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第二章
第二十五話 意見交換会という名の
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「お戯れはお辞めください、殿下」
「戯れなどで気安く触っていい人ではないことぐらい分かっているさ」
「で、でしたらなぜです、殿下」
「キースでいいよ、アイリス嬢。敬語も必要ない。ここでは俺たちだけだ。気兼ねなく話して欲しい」
「……キース様……。では、私のこともアイリスとお呼び下さい」
王弟殿下をまさか名前で呼ぶ日が来るとは思っても見なかった。
しかし、よそ行きではない言葉でしゃべる会話は楽でいい。
「ああ、アイリス」
嬉しそうにキースは名前を呼ぶと、再び手を握ろうとする。
私は持っていた扇子で、ピシャリと叩く。
「キース様、婚約者でもない女性の手をむやみに握るものではないと思いますよ」
「これは手厳しい。さすが、グレンが見込んだだけある。今日ここへ来てもらったのは、少し話をしたくてね」
「グレン……」
「なんだ、ずいぶん嫌そうだな義兄が」
「ソウデモナイデスヨ。それより、どういったことですか。私に分かる話ならよいのですが」
片言で話す私に、キースは吹き出しながらも本題に入る。
「なに、簡単なことだよ。最近会議に参加するメンバーは年寄りばかりでね。若い子の話を聞きたくても俺の周りはほら、アレだろ」
アレと言われ、この前のカフェの様子を思い出す。
あの子たちでは、確かにまともな会話など難しそうだ。
そもそも、そんなことを期待して側に置いておいたわけではないと思うのだが、人の趣味はよく分からない。
私なら会話の通じない人間など、側にいるだけでめんどくさいと思ってしまうのに。
「確かに……」
「アイリスは今の王都はどう思う?」
「王都ですか、活気に溢れていて、いろんなお店がありとても栄えていると思います」
「その答えでは、会議の時と同じになってしまうよ」
キースが苦笑いをしている。
そうか、そういった無難は返答ではなくてということか。
「そうですね、まず物価がとても高いです。屋台など、露店の物価はそれほどでもないのですが、土地単価が高いせいか、店舗を構える店の品物は総じて高く思えます。例えば、王都に憧れる若者がいたとして、どこかの街や村から出てきたとしても容易に定住することは難しいでしょう。また店舗と露店の格差からも分かるように、王都の貧富の格差はやや問題になりつつあります。貴族にとっては王城も近く、住みやすいのかもしれませんが、他の庶民にとっては中々住みにくい場所かと思われます」
「物価か、そういう視点の切り出しは今までなかったな」
「おそらく会議のメンバーが貴族ですので、きっとこんなことは気にならないのでしょう」
かくいう私も、この前買い物に初めて行った時に感じただけなんだけどね。
露店のお店に比べて、カフェや装飾品などのお店は倍以上も値段が違っていたから。
「確かに、このまま貧富の差が開くのはまずいな」
王都といえ、貧富の差が広がればスラム化は避けられなくなる。
露天商たちが値上げを出来ないのも、そのためだ。
露店で買うのは、基本的には庶民だ。
そして働いているのも庶民である。
そこが店舗のように値上げしてしまっては、彼らが食べていけなくなる。
しかし値上げなければしないで、彼らの暮らしは楽にはならない。
「困ったなぁ。なにか解決策として良い案はあるかな」
「ん-。そうですね。例えばですが、王都に住まう貴族への税上げはどうですか?」
「それは無理だな。会議のメンバーはみんな貴族さ。自分たちが払うものを、簡単に上げさせると思うかい?」
「それはそうですが……。それなら贅沢税ではないですが、貴族が出入りする店舗の商品に課税をかけるのはどうですか?」
この世界には消費税というものは、存在しない。
そう考えると、取り立てといっては人聞きが悪いが取れるところは、まだあるはずだ。
「あとは、税を納めていない教会などにも一部納税義務を設けたり、冒険者ギルドや商会からも税を取るとか」
冒険者ギルドや商会は、設立する時にはお金を国に払うものの、法人税のようなものはない。
この前、ルカから冒険者になるにも手数料としてお金がかかると教えてもらった。
また依頼主からも、何パーセントかの手数料を取っているのだ。
そう考えるとただの仲介業者にしては、いい儲けだと思う。
「教会は難しいかもしれないが、冒険者ギルドと商会ならなんとかなるだろう。それに、商会へ言えば店舗からの税を取ることもさほど難しくないと思う。初めは反発もあるだろうが、何かその分の優遇策や見返りさえあれば大丈夫だろう。これは、いい案だな」
「お褒めいただき、ありがとうございます、キース様」
にこやかに言葉を返すと、先ほどまで前のめりで話を聞いていたキースはソファーに深く背を預ける。
そして両手で顔を覆い、何やら考えているようだった。
「キース様?」
「グレン、俺の負けだ」
「だから言ったではないですか。いい加減、腹を括るべきだと」
「グレン!?」
降参宣言をしたキースの声を聞きつけたのか、奥からグレンが出てきた。
入った時には気づかなかったら、奥にはもう一つ部屋があるようだった。
しかし、それにしてもだ。
立ち聞きというか、なんというか。
まさか奥に隠れてたなんて。
「これはどういうコトですか」
「ああ、そうも怒らないでくれアイリス」
「ちゃんと私が納得するように説明してください」
なんだかとっても馬鹿にされた気分だわ。
冗談じゃない、こんなやり方。
イライラとした私を気にすることなく、グレンはソファーに腰かけた。
「戯れなどで気安く触っていい人ではないことぐらい分かっているさ」
「で、でしたらなぜです、殿下」
「キースでいいよ、アイリス嬢。敬語も必要ない。ここでは俺たちだけだ。気兼ねなく話して欲しい」
「……キース様……。では、私のこともアイリスとお呼び下さい」
王弟殿下をまさか名前で呼ぶ日が来るとは思っても見なかった。
しかし、よそ行きではない言葉でしゃべる会話は楽でいい。
「ああ、アイリス」
嬉しそうにキースは名前を呼ぶと、再び手を握ろうとする。
私は持っていた扇子で、ピシャリと叩く。
「キース様、婚約者でもない女性の手をむやみに握るものではないと思いますよ」
「これは手厳しい。さすが、グレンが見込んだだけある。今日ここへ来てもらったのは、少し話をしたくてね」
「グレン……」
「なんだ、ずいぶん嫌そうだな義兄が」
「ソウデモナイデスヨ。それより、どういったことですか。私に分かる話ならよいのですが」
片言で話す私に、キースは吹き出しながらも本題に入る。
「なに、簡単なことだよ。最近会議に参加するメンバーは年寄りばかりでね。若い子の話を聞きたくても俺の周りはほら、アレだろ」
アレと言われ、この前のカフェの様子を思い出す。
あの子たちでは、確かにまともな会話など難しそうだ。
そもそも、そんなことを期待して側に置いておいたわけではないと思うのだが、人の趣味はよく分からない。
私なら会話の通じない人間など、側にいるだけでめんどくさいと思ってしまうのに。
「確かに……」
「アイリスは今の王都はどう思う?」
「王都ですか、活気に溢れていて、いろんなお店がありとても栄えていると思います」
「その答えでは、会議の時と同じになってしまうよ」
キースが苦笑いをしている。
そうか、そういった無難は返答ではなくてということか。
「そうですね、まず物価がとても高いです。屋台など、露店の物価はそれほどでもないのですが、土地単価が高いせいか、店舗を構える店の品物は総じて高く思えます。例えば、王都に憧れる若者がいたとして、どこかの街や村から出てきたとしても容易に定住することは難しいでしょう。また店舗と露店の格差からも分かるように、王都の貧富の格差はやや問題になりつつあります。貴族にとっては王城も近く、住みやすいのかもしれませんが、他の庶民にとっては中々住みにくい場所かと思われます」
「物価か、そういう視点の切り出しは今までなかったな」
「おそらく会議のメンバーが貴族ですので、きっとこんなことは気にならないのでしょう」
かくいう私も、この前買い物に初めて行った時に感じただけなんだけどね。
露店のお店に比べて、カフェや装飾品などのお店は倍以上も値段が違っていたから。
「確かに、このまま貧富の差が開くのはまずいな」
王都といえ、貧富の差が広がればスラム化は避けられなくなる。
露天商たちが値上げを出来ないのも、そのためだ。
露店で買うのは、基本的には庶民だ。
そして働いているのも庶民である。
そこが店舗のように値上げしてしまっては、彼らが食べていけなくなる。
しかし値上げなければしないで、彼らの暮らしは楽にはならない。
「困ったなぁ。なにか解決策として良い案はあるかな」
「ん-。そうですね。例えばですが、王都に住まう貴族への税上げはどうですか?」
「それは無理だな。会議のメンバーはみんな貴族さ。自分たちが払うものを、簡単に上げさせると思うかい?」
「それはそうですが……。それなら贅沢税ではないですが、貴族が出入りする店舗の商品に課税をかけるのはどうですか?」
この世界には消費税というものは、存在しない。
そう考えると、取り立てといっては人聞きが悪いが取れるところは、まだあるはずだ。
「あとは、税を納めていない教会などにも一部納税義務を設けたり、冒険者ギルドや商会からも税を取るとか」
冒険者ギルドや商会は、設立する時にはお金を国に払うものの、法人税のようなものはない。
この前、ルカから冒険者になるにも手数料としてお金がかかると教えてもらった。
また依頼主からも、何パーセントかの手数料を取っているのだ。
そう考えるとただの仲介業者にしては、いい儲けだと思う。
「教会は難しいかもしれないが、冒険者ギルドと商会ならなんとかなるだろう。それに、商会へ言えば店舗からの税を取ることもさほど難しくないと思う。初めは反発もあるだろうが、何かその分の優遇策や見返りさえあれば大丈夫だろう。これは、いい案だな」
「お褒めいただき、ありがとうございます、キース様」
にこやかに言葉を返すと、先ほどまで前のめりで話を聞いていたキースはソファーに深く背を預ける。
そして両手で顔を覆い、何やら考えているようだった。
「キース様?」
「グレン、俺の負けだ」
「だから言ったではないですか。いい加減、腹を括るべきだと」
「グレン!?」
降参宣言をしたキースの声を聞きつけたのか、奥からグレンが出てきた。
入った時には気づかなかったら、奥にはもう一つ部屋があるようだった。
しかし、それにしてもだ。
立ち聞きというか、なんというか。
まさか奥に隠れてたなんて。
「これはどういうコトですか」
「ああ、そうも怒らないでくれアイリス」
「ちゃんと私が納得するように説明してください」
なんだかとっても馬鹿にされた気分だわ。
冗談じゃない、こんなやり方。
イライラとした私を気にすることなく、グレンはソファーに腰かけた。
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