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「うーん、ここ、どこだろう……」
いつの間にか、一度も見たことも来たこともない場所に立っていて、俺は状況を把握するため辺りを見回した。何故こんな場所に来てしまったのだろうと首をひねり、ここに至るまでの行動を思い返す。
「確か、職員室で化学のテストの採点をしていて、途中でトイレに行って……」
そこまで思い出して辺りを見回すが、この近くにトイレなど見当たらない。そもそもここは、俺が勤めている学校の校内でも、学校の近くの場所でもない。
(徹夜続きで寝ぼけたせいで、変なところに来ちゃったのかなあ)
左手にある鬱蒼とした青い森を見ながら、参ったなあと俺は腕を組んだ。今いる場所がワイシャツの上に白衣という格好で寒さや暑さを感じないちょうどいい気候であるのが不幸中の幸いだ。
「とにかくここがどこか確かめないと」
そう決心し、ゆっくりと道なりに歩き出す。少し歩くと矢印が上下に二つ取り付けられた看板が見えてきた。
上の矢印には『シアンタウン』と、下の矢印には『王都』と書かれていた。
「王都?シアンタウン?なんだろう?」
馴染みのない言葉に首をひねっていると、後ろから声がした。
「おい、あんた」
急に声をかけられて、思わずビクリと体を震わせる。
「わ!な、なに?」
振り返ると、金色の髪を後ろで一つにまとめた青年が目の前に立っていた。彼は大きなかばんを右手に提げ、左手には爆弾のようなものを抱えていた。
まるで異世界の住人のような格好の彼に思わず目をぱちくりさせる。彼は驚いている俺を見て、罰が悪そうに笑った。
「驚かせてすまなかったな。俺はこのへんで商人やってるニトロってモンだ。よろしくな」
「ニトロ?よ、よろしく……」
(変わった名前だな)と失礼なことを頭の中で考える。ニトロという名前だから、爆弾を持っているのだろうか。
ニトロは俺のことをまじまじと見つめてから「ははあ」と合点がいったような顔をした。
「あんた、人間だな?理科の国に何か用か?」
「理科の国?ここが?」
思わず聞き返す。以前、同僚の数学教師が数学の国と呼ばれるところに行ったと言っていたが、まさか同じように理科の国も存在していて、しかも自分が来ることになるとは。
「ああ。理科の国には四つの地方があって、ここはそのうちの化学地方ってところさ。あんた、知らない間にここに迷い込んじゃったみたいだな?」
「う、うん。そうみたい」
まだ完全には状況が飲み込めず混乱する俺を見ながらニトロが困ったように頭をかいた。
「参ったな、人間なんてどうやって元の世界に戻せばいいのか……」
そう言って頭を悩ませるニトロを見ながら、俺は数学教師が言っていたことを思い出す。
「あ、確か、俺の知り合いが以前数学の国に入ったときに、王都に行ったら戻れたって言ってたから、俺も王都に行けばいいのかもしれない」
そう言うと彼が納得したように頷いた。
「なるほど、そうか。だったら、俺が王都まで案内してやるよ」
「本当?助かるよ」
知らない場所で藁にもすがりたいところだったのでニトロの存在は今の俺にとって非常にありがたいものだった。
「よし、じゃあ行くぞ。シアンタウンの近くにいるのも嫌だろう。さっさと王都の方に抜けちまおう」
「シアンタウン?」
思わず聞き返す。近くにあった看板にも書いてあった言葉だ。
ニトロが頷き、すぐ横にある森の方を指差した。
「ああ。シアンタウンは『青酸の森』に囲まれた劇物や毒物たちが住む街さ。シアンタウンには兵器工場もあるから、化学地方に住んでる他の奴らはこの街を毛嫌いしている。……同じ化学物質だってのに、薄情な奴らだ」
そう言ってニトロが暗い顔をした。
「ふうん、劇物や毒物か……」
そう呟いた俺にニトロが意外そうな顔をした。
「なんだ?興味あるのか?」
「あはは、ちょっとね……」
俺だって化学教師の端くれだ。せっかく理科の国の化学地方に来たのだから、帰る前にいろいろなところを見ておきたい。
「そうか。だったら案内してやるよ」
「え?いいの?」
ニトロが頷く。
「ちょうど俺もシアンタウンに行くところだったんだ。一緒にあんたも連れて行ってやるよ」
それを聞いて俺は微笑んだ。
「ありがとう、ニトロ」
そう言うとニトロがにっと笑った。
「よし。じゃあ、早速行くぞ」
先に歩き出したニトロの後を、俺はおいていかれないよう早足でついていった。
いつの間にか、一度も見たことも来たこともない場所に立っていて、俺は状況を把握するため辺りを見回した。何故こんな場所に来てしまったのだろうと首をひねり、ここに至るまでの行動を思い返す。
「確か、職員室で化学のテストの採点をしていて、途中でトイレに行って……」
そこまで思い出して辺りを見回すが、この近くにトイレなど見当たらない。そもそもここは、俺が勤めている学校の校内でも、学校の近くの場所でもない。
(徹夜続きで寝ぼけたせいで、変なところに来ちゃったのかなあ)
左手にある鬱蒼とした青い森を見ながら、参ったなあと俺は腕を組んだ。今いる場所がワイシャツの上に白衣という格好で寒さや暑さを感じないちょうどいい気候であるのが不幸中の幸いだ。
「とにかくここがどこか確かめないと」
そう決心し、ゆっくりと道なりに歩き出す。少し歩くと矢印が上下に二つ取り付けられた看板が見えてきた。
上の矢印には『シアンタウン』と、下の矢印には『王都』と書かれていた。
「王都?シアンタウン?なんだろう?」
馴染みのない言葉に首をひねっていると、後ろから声がした。
「おい、あんた」
急に声をかけられて、思わずビクリと体を震わせる。
「わ!な、なに?」
振り返ると、金色の髪を後ろで一つにまとめた青年が目の前に立っていた。彼は大きなかばんを右手に提げ、左手には爆弾のようなものを抱えていた。
まるで異世界の住人のような格好の彼に思わず目をぱちくりさせる。彼は驚いている俺を見て、罰が悪そうに笑った。
「驚かせてすまなかったな。俺はこのへんで商人やってるニトロってモンだ。よろしくな」
「ニトロ?よ、よろしく……」
(変わった名前だな)と失礼なことを頭の中で考える。ニトロという名前だから、爆弾を持っているのだろうか。
ニトロは俺のことをまじまじと見つめてから「ははあ」と合点がいったような顔をした。
「あんた、人間だな?理科の国に何か用か?」
「理科の国?ここが?」
思わず聞き返す。以前、同僚の数学教師が数学の国と呼ばれるところに行ったと言っていたが、まさか同じように理科の国も存在していて、しかも自分が来ることになるとは。
「ああ。理科の国には四つの地方があって、ここはそのうちの化学地方ってところさ。あんた、知らない間にここに迷い込んじゃったみたいだな?」
「う、うん。そうみたい」
まだ完全には状況が飲み込めず混乱する俺を見ながらニトロが困ったように頭をかいた。
「参ったな、人間なんてどうやって元の世界に戻せばいいのか……」
そう言って頭を悩ませるニトロを見ながら、俺は数学教師が言っていたことを思い出す。
「あ、確か、俺の知り合いが以前数学の国に入ったときに、王都に行ったら戻れたって言ってたから、俺も王都に行けばいいのかもしれない」
そう言うと彼が納得したように頷いた。
「なるほど、そうか。だったら、俺が王都まで案内してやるよ」
「本当?助かるよ」
知らない場所で藁にもすがりたいところだったのでニトロの存在は今の俺にとって非常にありがたいものだった。
「よし、じゃあ行くぞ。シアンタウンの近くにいるのも嫌だろう。さっさと王都の方に抜けちまおう」
「シアンタウン?」
思わず聞き返す。近くにあった看板にも書いてあった言葉だ。
ニトロが頷き、すぐ横にある森の方を指差した。
「ああ。シアンタウンは『青酸の森』に囲まれた劇物や毒物たちが住む街さ。シアンタウンには兵器工場もあるから、化学地方に住んでる他の奴らはこの街を毛嫌いしている。……同じ化学物質だってのに、薄情な奴らだ」
そう言ってニトロが暗い顔をした。
「ふうん、劇物や毒物か……」
そう呟いた俺にニトロが意外そうな顔をした。
「なんだ?興味あるのか?」
「あはは、ちょっとね……」
俺だって化学教師の端くれだ。せっかく理科の国の化学地方に来たのだから、帰る前にいろいろなところを見ておきたい。
「そうか。だったら案内してやるよ」
「え?いいの?」
ニトロが頷く。
「ちょうど俺もシアンタウンに行くところだったんだ。一緒にあんたも連れて行ってやるよ」
それを聞いて俺は微笑んだ。
「ありがとう、ニトロ」
そう言うとニトロがにっと笑った。
「よし。じゃあ、早速行くぞ」
先に歩き出したニトロの後を、俺はおいていかれないよう早足でついていった。
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