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「ふーん。……もっと、嫉妬して騒ぐのかと思ったけど、意外」
ニヤリと笑って、篠山がラインハルトを見上げてくる。
その様子は、こちらを嘲弄するかのようだ。
ラインハルトは無心になって、目の前の肉をひっくり返した。
「中村さんは、岬さんが以前付き合ってた人、葉山さんの友人だったのよ」
「……」
「同期同士、よく3人でつるんでいたみたいだけど、岬さんと葉山さんが別れて、中村さんが傷心の岬さんを慰めたって話よ」
「……」
「つまり、中村さんは岬さんのことが好きだったんだと思うわ。岬さんは鈍いから、違うって言ってるけど」
「……そうか」
篠山は、ラインハルトの気持ちを搔き乱したいのだ。
わざとこちらの嫉妬を煽るような話を聞かせてくる。
岬とラインハルトの仲にヒビを入れることが目的なのだろう。
とにかく、敬愛する岬をラインハルトに連れていかれたくないという一心なわけだ。
そこまで考えて、ラインハルトはふ、と、息を吐いた。
「……だからお前は、わざと私を連れだしたんだな?」
わざわざラインハルトに声を掛けて、岬の側から離したのは、少しでも岬と中村を一緒に居させたいためだったからなのだろう。
まあ、こんな短時間で二人がどうにかなるとも思えないから、一番はラインハルトへの嫌がらせなのだろうが。
「ふふ、どうかしらね」
冷ややかなラインハルトの視線にもかかわらず、ふわりと花が綻ぶように笑う。
どこまでも、人を苛立たせたいのだ。
全くもって、とんでもない女である。
(……それにしてもミサキは、このシノヤマとかいう女を買いかぶり過ぎだろう……)
職場の女性達と上手くやれてないと岬は心配していたが、この性格ではそれも当然だろう。
お人好しの岬は気付いていないが、きっと他の同僚たちは、篠山のこの二面性をそれとなくわかっているからこそ、距離を置いているとしか思えない。
まあ、岬には随分と懐いているわけだから、岬が篠山のこの裏の顔に気付かないのも仕方がないのかもしれないが。
既に腹立たしさを通り越して、ラインハルトは疲れてしまっていた。
挙句胸には、モヤモヤとわだかまりが凝り固まって、しこりのようになっている。
それでも、場の雰囲気を壊すわけにはかないと、ラインハルトは努めて笑顔を浮かべていた。
しかしそんな中、たまたま一人になったタイミングで、当の噂の中村がラインハルトに声を掛けてきた。
「ラインハルト君。お疲れ」
笑いながら、よく冷えた缶を渡してくる。
礼を言って受け取って、栓を開けると、プシュッと音を立てて中身が泡となって吹きこぼれた。
「はは、ごめんごめん。運ぶときに少し振っちゃったかな」
「や、大丈夫だ」
岬もよく、吹きこぼれさせている。
アルコールではないようだが、発泡性の炭酸飲料なのだろう。
濡れるのも構わずそのまま缶に口を付ければ、口の中でシュワっと泡と独特の甘さが弾ける。
気分が晴れない今、冷たく爽快な刺激が心地よい。
二口、三口飲み込んで、顔を戻すと、中村がにっこりと笑顔を向けてきた。
ニヤリと笑って、篠山がラインハルトを見上げてくる。
その様子は、こちらを嘲弄するかのようだ。
ラインハルトは無心になって、目の前の肉をひっくり返した。
「中村さんは、岬さんが以前付き合ってた人、葉山さんの友人だったのよ」
「……」
「同期同士、よく3人でつるんでいたみたいだけど、岬さんと葉山さんが別れて、中村さんが傷心の岬さんを慰めたって話よ」
「……」
「つまり、中村さんは岬さんのことが好きだったんだと思うわ。岬さんは鈍いから、違うって言ってるけど」
「……そうか」
篠山は、ラインハルトの気持ちを搔き乱したいのだ。
わざとこちらの嫉妬を煽るような話を聞かせてくる。
岬とラインハルトの仲にヒビを入れることが目的なのだろう。
とにかく、敬愛する岬をラインハルトに連れていかれたくないという一心なわけだ。
そこまで考えて、ラインハルトはふ、と、息を吐いた。
「……だからお前は、わざと私を連れだしたんだな?」
わざわざラインハルトに声を掛けて、岬の側から離したのは、少しでも岬と中村を一緒に居させたいためだったからなのだろう。
まあ、こんな短時間で二人がどうにかなるとも思えないから、一番はラインハルトへの嫌がらせなのだろうが。
「ふふ、どうかしらね」
冷ややかなラインハルトの視線にもかかわらず、ふわりと花が綻ぶように笑う。
どこまでも、人を苛立たせたいのだ。
全くもって、とんでもない女である。
(……それにしてもミサキは、このシノヤマとかいう女を買いかぶり過ぎだろう……)
職場の女性達と上手くやれてないと岬は心配していたが、この性格ではそれも当然だろう。
お人好しの岬は気付いていないが、きっと他の同僚たちは、篠山のこの二面性をそれとなくわかっているからこそ、距離を置いているとしか思えない。
まあ、岬には随分と懐いているわけだから、岬が篠山のこの裏の顔に気付かないのも仕方がないのかもしれないが。
既に腹立たしさを通り越して、ラインハルトは疲れてしまっていた。
挙句胸には、モヤモヤとわだかまりが凝り固まって、しこりのようになっている。
それでも、場の雰囲気を壊すわけにはかないと、ラインハルトは努めて笑顔を浮かべていた。
しかしそんな中、たまたま一人になったタイミングで、当の噂の中村がラインハルトに声を掛けてきた。
「ラインハルト君。お疲れ」
笑いながら、よく冷えた缶を渡してくる。
礼を言って受け取って、栓を開けると、プシュッと音を立てて中身が泡となって吹きこぼれた。
「はは、ごめんごめん。運ぶときに少し振っちゃったかな」
「や、大丈夫だ」
岬もよく、吹きこぼれさせている。
アルコールではないようだが、発泡性の炭酸飲料なのだろう。
濡れるのも構わずそのまま缶に口を付ければ、口の中でシュワっと泡と独特の甘さが弾ける。
気分が晴れない今、冷たく爽快な刺激が心地よい。
二口、三口飲み込んで、顔を戻すと、中村がにっこりと笑顔を向けてきた。
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