57 / 71
57「速さの理由」
しおりを挟む「……ヨル……僕は……、僕はお前を許さない!」
どんっ、と地を蹴り飛び出した良庵せんせが素振り刀を叩きつけるように振り下ろすけど、それを立てた二本の指でガキンと弾き返すヨル。
「まずはリョーアン、貴様を死の一歩手前まで痛めつける。そうすればヨーコも頷かざるを――」
「うぉぉおお!」
せんせはヨルの言葉を無視。雄叫びと共に袈裟に、横薙ぎに、また頭上へと素振り刀を叩きつけました。
けど――
「二回! 三回! これで四回! さぁリョーアン、早く呪符を替えろ!」
――どうしたってこの間が訪れちまうんだよ。
幸い――て言っていいのか分からないけど、ヨルの戟が回復した今でも四発までは呪符に籠めた巫も保つみたいだね。
せんせはヨルの頭上で防がれた素振り刀の反動を利用して後ろへ跳ぶ――と見せ、雪駄の裏でヨルの顔目掛けて蹴り!
「ただの蹴りなぞ――」
逆の手で払おうとしたヨルのその手がパンっと弾かれて……え、どうしてだい?
「――なに!?」
せんせは当然その隙を見逃さない。
くるんと後ろに回りながら着地したせんせは素早く胸から呪符を取り出し握り込み、伸び上がるようにして逆袈裟を放つ!
「ちっ――!」
半歩後ろへ飛び退くカタチでかわしたヨルのその胸が、ばっ、と鋭く裂けて真っ赤な血が二人の真上に飛び散ったんだ――
せんせ、強過ぎないかい――
「くっ――! 如何に貴様と言えど……これほど――」
「ヨル。僕は怒ってる。ずっと怒ってるが――これまでで一番怒ってる!」
せんせの剣幕に圧される様に僅かに飛び退いたヨルがその身に纏う戟を強め、きゅっ、と力を籠めただけで胸の傷は塞がったらしい。ちっ、浅かったみたいだねぇ。
「何をそれほどに怒っている」
「分からないのか?」
「どうやらさきほど消え去った尾っぽの事か……尾っぽはまた生える、爪や毛と同じだ」
「……そう、なのかも知れない、妖狐にとっては。それは僕には分からないが……けれど、お前と僕が……相入れないという事だけは分かる!」
至近距離で対峙する二人。
叫んだ良庵せんせが裂帛の気合いをもって上段から――
「であぁぁ――!」
対して眼前のせんせへ向けて闇雲に戟を放とうとするヨル――
瞬き一つよりも短い刹那の時を挟んで、ヨルの斜め後ろから声が一つ。
「――こっちだ、ヨル」
瞬間移動したかのような……突然消えて現れた良庵せんせの素振り刀がヨルの胴を目掛けて突き入れ――――られません!
「黙れリョーアン!」
ばぉっ、とヨルの体に膨らんだ戟が、爆発する様に全方位へ噴き出し良庵せんせを押し返して吹き飛ばしちまったもんだから。
「せんせ! 大丈夫かい!? 無理しないでおくれ!」
せんせをガシッと受け止めながら、そんなこと言ってみたあたしを見詰めてせんせが言ったんだ。
「無理もします! しーちゃんさんがやられたんです!」
「……せんせ。その、さ、言いにくいんだけど――」
せんせが少し怪訝な顔。
「もしや……お葉さんもヨルと同じ考え……?」
「ち、違いますよ! あたしは尾っぽ達を妹弟だと思ってんですから!」
「では……?」
「しーちゃん、喰らってない……やられてないんだ」
せんせがはっきり驚いた顔。
「しーちゃんさ、実は戟切れしただけなんだ」
「戟……切れ?」
「そう戟切れ。式神としての体が維持できなくなって消えちゃって…………今もうあたしのお尻でスヤスヤ寝てんだ」
本体の体に戻ったんでね、それこそ二、三日休んで戟が溜まればまた生えてくるくらいには元気なんです。
ヨルのはどうやってるのか知りませんけど、あたしの尾っぽが切り離せるの、これは野巫三才図絵『天の部』に載る式神の図柄を使ってるからなんです。
あたしら妖狐に後から生える尾っぽたちはみんな、自我というか意識は本体のお尻にあって……ま、雑に言っちまえばお尻に憑り付いたお化けみたいなもんだね。
あたしは野巫使って髪の毛なんかで式神作るのはお手の物なんだけど、その依り代に自分の尾っぽを使ってるのがしーちゃん達って訳さ。
こちらへゆっくり歩いてくるヨルを尻目にさらに良庵せんせとこそこそ話。
「だからさ。そんな無理してヨルと戦わなくってもさ、結界もないし逃げちまうってのも手じゃないかな、なんて思うんだけどどうです良庵せんせ?」
少し呆けたような、安心したような、そんな表情作ったせんせだったけど、きりっと真剣な面持ちで言ってのけました。
「いえ、ここでヨルを叩きます」
「――どうしてだいせんせ!」
「僕とお葉さんにはもう三十年ほどしかないんです。少しでも長く多く、邪魔されずに貴女と過ごしたい」
「…………せんせったら……」
あたしを涙で溺れさせようとしてるんじゃないだろね。でも――
「せんせ、あたしもそれ、乗るよ! 一緒に叩こ――」
「それは無理だ。諦めろヨーコ」
歩みを止めたヨルが再び手を二度振って、今度はあたしに向けてまた大きな格子を鋭く打ち出したんだ。
「させん!」
あたしじゃ目で追うのが精一杯のそれをせんせが飛び出し素振り刀で叩いて砕いてみせたけど――
「ぐ――っ!?」
「せんせ! あ、足が――!」
――せんせの左足、袴の裾から先が焦げた様にぼろぼろに……
「大したものだ。すっかり騙されていた」
何に騙されてたってのか知らないけど……あ、あたしのせいだ……
あたしじゃ……あたしなんかじゃ……足手纏いにしかならない!
「これ見よがしに呪符を握り込んだ木剣……それが目眩しだとはな」
「ぐぁぁあっ!」
ヨルが再び飛ばした大きな格子と小さな格子、その大きな方はせんせが砕くけど……今度は右足に喰らっちまった……
「せ、せんせ……」
「平気……です。ちっとも痛く、なんてありません。だから僕の後ろから出ないで下さいね」
痛くないわけないじゃないですか! 左はともかく――右足は焼け爛れてんですよ!
「その雪駄。さらに道着も袴も、恐らくはその眼鏡も。身につけた全ての物に呪符の効果を与えていたとはな」
そういやせんせの眼鏡のツルのとこ、呪符巻き付けてんのかいつもと違って白くなってる。そっか、だからヨルの攻撃に対応できるしごっちゃんに化けたあたしを見抜く事も出来たんだ。
――なんて言ってる場合じゃない。
ぷつん、と自分の髪の毛抜いて巫戟を籠めて、治癒の図柄を作ってせんせの右足へ。
見る見る内にせんせの足は治るけど、さすがに崩れた雪駄は戻らない……
「道具の力を強化、それか道具に力を借りる呪符だろう。どちらでも良いが、これでリョーアン、オマエの速さは死んだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる