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第二章
第二十九話 仲良きことは、ではないハズ
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侯爵邸へ戻ると、入り口ホールではチェリーが待ち構えていた。
両腕を組みをして仁王立ちしている姿を見ると、帰りの遅い旦那を待つ妻のようだ。
「ずいぶん遅かったですわね、姉ぇさま。登城されていたとお聞きしたんですが、一体何かあったんですの?」
「用事だ。そんなことよりこんなところにいたら風邪を引くだろう。いくら姉さんのことが大好きだからといって、お前には決まった方がいるんだ。姉ばかり追い掛け回していると、グレン君に愛想をつかされてしまうぞ」
誰が見ても不機嫌だと分かるその様は、さすがに妹に甘い父でも苦言を呈す。
父から見て私を目の敵にして追い回すチェリーは、仲が悪いという風ではなくそんな風に映っているのか。
いやいや。どこをどうしたら、私とチェリーが仲が良いと思えるのかしら。
確かにずっと、私の後をチェリーは追いかけているけど。
見方や見る人が変わると、こう180度違うものなのかと感心してしまう。
だいたい、なぜいちいち私の行動をチェリーに報告しなければいけないのかしら。
「お父さま、別にわたくしは姉ぇさまを追い掛け回しているわけではないですわ。ただ、わたくしの婚約者であるグレン様と一緒だったと聞いて、居てもたっても居られなくなっただけです。勘違いしないで下さい」
「チェリー、私は王城からのお呼び出しをいただいたというだけで、グレンさまに会いに行ったわけではないわ」
「では、誰にお会いになられていたというんですの」
「……はぁ。私が今日お会いしていたのは王弟殿下であられる、キース様よ」
「まさか姉ぇさま、グレンさまの紹介で殿下と婚約なさるんですの!?」
「誰も今、そんな話はしてなかったと思うけど」
「でも、王宮に呼ばれてお会いしたということはそういうことじゃないんですの?」
「ただお会いしたというだけよ」
「それが怪しいと言っているんです」
「だいたい、仮にもし怪しかったらなんだと言うの。私が誰と婚約したところで、チェリーには関係のない話でしょう」
「関係あります。どうして、なんのきっかけで殿下とお知り合いになったのですか」
「だから、仮にと言っただけでしょう」
勘がいいというかなんというか。
ただチェリーは自分の婚約者よりキース様の身分が高いことが、よほど気に食わないらしい。
ヒステリックにも近い声を、チェリーが張り上げる。
毎回思うんだけど、自分はもう幸せになることが確定しているんだから私に構わないで欲しい。
これ以上、私を落とし込んで何になるというのだろう。
どうしてこの子は自分の幸せだけで満足出来ないのかしら。
そう、いつだってそう。
いつでも両親の関心も、周りの友だちたちも、みんな自分だけのモノにしてきたのに。
これ以上、何を望むっていうの。
「いい加減にしないか、チェリー」
「だってお父さま」
「チェリーにはグレン君という婚約者がいるのに、何の問題がある」
「そういう問題ではないじゃないですか」
「では、どういう問題だというのだ」
「それは……」
父の言っていることはもっともだ。
もしも仮に私が誰と婚約をしたところで、すでに婚約者がいるチェリーには全く関係のない話だ。
それなのに、先ほどから目に見えるほどの対抗心に似た怒りをひしひしと感じる。
なぜそうまでして、私が幸せになるのが気に食わないのかが全く分からない。
「チェリー、私は貴女がここをグレンさまと継いだら、出ていかなくてはならないの。そのために、グレンさまにはお仕事の口利きをしていただいたのよ。そこで、たまたま私の知識に興味を持った殿下に紹介されたというだけよ」
「ふーん、たまたまね。殿下は姉ぇさまのどこに、興味があるというの」
「いくらなんでも言いすぎだぞ、チェリー。アイリスは王立学園を次席で卒業しているんだ。今、王宮は男女の差別なく採用するという案を出している。もしそこにアイリスが採用されれば、妹としても喜ぶべきことではないか」
「別に喜んでないとは言っていませんわ」
「姉の出世に目くじらを立てているようにしか思えないぞ」
「わたしは別にそんなことはありませんわ。ただ、姉ぇさまのことが心配なだけです。そんなところに採用されて、侯爵家やグレンさまにご迷惑となったら困るではないですの」
「それこそいらぬ心配だ」
私の心配なのか、自分の家の心配なのか。
なんだかいろいろ話をすり替えているけど、結局根本は気に食わないと顔に書いてある。
まぁ、旦那の元婚約者が同じ職場にいるというのも、嫌なのは分かる。
ただそこに関しては、少なくとも私のせいではない。
そう結局はグレンが悪いというとこに戻るんだなぁ。
だいたい、いつも、どんな教科においても私はグレンには勝つことが出来なかった。
だからこそ、今回のいろんなコトを陰で糸引いているのがグレンに思えて仕方ない。
「あなたはいろいろ考えすぎよ、チェリー。お父様、私は疲れたので部屋に戻らせていただきますね」
「……」
「そうしなさい。チェリーも部屋へ行きなさい」
「……分かりました、お父様」
そう言って父がチェリーを追い払う。
少しゆっくりしよう。
まだ別に考えなければいけないことが増えてしまったから。
まだ何か言いたげなチェリーを無視し、私はそそくさと部屋へ戻ることにした。
両腕を組みをして仁王立ちしている姿を見ると、帰りの遅い旦那を待つ妻のようだ。
「ずいぶん遅かったですわね、姉ぇさま。登城されていたとお聞きしたんですが、一体何かあったんですの?」
「用事だ。そんなことよりこんなところにいたら風邪を引くだろう。いくら姉さんのことが大好きだからといって、お前には決まった方がいるんだ。姉ばかり追い掛け回していると、グレン君に愛想をつかされてしまうぞ」
誰が見ても不機嫌だと分かるその様は、さすがに妹に甘い父でも苦言を呈す。
父から見て私を目の敵にして追い回すチェリーは、仲が悪いという風ではなくそんな風に映っているのか。
いやいや。どこをどうしたら、私とチェリーが仲が良いと思えるのかしら。
確かにずっと、私の後をチェリーは追いかけているけど。
見方や見る人が変わると、こう180度違うものなのかと感心してしまう。
だいたい、なぜいちいち私の行動をチェリーに報告しなければいけないのかしら。
「お父さま、別にわたくしは姉ぇさまを追い掛け回しているわけではないですわ。ただ、わたくしの婚約者であるグレン様と一緒だったと聞いて、居てもたっても居られなくなっただけです。勘違いしないで下さい」
「チェリー、私は王城からのお呼び出しをいただいたというだけで、グレンさまに会いに行ったわけではないわ」
「では、誰にお会いになられていたというんですの」
「……はぁ。私が今日お会いしていたのは王弟殿下であられる、キース様よ」
「まさか姉ぇさま、グレンさまの紹介で殿下と婚約なさるんですの!?」
「誰も今、そんな話はしてなかったと思うけど」
「でも、王宮に呼ばれてお会いしたということはそういうことじゃないんですの?」
「ただお会いしたというだけよ」
「それが怪しいと言っているんです」
「だいたい、仮にもし怪しかったらなんだと言うの。私が誰と婚約したところで、チェリーには関係のない話でしょう」
「関係あります。どうして、なんのきっかけで殿下とお知り合いになったのですか」
「だから、仮にと言っただけでしょう」
勘がいいというかなんというか。
ただチェリーは自分の婚約者よりキース様の身分が高いことが、よほど気に食わないらしい。
ヒステリックにも近い声を、チェリーが張り上げる。
毎回思うんだけど、自分はもう幸せになることが確定しているんだから私に構わないで欲しい。
これ以上、私を落とし込んで何になるというのだろう。
どうしてこの子は自分の幸せだけで満足出来ないのかしら。
そう、いつだってそう。
いつでも両親の関心も、周りの友だちたちも、みんな自分だけのモノにしてきたのに。
これ以上、何を望むっていうの。
「いい加減にしないか、チェリー」
「だってお父さま」
「チェリーにはグレン君という婚約者がいるのに、何の問題がある」
「そういう問題ではないじゃないですか」
「では、どういう問題だというのだ」
「それは……」
父の言っていることはもっともだ。
もしも仮に私が誰と婚約をしたところで、すでに婚約者がいるチェリーには全く関係のない話だ。
それなのに、先ほどから目に見えるほどの対抗心に似た怒りをひしひしと感じる。
なぜそうまでして、私が幸せになるのが気に食わないのかが全く分からない。
「チェリー、私は貴女がここをグレンさまと継いだら、出ていかなくてはならないの。そのために、グレンさまにはお仕事の口利きをしていただいたのよ。そこで、たまたま私の知識に興味を持った殿下に紹介されたというだけよ」
「ふーん、たまたまね。殿下は姉ぇさまのどこに、興味があるというの」
「いくらなんでも言いすぎだぞ、チェリー。アイリスは王立学園を次席で卒業しているんだ。今、王宮は男女の差別なく採用するという案を出している。もしそこにアイリスが採用されれば、妹としても喜ぶべきことではないか」
「別に喜んでないとは言っていませんわ」
「姉の出世に目くじらを立てているようにしか思えないぞ」
「わたしは別にそんなことはありませんわ。ただ、姉ぇさまのことが心配なだけです。そんなところに採用されて、侯爵家やグレンさまにご迷惑となったら困るではないですの」
「それこそいらぬ心配だ」
私の心配なのか、自分の家の心配なのか。
なんだかいろいろ話をすり替えているけど、結局根本は気に食わないと顔に書いてある。
まぁ、旦那の元婚約者が同じ職場にいるというのも、嫌なのは分かる。
ただそこに関しては、少なくとも私のせいではない。
そう結局はグレンが悪いというとこに戻るんだなぁ。
だいたい、いつも、どんな教科においても私はグレンには勝つことが出来なかった。
だからこそ、今回のいろんなコトを陰で糸引いているのがグレンに思えて仕方ない。
「あなたはいろいろ考えすぎよ、チェリー。お父様、私は疲れたので部屋に戻らせていただきますね」
「……」
「そうしなさい。チェリーも部屋へ行きなさい」
「……分かりました、お父様」
そう言って父がチェリーを追い払う。
少しゆっくりしよう。
まだ別に考えなければいけないことが増えてしまったから。
まだ何か言いたげなチェリーを無視し、私はそそくさと部屋へ戻ることにした。
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