魔伝士ネイラーラ・ゾフィープ

随想アルファ

文字の大きさ
4 / 27
亜空間「箱庭」異譚

転移直後

しおりを挟む
「貴様何者だ」
答えを聞くつもりの無いネイッザは荒々しく怒気を向ける。
その間にも床に展開した召喚紋は文様の形を変え、回転する方向を逆にしていく。
そう。いまだ召喚に使った陣紋は消え失せず、それどころか形と色が変わっていく。いや乗っ取られていく。

「宰相様!優先的に陣が変化していきます!」
これは異常な事態だ。魔法発動者の魔術制禦はこの世界では優先される事象だから。
「ジャミングを全員で仕掛けろ!こいつは任せて置け」
事態は緊急を要する。
しかし、妨害の為に展開した阻害魔法は悉く術者の眼前に展開した自動反射の陣で返される。
それに耐えられない術者は壁や柱に向かって水平に飛行する。

そして叩き付けられて、血を撒き散らし、苦悶の呻きを揚げる呻きか、沈黙をするか。

気絶していない者は透明な液体を垂れ流し、或いは白色の半固形物を垂れ流して絶命している。
脳そのものか脳漿が出ている程のダメージなのは背中から衝突した後、加速が止まらないまま頭部を強かに激突させた故だろう。
物理的に皮膚が裂け、服や鎧の隙間から垂れ流し、或いは服も破れて身体の中身を曝け出している者もいれば、穴と言う穴から噴き出している者も。

水生生物の海鼠は苦しくなると自分の意志で内臓を出すと言うが、ここで広がる光景は残虐の一つだろう。
汚物の匂いと血の生臭さが一体を埋め尽くす。

ここまでの破壊を人体に及ぼす理由。
この室内の柱や壁には強力な防御魔法が作用している。
そして極最強度の防護結界は、攻撃性も高いレベルで発動する。
ある程度以上の条件が必要となるが、術式発動を含め非常事態宣言によって、今は密閉した屠殺部屋となったこの場所は、その真価を見せつけている。
床こそ召喚に用いるので表層部分と下層は別物だがその下層部分も硬さを魔法で底上げがなされており、天井も強度とは別に反射陣が織り込まれ、跳弾を利用できる配慮がされている。最も使いこなせる者はそうそう居ないが。

閉鎖空間に漂い、どんどんと増えていく余りの臭さに兵や神官らは嘔吐き出す、然もありなん、俺も正直なところツライ。
誰だ、此処までリアルな再現したのは・・・まぁ俺だが。

快楽も苦痛も現生のレベルと同等になっているが、仮、の生きている世界。
生れる落ちる者も死に逝く者も姿かたちは様々でランダムでは有るが、死者の魂を核にこの世界に満ちる魔力の構成素子で生物としては過不足の無い物体を作っているからこその弊害。
魔力素子の凝集と変換で肉体を得ているので、魔物の定義も出来なくはないが、此処にもモンスターや魔物・魔獣は存在しておりそれらは別のカテゴリーに区分されている。
出来損ないの肉体や劣化したボディがそのまま魔物として認識される事も有る。

僅かな時間で術者は全滅し、武装神官や近衛兵が物理的排除を試みようと一歩を踏み出す刹那。
「手を出すな!我の名において命じる!今回の召喚は失敗!!ここを封鎖し事態の修正を各員行え!」
ネイッザは妻であったホムンクルスを見遣り。
「ルナ、戦闘を許可する。必要なら全制限を解除しろ!強敵だ!!」
「御意に。旦那様」

まだあどけなさを貌に残している小柄の美しい少女。
出ている所が出ているので目の保養になる、肩を大胆に出している薄手の淡い水色からピンクに変わるグラデーションのドレスは非常にマッチしていて可愛らしい。
が、その股間には女性とは思えぬ膨らみが見て取れる。それも長くて太めのが・・・血流を送り込んだら凶器と化すだろう。
正直何が有るのか透けて見えるのだ。胸元も同様・・・下着を付けていないのも解ってしまう。

クラスメイト達は彼女の美しさと大胆さに感銘を受けた直後、悍ましさに慄くのだった。

彼女?・・・女性なのか?そう、疑問は受けるが、所謂ふたなりなのだ。

正直、彼女の役割は枕元での営業である。同時に四人と相手が出来て男女を問わない。
その時の、互いの体勢がどんなものかは想像に任せるしかないがな。
両性具有でその機能を健全に果たせるのはホムンクルスの真骨頂だろう。

その目が緑に光って長い黒髪が靡くと、残光と残像を残して襲い掛かってくる。
細身だが人では無いからこその速さ、膂力で潰すか掴まえるのだろう。

更に挟撃も兼ねているのだろうが、しかし・・・甘い。反撃する事を前提にしていなさ過ぎる。
「闇化」
左腕を向けて呟く。
ホムンクルスの手が届くことは無く、腹部を中心にして黒い球状の妙に物体感の在る靄が生れ、消えた次の瞬間には胴体を失い、空に投げ出され床に叩き落された四肢と頭部が残された。

俺は上げていた左腕をゆっくりと下げながらネイッザに声をかける。
「ルナか・・・妻だった者に多少は気持ちを残していたのだろうな。同じ名を与える位には」

「何を言っている。ただの道具だ、それに貴様は邪魔をし損害を出した贖いを受けさせる」

床に眼をくれないネイッザの代わりに、ルナと呼ばれたホムンクルスの顔を見る。
機能停止しているが、その目は夫であった男の方を向いていた。
「ネイッザ。お前によって曲げられた三つの魂は、しかしそれによって解脱が行われた。
 幸いなことにな。
 だから安心しろ、穢れが消えた以上は此処に留まる謂れなぞ無い」

その時、書き換えの終わった魔法陣は速やかに起動を始めた。

惨劇を目の当たりにしたクラスメイト達は余りの事に言葉を失い、固まっていたが、おかげでケガも無く戻せそうだ。
そんな中、ひょいとコチラを見て「先に戻っているね」と口を動かす一人。
答えを待つまでも無く全員が光に再び包まれ、輝きの消滅と共に誰も居なくなった。

ネイッザは両手を肩の辺りに掲げて、「インベントリ」「収納魔法」と唱えて取り出したのは右手に四角い棒状の物体、左手に短い錫杖に広めの飾り盾が見られる物体だった。

「それは竜の騎士の証!お前どうやって手に入れた!」
所有に制限があるその魔道具、事前に入手した情報の通り。
これが無ければ召喚魔法を意のままに操るのは難しい。
やってくれたな。さすがと言うべきか。
この世界を維持する精霊が四体。実力で奪取しなければ、先ず得られないから、こいつの実力評価は上方修正すべきだろう。
精霊の安否が気になるな。
ここが片付いたら見に行こう・・・。

手にした魔道具を握りしめてバックステップし起動スイッチを押し込む。
〈ブレード〉〈レディ・スタンバイ〉
音声と共に魔法陣が小さく展開、輝く。

ネイッザが持つ竜の騎士の証は、創成管理を司る「司祭の勇者」と呼称される。
魔術の行使を優先させる個性と「箱庭の理」の一部を受け持っている。

つまり、最強の魔法使いで在り、その場のあらゆる魔法を自分の制御下に置け、自在に操る事が出来る。

ただ、正規の使用者として認識できていない為に無双の魔道具でしかないのが、現状だと魔力総量の大きさから最悪の持ち主に与えられた事になる。
四角い棒状の物体「ドライブバー」を錫杖様物体「ドライブロッド」に三か所有るスリットの一つに差し込む。

〈ロードアップ・ブレード〉〈ドライブ・スタート〉
再び音声が響く。

ドライブバーは固有の術式と魔力を込めたアイテムで、ドライブロッドは読み込んだバーの発動媒体だ。
バーの種類と形式であらゆる術式を顕現できる。
込める必要が有るが、本人の魔力とは独立しているので消耗度が違う。
属性の変化も自在に行使できる。

何より戦いの時にインベントリと空間収納の使い分けが可能になる。
剣と銃の入れ替え。規模の大小の変更。攻撃手段の変移と種類の多さは格別だ。

・・・使いこなせれば。

ネイッザは角度が付いて差し込んだバーをロッドと一体化させるように押し曲げた。
〈ブレード・フルバースト〉
ロッドの上部が煌めき光の柱が立ち上る。
霧の状態から照度を高めながら凝集していき、輝く光の帯は剣の刃だと理解できる圧を放つ。

ブオン!!

前動作が一切無く。ロッドを振り上げて振り下ろす。
ロッドの形状は錫杖の円柱に飾り盾・・・意匠を凝らした飾りの盾が付いているが、その反対側にはコの字の持ち手が大振りに取り付けてある。
頂上部にはアイテムの挿入部の接続口が三か所有って、威力の底上げなり属性の融合なり色々と出来る。
その頂上部自体が効果の発動体でも有る。

今回は聖闇融合属性・剣の発動系である「刀」を選択し起動。
簡単に言えば消滅の魔法の一形態だ。

しかし。

発動中の転移術式の境界面で阻まれる。

それどころか光の剣が高い金属音と共に弾けて消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...