
不意をつく事さえ出来れば、魔王をも仕留められるアレクの自由を奪う事ができるというのは相当ですよ。
あ、ここでいう魔術士というのは職業ではありませんよ。
レミちゃんはあんなですけど、職業で言えばシスターですから。
人並み以上に魔術を操る者、それらをひっくるめて魔術士と呼んでいるに過ぎませんの。
まぁ、ギルドの管理用の名だと思って頂いて問題ないでしょう。
ひょい、とトロルナイツの一人に担ぎ上げられたアレクは、牢のある騎士団詰所へと連行されていきます。
そしてそれとは入れ違いに、リザはギルドで蹴り飛ばされたロンの様子を見に駆け出しました。
「ダメえ! リザとロンを二人っきりにしちゃダメなんだぁ!」
この小さな体のどこにそんな、と思わせるほどの大音声でアレクがそう叫び、耳を押さえたレミちゃんとニコラが目を合わせて苦笑い。
「分かった。レミが一緒に行く。リザ姫からも話を聞きたいし」
「――レミ! ロンの奴も僕みたいに縛るのがベストだよ! お願いね!」
ニコラ率いるトロルナイツに連行されるアレクを見送って、リザとレミちゃんがギルドまで小走りで急ぎます。
途中、レミちゃんがリザへ状況を尋ねましたが、顔を赤らめて照れるばかりで要領の得ない事を口にするものだから、特に何も理解できなかった様でした。
そのまま駆けた二人がギルドへ飛び込んだちょうどその時、すでに起き上がったらしいロンが一階ロビーへ降りてきたところでした。
そして唐突にレミちゃんが鼻血を噴いて膝を折りました。
四つん這いになりながらも顔を前へ向けて目を見開いて、ジィっと凝視するものだから一向に鼻血が止まる様子がありません。
「――ちょ、ちょっとレミさん!? どうなされたのですか!?」
リザには分かりませんか。まだまだ青いですね。
レミちゃんはアレクに負けず劣らずヤバ目の子ですからね。
少しよろけながら階段を降りるロン、こめかみに片手をやり『酷い目にあったものだ……』なんて呟くその男の醸す色気がレミちゃんの鼻血を止めさせないのです。
それにしても、レミちゃんと言えば大の美少年好き。ロンの見た目は人族年齢で三十路に差し掛かったあたりの青年と中年の間くらい。
好みからは外れている様に思いますけど、そこのところどうなんでしょう?
「レミさん!? だ、大丈夫なのですか!?」
ダラダラと鼻血を出し続けるレミちゃんへ、リザが心配そうにそう投げ掛けるのへ、
「――あ……、新しい扉が、開いた――」
レミちゃんはなんだか哲学的にそう宣いました。
そしてフラリと立ち上がり、溢れる鼻血もそのままにロンへと歩み寄ります。
それに気付いたロンはギョッとしつつもレミちゃんへ言葉を投げました。
「――おっ、お嬢さんっ、大丈夫ですか!?」
ガシリとロンの両腕を引っ掴んだレミちゃん。ロンの目を見詰めて力強く言いました。
「結婚して。レミと」
ロンの言葉には一切触れず、レミちゃんは言いたい事だけそう告げました。
……本当にカオスですねぇ。
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