やぶ医者の女房 〜あたしの正体が妖狐だと知られたら、離縁されてしまうでしょうか〜

ハマハマ

文字の大きさ
37 / 71

37「菜々緒ちゃんだけ」

しおりを挟む

「なにをメソメソ泣いてやがるのさ! 殴っちまうよ良庵せんせー!」
「はい! ごめんなさい!」

「賢哲さんも! 楽しそうに素見ひやかしてんじゃないよ!」
「お、おぅ! 反省してる!」

 菜々緒ちゃんの喋り方、お葉ちゃんみたいな言いざまが小気味よくって小粋だね。
 震えあがってるこのダメ男どもにもっと言ってやってよ。

「良庵せんせー」
「はい!」

「せんせーの選んだお葉ちゃんは、理由もなしにこんな書き置きひとつで出てくような子だったかい?」
「…………お葉さんなら……嫌なら嫌と……はっきり言って出て行くと……」

「分かってんなら良し! だったらでーんと構えてお葉ちゃんの帰りを待つ! 良いね!?」
「……はい!」

 あのアホそ――昔っからアホだった菜々緒ちゃんが……。
 なんだかわっち、有り難いやら感心したやらで泣いちゃいそう。でも三郎太ちゃんが耳打ちしてるんだと思うけどね。

「賢哲さんも! いま何しなきゃいけないか分かってんでしょう?」
「……え、何を?」

 なんにも考えないで楽しそうにしてたんですね。賢哲さんぽいね。

「夜回りの打ち合わせに来たんでしょ!」
「お、おぅ! そうだった!」

「分かったらちゃっちゃとする!」

「「はいー!」」

 アホそうに見えてこの、七尾の妖狐だもん。ちゃんとやってれば凄い迫力なんだよ。

「それで良庵せんせー」
「はい! なんでしょう!?」

「ちょっとソレ、菜々緒に貸して?」

 菜々緒ちゃんがそう言って指さしたのは、良庵せんせの腰にぶら下がるわっち。

「これ……妖魔の足ですか? 一体なにに使うんです?」
「なにって……。えっと……なにに?」

 おかしな間が少し。
 でもきっと大丈夫。三郎太ちゃんがついてるもんね。

「……ね、猫……キツネじゃらし!」
「「ネコ? キツネジャラシ?」」

「打ち合わせの邪魔になっちゃうから! 菜々緒、なっちゃんと遊んでくるの! だからソレ貸して!」

 男二人がを見て、次になっちゃんへと視線を遣ります。
 心得たものでなっちゃん、急にわっちへ向かって興味津々、その可愛いらしい手を伸ばしてわっちをタシタシ。

「……なるほど。そういう事ならお貸しします。けれどお葉さんに貰った大事な御守り、汚したりしないで下さいね」

 良庵せんせ、そっと帯からわっちをほどき、慈しむようにひと撫でしてから菜々緒ちゃんに手渡します。

 わっちだってお葉ちゃんだからね、せんせの事は元々大好き。でもさっきの、そんな優しく撫でられたりしたらもっと好きになっちゃうよ。

 お葉ちゃんから頼まれてるのもあるけど、わっちが絶対、せんせのこと守ってあげるからね。




「なんだキツネジャラシってよ。アホそのままじゃないか」
「だって思いつかなかったし! 三郎太もなんかあうあう言って助けてくれなかったし!」

 男二人は書斎に置いといて道場です。
 くつろがせた胸元からにゅっと髭面を出した三郎太ちゃんと、そのすぐ上の菜々緒ちゃんが言い合ってます。あうあう言ってたんだね三郎太ちゃん。
 おかしな見た目だけど、仲良さそうで微笑ましい。

「そんでよ。一体何があった?」

「きゅ! きゅー!」

 兎の姿じゃ面倒です。これじゃ伝えるのに手間取っちゃうし、兎は本来鳴かないしね。
 わっちの人の姿、なんでかずっと子供で嫌なんだけどそうも言ってられません。

 戟の力を身に纏い、久しぶりに人の姿に化けました。

「しーちゃん可愛い! この髭面と入れ替えでウチの子になんない?」

 ぺたぺた自分の頭や顔を触ってみても、どうやら背丈も変わってないし、相変わらずの童女髪。服だってずっと一緒の薄水色の童水干わらべすいかん
 これでもわっち、お葉ちゃんのお尻にえて三百年近いのに。納得いかないなぁ。

 と、そんな事より。

「お葉ちゃん、ヨルに連れてかれちゃった」
「やっぱりか」
「え? そうなの? なんで? 嘘? ほんと?」

 やっぱり菜々緒ちゃんは菜々緒ちゃんだね。なんかもう逆に安心しちゃうね。
 甚兵衛がここを発った後の、ヨルとお葉ちゃんのやり取りを二人に説明しました。

「どどどどうすんの!? そんなのお葉ちゃん可哀想じゃない! 聞いてんの三郎太!?」
「すぐ上で怒鳴るな。聞こえてるに決まってるだろ」

 髭面をしかめた三郎太ちゃんが続けて言います。

「しかしそうは言ってもな……。相手はあのヨルだ。これまでみたいに隠れてりゃ良いのとは訳が違う」
「だったらなに!?」

「正面からぶち当たるのは当然無理だが、こっそり取り返すにしたって無理がある」
「ばか三郎太!」

 ぼかん! と菜々緒ちゃんが三郎太ちゃんの顔を殴りました。そしてさらに続けます。

「それをどうにか考えるのがあんたの仕事でしょうが! 無駄にヒゲなんか生やしてる癖にー!」

 顔の真ん中へこました三郎太ちゃんの髭を、むんずと掴んで引っ張る菜々緒ちゃん。
 ……わっち、お葉ちゃんの尾っぽでほんと良かったなぁ……

「いてえ! バカやめろ! 髭が抜けちまうだろが! それにお前だってちったあ考えろ!」
「菜々緒に思い付くと思ってんの!? このバカ三郎太! 思い付く訳ないでしょ!」

 ……結局三郎太ちゃんの髭、ぶちぃって音を立てて抜けちゃいました。

「もういい! ヨルにビビってる三郎太になんか聞かない!」
「……ビビってなんかねえ」
「うるさい黙れ! とにかくお葉ちゃんとこ行くから! はい決定!」

「待て慌てんな。連れてかれた理由が理由だ、お葉が傷つけられる事はねえ。それに、相手はあのヨルなんだぞ」
「相手なんて関係ない! 連れてかれたのはお葉ちゃんなの! 菜々緒の! 可愛い妹なの! 三郎太のバカ!」

 菜々緒ちゃんとは長いことぎくしゃくしてたけど、さらに間違いなくアホだけど、やっぱりお葉ちゃんのお姉ちゃんなんだなぁ。

 頼りにしてるよ菜々緒ちゃん。
 良庵せんせがかんなぎつかえる様になったからってヨルに敵うわけもない。
 わっち、お葉ちゃんが感じられないんだもん。もう菜々緒ちゃんだけが頼りなんだ。

 



※童水干……千と千尋のあの服
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...