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15-3(ラインハルト)

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どうにも心配でならないラインハルトが、とりあえず駅まで迎えに行こうと腰を上げたところで、テーブルの上に置いていたスマートフォンが光って震えて、岬からの連絡を知らせた。
 見れば、今からタクシーで帰る、とのことだ。
 タクシーが何なのかわからないラインハルトがそれを聞くと、金を払って送迎を頼む車のことだという。
 ラインハルトの世界でいうところの、辻馬車みたいなものだろう。
 であれば一安心と、ホッと胸を撫でおろすも、非常に心配をしたことには変わりないわけで、帰ってきたらこんなに遅くなるのはどうかと言い聞かせねば、などと考えていたラインハルトは、実際に帰って来た岬を出迎えて、唖然としてしまった。

 真っ赤な顔でフラフラと玄関に立った岬は、いったいどれだけ飲んだのだというほど酔っ払っている。
 それだけならまだしも、何故か岬の隣には、見たことのないフワフワとした栗色の髪の女性が岬の腰に両腕を回してべったり引っ付いているのだ。
 ラインハルトの顔を見た途端怯えたように岬の胸に顔を埋めたその女性を、鼻の下を伸ばしたにやけ面で頭を撫でる岬は、どこのスケベオヤジだといった様子だ。
 挙句に、ギュッと抱きしめ返してその頭に頬ずりしだしたのを見た途端、ラインハルトの中の何かが、プチっと音を立てて切れた気がした。

 それからは修羅場だ。
 女性がこんな時間まで、こんな状態になるまで飲むなんてどういうことだと、怒って説教するラインハルトに、栗色の髪の女が泣き出し、それを岬が庇ってますますラインハルトがいきり立ち……、と、まあまあな混沌状態だった。
 しかも腹の立つことに、どんなに岬から引き剥がそうとしても、栗色の女は絶対に離れない。
 庇護欲をそそるかのように、岬の胸に顔を埋める様に、何度怒鳴りつけたい気持ちを抑えたことか。
 また岬も、そんな後輩が可愛くてしょうがない様子なのが癇に障る。
 最後、岬にはべそべそと泣いて見せておきながら、ラインハルトの方を見て、勝ち誇ったような顔をしたのを見た瞬間、血管が切れるかと思うほど頭にきたが、何とか堪えた自分を褒めて欲しいくらいだ。
 騎士たるもの、女性を怒鳴りつけるわけにはいかない。
 たとえそれが、どんなにいけ好かない相手だとしても、だ。
 二人に浄化魔法を掛けて水を飲ませた後、女性をソファーに寝かせるわけにもいかず、自分がリビングのソファーで一人寝ることになったのだが、その夜は腹立ちでラインハルトは中々寝付けなかったのだった。
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