やぶ医者の女房 〜あたしの正体が妖狐だと知られたら、離縁されてしまうでしょうか〜

ハマハマ

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27「そこまでやるのかい」

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「そんな感じです。上手ですよ姉さん」

 冷めた油揚げを破れないよう気をつけながらぎゅっと握って煮汁を絞り、俵型に丸めた高菜入りご飯をきゅっと詰めたら完成です。

「ほんと? 菜々緒上手? でもこれ大き過ぎない?」
「最初は良いんですよそんなこと。それに居間の男性陣はそんなの気にしませんよ」
「そっか! ならどんどん作るね!」

 確かにちょいと詰め過ぎですけど思ったよりも上手です。これなら任せっきりでも良さそうですねぇ。

 せっせとお稲荷さんを握る姉さんを尻目に、姉さんのから顔を出した三郎太の髭面と相談を続けます。

 見た目は絵本に出てくる『二口女ふたくちおんな』そのものですけど、料理に三郎太の唾が入っちゃかないませんから。

「姉さんや三郎太からヨルに諦めるよう言うってのはどうだい?」
「言うだけは言っても良いが無駄だろうよ。ヨルも黒狐の連中もムキになってやがる」

 さらに三郎太が続けます。

「黒狐の中じゃ菜々緒の立場なんて屁みたいなもんだ。発言力なんてな皆無に等しい」
「はぁ、そういうもんかい。面倒だねぇ黒狐ってなぁ」

 あたしら白狐の一族は母様含めてみんな、ぼーっと好きなことだけして気楽なもんですけどねぇ。

「直接言わなきゃしょうがないか。あたしにゃもう夫がいますってねぇ」
「それはめとけ。オマエの大事なが危ねえ」

 ちょいとの間、何言ってるのか分かんなくて固まっちまいましたけど、意味が分かって今度は青褪めちまいました。

「……連中、そこまでやるのかい?」
「ああ。やるだろうな」

 ……もし良庵せんせに手出ししたらタダじゃおかないよ。たとえ敵わなくっても喉笛噛み切って八つ裂きにしてやる――

 あたしの気持ちを察したのか、で頷く三郎太。
 こんな時にほんっとどうでも良いけど、そんなとこで髭面が頷いたりして姉さんはチクチクしないのかしら。


「こないだのヨルの尾っぽ。聞いた話じゃオマエに破落戸ぶち当たらせたらしいじゃないか」

 与太郎ちゃんの件だね。

「あの尾っぽもお葉を探しての事だろうが、恐らくあいつ、誰彼構わずに破落戸ぶち当たらせてたんだと思うぜ」

「……人に化けたあたしにいつかぶち当たるだろうから、って事? でもそれって……」
「ああ。オツムの足りねえ策だわな」

 あの女、ヨルの何番目の尾っぽか知りませんけど、しーちゃんや三郎太に比べて少しオツムの中身が怪しいんじゃないかしら。

 それこそ干し草の中で縫い針を探すようなものじゃないですか。
 っても実際あたしにぶち当たってますから引きの強さは侮り難いものがありますけど。

「引きつええな、とか思ってるかもしれねえが、きっと二、三十年そこらじゅうでやってんだ。俺らの寿命を考えりゃいつかはオマエに当たってただろうさ」

 こりゃ参ったね。三郎太ったらあたしの事がよく分かってるねぇ。

 三郎太は姉さんが百年生きて尾っぽ。
 あたしが三十年だかしか生きてない頃だったし、 今じゃ見る影もない髭面の巨大なおっさんだけど最初の百年ほどは華奢で可愛い可愛い美少年だったから、よくこうやって話したもんさ。

 姉さんの尾っぽとは言え、あたしと一番仲の良い相手だっただけの事はあるねぇ。

「とにかくだ。お葉、オマエと良庵は大人しく目立たないようにしてろ。ヨルの尾っぽもじきに違う町へ行くだろうよ」

 ……消極的な案だけど、まぁ三郎太の言う通りにしなきゃしょうがないかねぇ。

「オレらもお葉を探してるフリしながらのらりくらりやるからよ」


 あ、いけない。姉さんのお稲荷さんが仕上がっちまう。
 あっためといた出汁に慌ててお味噌といて、刻んでおいたネギだけ散らして根深汁も仕上げちまいます。

「お葉ちゃん、高菜ご飯もうないよ! お揚げさん二枚余っちゃった!」
「そういう時にはこうするんですよ」

 余った油揚げを指で一枚つまみ上げ、あたしの口へポイっと放り込んで食べちまいます。
 うん、酢飯じゃないぶん濃い目の味付けにして正解だね。これならちょうど良くなるんじゃないかねぇ。

「……そんなん良いの? せんせーとか賢哲さんより先食べちゃって……」
「よだれ垂らして何言ってんですか。これはご飯を作った者の務め、味見ですよ。はいどうぞ、姉さんも」

 あたしに促された姉さんも油揚げをぱくっと一口。
 どうやら美味しいらしくて嬉しそうな顔でもぐもぐしてます。

 姉さんに聞こえないよう口パクで三郎太へ。

『姉さんなんだか幼くなってないかい?』
『素に戻っただけだろ。元々こいつはこんな感じだ』

 ヨルとの婚儀が持ち上がってからというもの、黒狐の血も引く姉さんとは長いことギクシャクしてましたけど、昔に返ったみたいで嬉しいねぇ。

 なんだかんだ言ってもたった二人の姉妹です。仲良くしたいもんね。



「菜々緒ちゃんが作ったんかよコレ!」
「お葉ちゃんと一緒にね!」
「うっ……まーーい!」

 ちょいと大振りなお稲荷さんをパクついた賢哲さんが大袈裟にそう言って二つ目に手を伸ばします。
 姉さんがこれ以上ないってくらいに良い笑顔ですね。

「高菜ご飯の稲荷寿司も美味しいですね」
「たまには良いもんでしょう?」

 良庵せんせも美味しいって言ってくれてあたしも嬉しいねぇ。
 一緒に食べて喜んでくれる人がいるってのが楽しいんですよね、料理って。

 良庵せんせも賢哲さんも与太郎ちゃんも、お腹いっぱい食べてくれました。
 食後にお茶をそれぞれ飲んで、立ち上がった賢哲さんが言いました。

「よし! 腹も膨れた! ウチへ帰るぞ与太郎!」
「お世話んなるだ!」
「菜々緒ちゃんを送ってからだがな」

 姉さんはまだ旅籠はたご泊まりなんですよ。まだお式が済んでませんからね。


 三人が帰ってしまうと途端に静かになる我が家。
 与太郎ちゃんが居ないもんだから、なっちゃんもどことなく寂しそうです。

「お葉さん」
「なんです良庵せんせ?」
「お昼寝しましょうか」

 なっちゃんが真ん中で丸くなってるのがいまいち不満ですけれど、のんびり穏やかな気持ちで良庵せんせの腕枕。

 三郎太が言う通りにしばらくこんなして目立たないようのんびり過ごすつもりだったんですけど、ほんの数日後に賢哲さんがやって来たんですよ。

 面倒事と一緒にねぇ。


義弟おとうとよ! 力貸してくれ!」

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