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第二章
第二十四話 それぞれの思惑
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「お父様大好きです!」
私は反対側に座る父に近づくと、そのまま首に手をまわして抱きしめた。
温かく、ゴツゴツとしている父。
初めてこんな風に触れた気がする。
父はまんざらでもないように、嬉しそうな顔をしていた。
「やはり、嫁にやる必要などないな」
「まぁ、お父様。まずもって、貰い手がないですよ」
「ああ、それなんだが……。今から登城することになっている。アイリス、おまえも今日は一緒に来なさい」
「私も、城にですか?」
「そうだ。おまえに会いたいという方がいらっしゃるんだ」
「ということはグレンではなくってことですね」
「そうだな。ただ、今回のこの件もグレン君が一枚も二枚もかんでるとしか思えないんだがなぁ」
グレンがかんでいる。
それだけで、絶対にイイコトではないということだけは分かる。
それにしても、登城するならばさすがに着替えないとだめね。
一応ドレスではあるけど、普通の既製品のドレスでしかないし。
さすがにこれでは城は行けないわ。
「お父様、それでしたら私は急いで着替えてまいりますね」
「いや、そのままでいい。うん、そうだ。むしろそのままでいい」
「えええ? だってこのドレスでは」
「いいんだ。昨日も思ったが、おまえは着飾るとだめだ。あんなドレスなど着るから、目に留まったに違いない。なんなら、もっとみすぼらしドレスでも十分だ」
一人で言って一人で納得している父がいた。
一体なんのことを言っているのか、私にはさっぱり分からない。
要約してくれる母もここにはいないし。
目に留まったとはどういうことなんだろう。
『リン、お父様の言ってる意味わかる?』
『んー、たぶんご主人サマが可愛すぎるから、着飾ったらダメってことだリン。着飾ると狙うやつらが多いってことだと思うリンょ』
『またまたぁ。そんなワケないじゃない。だって、悪役令嬢な上に氷の姫君とかなんて言われてるのよ。そんなのないない』
『ご主人サマは自分のことを分かってなさすぎだリン』
まったく父といい、リンといい。
みんな私に対する評価が高すぎるのよね。
自分のことは自分が一番よく分かってるんだから。
◇ ◇ ◇
そう。よく分かっているはずだったのに。
なんでこんなことになっているのだろう。
私は今、父に連れられ城内の重厚な扉の前にいた。
赤く細やかな金細工が施されており、とても大きな扉の横には護衛のための騎士が配備されている。
今まで通りすぎてきたどの扉よりも、その扉は大きく頑丈に思える。
中には誰がと尋ねなくとも、なんとなく予想がつくところが嫌だ。
「えっとお父様、私はなぜここにいるのですか」
「……呼ばれたからだ」
父は今まで以上に深いため息をついた。
何かやらかしたかとしたら、おそらく昨日のことだろう。
そういえば、借りた上着は今日お洗濯に回したところだから返せないし。
「もし、だ。自分の意に反するようなことを言われたら絶対にお断りしなさい」
「ですが」
「構わない。あとはわたしがどうにかすればいいことだ。いいか、自分を曲げてまで嫌なことはしなくてもいい」
「お父様」
そんなことをしたら、武官としての父の立場も侯爵家としての立場も悪くなってしまうのに。
それでもハッキリと言ってくれるのね。
「分かりました。そうしますね」
「そうだ、大丈夫だからな。わたしは先に急いで仕事を済ませてくる。もし嫌になったら先に帰ってもいい。とにかく、すぐに迎えに来るからな」
「はい、お父様。大丈夫ですよ、なんせお父様の子ですから」
「そうか、そうだな。では、行ってきなさい」
後ろ髪引かれる父に手を振り、私はドアをノックした。
「アイリス・ブレイアムです」
「ああ、待っていた。入ってくれ」
中から聞き覚えのある声が返ってくる。
ああ、やっぱり。
私は一度下を向き、騎士たちに聞こえないように息を吐いたあと、中へと入った。
「いやぁ、呼びつけてすまなかった。仕事が立て込んで、外出不能なんだ」
執務の机に並べられた書類の隙間から、キースがひょっこりと顔を出した。
「いえ、大丈夫です殿下。本日はお招きいただきありがとうございます」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶などはいい。とにかく座ってくれ」
キースの執務室はは私の部屋の2倍くらいの広さがあった。
書類が山積みにされた執務用の机、来客用の机とソファー、奥には簡易用だろうか、ベッドまで置かれていた。
あまり不躾にならないように、見渡してから入室する。
にこやかな顔で、キースはソファーへ移動してくる。
そして私に手招きをした。
隣に座るのもなんだかおかしい気がして、対面に腰掛ける。
すると、ん-と言いながらキースは私の隣座りなおす。
「殿下!? も、もしかしてこちら側が殿下の席でしたか? すぐに移動します」
「移動? どこに行ってしまうんだい?」
立ち上がり移動しようとした私の手を、キースが掴む。
ななななな、なんこそこで手を掴むの。
今までこんな扱いをされたことがないので、免疫がなさすぎるのだ。
「侯爵やグレンから何も聞いてないのか?」
「なにを、ですか。私は何も聞いていません。ただ今日、父と一緒に登城するようにとしか」
「まあ、いいか。今から口説けばいい話だ」
「口説く? 口説く? え、口説くってどういう意味でしたっけ」
何が一体どうなっているの。
誰か先に説明をしておいてよ。
私は今ここにいない二人の名を、心の中で叫んだ。
私は反対側に座る父に近づくと、そのまま首に手をまわして抱きしめた。
温かく、ゴツゴツとしている父。
初めてこんな風に触れた気がする。
父はまんざらでもないように、嬉しそうな顔をしていた。
「やはり、嫁にやる必要などないな」
「まぁ、お父様。まずもって、貰い手がないですよ」
「ああ、それなんだが……。今から登城することになっている。アイリス、おまえも今日は一緒に来なさい」
「私も、城にですか?」
「そうだ。おまえに会いたいという方がいらっしゃるんだ」
「ということはグレンではなくってことですね」
「そうだな。ただ、今回のこの件もグレン君が一枚も二枚もかんでるとしか思えないんだがなぁ」
グレンがかんでいる。
それだけで、絶対にイイコトではないということだけは分かる。
それにしても、登城するならばさすがに着替えないとだめね。
一応ドレスではあるけど、普通の既製品のドレスでしかないし。
さすがにこれでは城は行けないわ。
「お父様、それでしたら私は急いで着替えてまいりますね」
「いや、そのままでいい。うん、そうだ。むしろそのままでいい」
「えええ? だってこのドレスでは」
「いいんだ。昨日も思ったが、おまえは着飾るとだめだ。あんなドレスなど着るから、目に留まったに違いない。なんなら、もっとみすぼらしドレスでも十分だ」
一人で言って一人で納得している父がいた。
一体なんのことを言っているのか、私にはさっぱり分からない。
要約してくれる母もここにはいないし。
目に留まったとはどういうことなんだろう。
『リン、お父様の言ってる意味わかる?』
『んー、たぶんご主人サマが可愛すぎるから、着飾ったらダメってことだリン。着飾ると狙うやつらが多いってことだと思うリンょ』
『またまたぁ。そんなワケないじゃない。だって、悪役令嬢な上に氷の姫君とかなんて言われてるのよ。そんなのないない』
『ご主人サマは自分のことを分かってなさすぎだリン』
まったく父といい、リンといい。
みんな私に対する評価が高すぎるのよね。
自分のことは自分が一番よく分かってるんだから。
◇ ◇ ◇
そう。よく分かっているはずだったのに。
なんでこんなことになっているのだろう。
私は今、父に連れられ城内の重厚な扉の前にいた。
赤く細やかな金細工が施されており、とても大きな扉の横には護衛のための騎士が配備されている。
今まで通りすぎてきたどの扉よりも、その扉は大きく頑丈に思える。
中には誰がと尋ねなくとも、なんとなく予想がつくところが嫌だ。
「えっとお父様、私はなぜここにいるのですか」
「……呼ばれたからだ」
父は今まで以上に深いため息をついた。
何かやらかしたかとしたら、おそらく昨日のことだろう。
そういえば、借りた上着は今日お洗濯に回したところだから返せないし。
「もし、だ。自分の意に反するようなことを言われたら絶対にお断りしなさい」
「ですが」
「構わない。あとはわたしがどうにかすればいいことだ。いいか、自分を曲げてまで嫌なことはしなくてもいい」
「お父様」
そんなことをしたら、武官としての父の立場も侯爵家としての立場も悪くなってしまうのに。
それでもハッキリと言ってくれるのね。
「分かりました。そうしますね」
「そうだ、大丈夫だからな。わたしは先に急いで仕事を済ませてくる。もし嫌になったら先に帰ってもいい。とにかく、すぐに迎えに来るからな」
「はい、お父様。大丈夫ですよ、なんせお父様の子ですから」
「そうか、そうだな。では、行ってきなさい」
後ろ髪引かれる父に手を振り、私はドアをノックした。
「アイリス・ブレイアムです」
「ああ、待っていた。入ってくれ」
中から聞き覚えのある声が返ってくる。
ああ、やっぱり。
私は一度下を向き、騎士たちに聞こえないように息を吐いたあと、中へと入った。
「いやぁ、呼びつけてすまなかった。仕事が立て込んで、外出不能なんだ」
執務の机に並べられた書類の隙間から、キースがひょっこりと顔を出した。
「いえ、大丈夫です殿下。本日はお招きいただきありがとうございます」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶などはいい。とにかく座ってくれ」
キースの執務室はは私の部屋の2倍くらいの広さがあった。
書類が山積みにされた執務用の机、来客用の机とソファー、奥には簡易用だろうか、ベッドまで置かれていた。
あまり不躾にならないように、見渡してから入室する。
にこやかな顔で、キースはソファーへ移動してくる。
そして私に手招きをした。
隣に座るのもなんだかおかしい気がして、対面に腰掛ける。
すると、ん-と言いながらキースは私の隣座りなおす。
「殿下!? も、もしかしてこちら側が殿下の席でしたか? すぐに移動します」
「移動? どこに行ってしまうんだい?」
立ち上がり移動しようとした私の手を、キースが掴む。
ななななな、なんこそこで手を掴むの。
今までこんな扱いをされたことがないので、免疫がなさすぎるのだ。
「侯爵やグレンから何も聞いてないのか?」
「なにを、ですか。私は何も聞いていません。ただ今日、父と一緒に登城するようにとしか」
「まあ、いいか。今から口説けばいい話だ」
「口説く? 口説く? え、口説くってどういう意味でしたっけ」
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私は今ここにいない二人の名を、心の中で叫んだ。
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