従順を演じていた令嬢の逆襲。本気になった私は王太子殿下を誘惑し、国を寝取りました。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
7 / 7

007

しおりを挟む
「王妃様に今回、出版のお話をお受けしていただきありがとうございました」


 ペンと紙を持った一人の女性記者がやや興奮しながら、前のめりになって私に声をかけた。

 ここは宮殿のある庭だ。

 色とりどりの花たちに囲まれたここで、お茶を飲みながら私は彼女から取材を受けている。


「いいのよ。どうせ私も退屈していたところだから」


 貴族たちの恋物語が本になるという最近の流行りに乗って、どうしてもと私のところにも話が来たのが数日前だ。

 本来は王妃の恋物語など公にするものではないとは分かっていたが、今回の私の逆襲の締め括りにはこれがぴったりだと思ったのだ。


「それにしてもこんな刺激的なお話を聞かせていただけるなど、思ってもみませんでしたわ。それにしても王妃様は素敵ですわ」

「ふふふ。ありがとう」


 あの後、殿下はすぐに隣国の姫君との仮婚約を破棄し、私と婚姻を結んだのだ。

 でも殿下は知らない。私の心の内を。

 現実、私にべた惚れのあの人は頭が上がらないでいた。

 そして次期国王であるこの子を産んだ私には、大臣やほかの者すらも最早頭は上がらない。


 そう、すべては計画通り。

 父が望んだ結果ではなく、私が望んだ結果のまま。

 この国すらも、私の手の中に……。


「まーた母上は、そんなウソ教えてるんですかー?」


 不意に私と記者とのお茶会を邪魔するように、声がかかる。

 父親似の青い瞳をした今年十二歳になる私の自慢の息子だ。

 私は父が望むように男の子を産むことが出来た。

 ただ父が望んだ相手ではないということだけ。

 しかし息子はとても意地悪そうな顔をしながら、お茶会に乱入してくる。


「う、嘘など付いてないですけど?」

「途中までは、でしょお母上」

「え、え、え、お、王妃さま!?」


 私はむくれた顔を隠すために、扇を広げ口元を隠す。

 まったくタイミングがいいというか、なんというか。


「ちゃんと真実を言わないとダメですよ、母上」

「どーせ物語なのですから、全てを真実で埋めなくてもいいでしょ」

「えっと……王妃様?」


 困惑した記者を横目に、息子は満面の笑みだ。

 まったく、せっかく綺麗にお話がまとまっていたというのに。

 しかも私好み、に。

 もう。これでは台無しだわ。


「記者さん、本当は母が父の部屋に行った夜、母を見た父が母に一目惚れしたんですよ」

「ま、まぁ。さすが王妃様。本当にお美しいですものね」

「で、その場で父が猛烈に口説き落として、他で決まっていた婚約を破棄させて母に結婚を申し込んだんです」


 そう。真実は息子の言う通りだ。

 部屋に入った瞬間からすぐに手を握られ、熱烈に殿下から口説かれてしまった。

 私の計画では誘惑して、寝取るというのが計画だったのに。

 その中、全部思い通りにはならないものね。

 だいたい、物語としてなら絶対にさっき話した方がかっこいいと思う。

 むーーーーー。

 あと少しだったのに。


「でも素敵じゃないですかー。国王様が王妃様にぞっこんだなんて」

「それではダメなのよ。だって私のシナリオとは違うのだもの」


 私はぷいっと横に顔を向けた。

 せっかくの刺激的ないいお話だったのに、最後の最後が溺愛だなんて。

 まぁ、実際悪くはないのも確かだけど……。


「えー、ダメなのですか? 王妃様。とても良いお話だと思うのですが」

「あはははは。母は、照れてるんですよ。自分で一生懸命計画を立てて、堕とそうとしていた父に溺愛されて甘やかされてるってことがバレるのが」

「な、べ、別に私は……」


 そう否定したものの、耳まで赤くなっているだろう私の顔を見れば一目瞭然だろう。

 もう。だから言いたくなかったのに。

 せっかくクールでカッコいい王妃のイメージが台無しよ。


「お、王妃様かわいい」

「も、もう。私は知りません」

「えー。ちゃんと本にさせて下さいよ、王妃様」

「勝手になさい」


 ざまぁからの国寝取りの話が、家族にただ従順に従うだけの可哀相な令嬢が国王に溺愛され見初められた話に切り替わったのはもっと後のことだ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

芹香
2023.02.05 芹香
ネタバレ含む
2023.02.05 美杉日和。(旧美杉。)

芹香さま

この度はたくさんの作品をお読みいただき、またご感想もたくさんいただきまして、大変ありがとうございます。
その言葉一つ一つがとてもうれしく、更新や新作を頑張ろうという前向きな気持ちにさせられました。

これからも精進してまいりますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

解除
cielot
2022.09.05 cielot
ネタバレ含む
解除
tago
2022.09.05 tago
ネタバレ含む
2022.09.05 美杉日和。(旧美杉。)

tagoさま

とても嬉しい感想ありがとうございます。
そうなのです。自分で~と見せかけてのまさかの溺愛なのです。

もし続編が書けるようになりましたらぜひ、またお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

解除

あなたにおすすめの小説

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。