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番外編②「ロステライドの魔王」
しおりを挟むアリサが産まれて一年が経ちました。
もしかしたらこちらもそろそろかしら? なんて思って今日はロステライドへ来てみましたよ。
「……幸せすぎて怖い」
「Quoi? どうかしたのか?」
「いや? なんでもない」
魔王城の王の間です。
執務机に座って魔王デルモベルトとアドおじさんが事務仕事の様ですね。
アドおじさんはあれから、すっかりデルモベルトの右腕としてしっかり働いているんですよ。
聞けばこの二人、幼い頃から面識があるんですって。
なんだったらアドおじさん的には友人の端くれくらいの認識だったらしいですが、魔族の中で一人浮いていたデルモベルトは自分に友人が一人もいないと思ってたの。
どちらにとっても悲しいですよねぇ。
「幸せ過ぎて怖い、ってのはなんだ?」
「なんだ聞こえてたのか。そのままの意味だよ」
「可愛い二人の嫁がいて、ってか? Le jaloux事だな。ガハハハ」
確かに羨ましいですよねぇ。
纏う雰囲気も、見た目も中身も全然違いますけど、二人ともとっても可愛いですものね。
「それだけじゃない」
「と言うとなんだ?」
「まずアド、君がいる」
「――え……」
アドおじさんがほんのり頬を染めて――
ちょっとちょっと! そんな展開は誰も望んでいませんよ!?
「俺の話をアド始め魔族のみんなが聞いてくれる。魔族以外の者でさえも耳を傾けてくれる。かつての俺では考えられない事だ」
ホッとしました。そう言う意味ですね。
びーえる展開は望むところですけど、アドおじさんとデルモベルトじゃちょっとバルクバルクし過ぎですもの。
そんなどうでも良い事を考えていたら、コンコンコココン、とリズミカルに扉をノックする音が。
扉の方へと意識をやると、ゆっくり開かれた扉からカコナがにゅっと顔だけ覗かせ言いました。
「デル、もう仕事終わる?」
「ああ、もう少しだ。一人か? レミはどうした?」
「ちょっとその事でね……」
あら、どうかしたんでしょうか?
以前覗いた時にはいつも二人一緒でしたけど。
「ne t'en fais pas。後はやっておくから行ってやれ」
心配するな、ですって。アドおじさんったら優しいんですから。
「すまん、頼む」
二人は魔王の間を後にして、陽の光の差すテラスに設えられたテーブルセットに向かい合って腰掛けました。
隣同士で座らないのが不思議でしょう?
これがいつの頃からか暗黙の了解なんだそうですの。レミちゃんとカコナが別々の時には不必要にイチャイチャしないんですって。
もちろん必要があれば気にせずイチャイチャするらしいですけどね。
「それでレミの事とは?」
「それがさー。レミちょっと元気ないんだよねー」
「そうか? 昨夜も閨では元気そうだったぞ?」
「うん。確かに閨では元気に可愛かった」
「カコナも可愛かったぞ」
まっ。昨日も三人で同衾でしたのね。
仲良し三人でLe jalouxですねぇ。
「今朝なんだけどね。いつもレミがノリノリでやるメガネ女教師コスの魔術の授業なのにさ、途中でボンヤリするし、かと思ったらお腹さすってニヤニヤするしさ――」
えっ! それって――!?
「お腹痛いの? って聞いたら痛くないって言う割に物憂げだしさ。これってアレ――」
「それってもしかして……アレか?」
「やっぱデルもそう思う?」
そろそろかしらと思って覗きに来た訳ですけど、まさかバッチリ的中なんて思わないじゃないですか。
「先越されちゃったかなー」
カコナが背凭れにもたれ掛かってそう言います。
「悔しいか?」
「ううん、全然。レミだったら全っ然! めっちゃ嬉しいよ!」
ニパッと花が咲いた様な満面の笑みのカコナ。ほんと仲良しで私も勝手に笑顔になっちゃいますよ。
「――……俺は本当に幸せだ。やはり幸せ過ぎて怖いくらいだ」
「ワタシも幸せだよ。それに、きっとレミもね」
二人はリザとアレクの『うふふ、えへへ』を彷彿とさせるように、見つめ合って微笑みました。
「こんなとこにいた」
噂のレミちゃんです。
「二人っきりでやらしいんだ」
「へへ~。良いでしょー」
「良い」
それだけ言ったレミちゃんはガタゴトと椅子を動かして、デルモベルトのすぐ隣に座って手招き。
コイコイコイ、と招かれたカコナも椅子を動かし反対隣に。
二人揃ってデルモベルトの腕に寄り掛かってニッコリ笑顔。
娶られてもう四年ですが、その愛情にちっとも翳りが見えません。ほんとLe jalouxです。
「レミ。お腹の具合はどうだ?」
「空いてる」
「そうじゃないってば」
デルモベルトの聞き方が悪いですよ。なんとなく照れるのも分かりますけど、こういう事はちゃんと聞かなきゃいけませんよ。
「すまん、聞き方が悪かった。お腹の子はどうだ?」
はてな? と一つも響いていない、疑問顔のレミちゃん。
「レミ? 赤ちゃんできたんでしょ?」
「できてない」
「うっそだー。だってお腹さすさすニヤニヤしてたじゃん!」
カコナの言葉に驚いたレミちゃんが珍しく頬を染めて、俯いてイヤンイヤンと体をくねらせています。
まだ内緒にしておきたかったんでしょうね。
分かりますよその気持ち。
相当昔、私だって初めて身籠った際、当時の主人に伝える時には照れっ照れで伝えましたもの。
カコナとデルモベルトも顔を見合わせ、ははぁんと納得顔。
「恥ずかしい」
「照れるの分かるよ。ワタシは経験ないけどなんとなく分か――」
「――……イメトレ」
……え?
「「……は?」」
「赤ちゃんが出来たら、のイメトレ。してた」
二人が詳しく問い詰めた結果。
レミちゃん、身籠っていませんでした。
この間アイトーロルでアリサに会ったレミちゃんは、時折りそうやって一人で楽しんでいたそうです。
「アリサ、可愛かったから」
「ではそろそろ子供を……?」
「まだ良い」
「イメトレ不足なの?」
ううん、とレミちゃんが首を振ります。
「イメトレは充分」
「ならば――」
「ロンを取られたくない」
「そんな事は――」
「レミとロンの子。可愛い間違いない」
それはそうでしょうねぇ。想像しただけでも間違いないと実感できますもの。
「だったらさ! デル! ワタシと先に子作りしよ! ワタシとデルの子も可愛い間違いなしだもん!」
「……それもちょっと悔しい」
そんなこんなでね。
三人は仲良く今夜も同じ寝室へ向かったんです。
結局どうなったか聞いたら笑っちゃいますよ。
翌年ね、ほとんど同じ日に二人とも赤ちゃん産んだんですから。
二人の可愛い赤ちゃんを胸に抱えた魔王デルモベルトは、その日も幸せを噛み締めて微笑んでいました。
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