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ルドを部屋から見送ったあと、私はサラに頼み外出の用意をしてもらった。
本当はこの部屋で外出許可をもらえたら良かったんだけど、昨日の今日では反対されそうだったから。
だから要件を書かずに、執務室にお邪魔してもいいかと文を書き、あえて凸ることにしたのだ。
執務室なら、他の人の目もある。いくらルドがヤンデレだからといって、そう簡単には私の願いを無下には出来ないはず。
ちょっと卑怯な手ではあるけど、別にお願い事は 難しいものでもないし。
嫌々でも、いいって言ってくれると思うのよね。
「お嬢様、殿下から文のお返しがきました」
サラはにこやかや顔で、花が添えられた手紙を私に渡してくれた。
小さな青い花。どこかでわざわざ摘んでくれたのかな。
たったこれだけのことでも、顔がふにゃけてしまう。
「どうでした?」
「え、あ、うん。来てもいいって。サラ、悪いけどコップにでもこのお花さしておいてくれるかしら。あとで帰ってきたら、押し花にしたいし」
「もちろんです。押し花、たくさん増えてきましたね」
「そうね。押し花も飾る方法を考えなければね」
ルドからもらったお花は、押し花に出来るものは全て押し花にしてもらっていた。
ドライフラワーにしたのもあったっけ。
自分でもここまでマメにしてるのは、結構驚いている。
でも捨てるという選択肢が思い付かなかったから、仕方ないわね。
好きな人からもらうものが、こんなにも嬉しいとか思ってもみなかったし。
「さて、じゃあルド様の執務室に行こう。外出許可、もらわないとね」
「大丈夫ですかねぇ」
「たぶん? そのために執務室を選んだわけたわし、大丈夫じゃないかな」
不安げなサラに微笑みかけ、そのまま私たちは執務室を目指した。
◇ ◇ ◇
執務室の前には護衛兵が二人、ドアの両脇に立っていた。
そのうちの一人に話しかけ、私は中のルドに許可を取ってもらう。
あらかじめ文で行くことを伝えてあったおかげで、私たちはすんなりと中に通された。
「ルド様」
「アーシエ、急にどうしたんだい?」
「ルド様にお願いしたいことがあって、来てしまったのですわ」
執務室の椅子にすわり、書類にペンを走らせながら不安げな表情をルドは見せた。
「これは珍しい。お久しぶりぶりです、クランツ令嬢」
部屋の奥から資料のような物を持った一人の貴族が、私に声をかけた。
身長はルドより少し低いくらいだろうか。ややつり目で、ルドよりも細い。
色白でひょろっとしてて……ある意味、もやしみたいな。って、さすがに言い過ぎかしら。
パッと見は、モテるのかな。私はややがっちり目が好きだからこんなに細い人は興味ないけど。
それに思わず悪態をつきたくなるほど、アーシエがこの人を嫌ってる気がする。
だって見た瞬間思わず『うわっ』って言いそうになったぐらいだし。
「お久しぶりです? あ、ルド様アーシエのお願い聞いて下さいますか?」
どうせ名前も覚えてなければ、私は知らない人でしかないその貴族をスルーして、再びルドに声をかけた。
「どんな願いなんだい?」
「実家に荷物を取りに一度戻りたいのです」
「それは!」
「今日の夕方には、戻りますわ。ルド様からいただいたモノたちを家に置いてきてしまっているので、取りに行きたいのです」
「だが……」
「ルド様が用意して下さった馬車で行き、荷物を取ったらすぐに戻りますわ」
「……」
「私にはルド様からいただいたモノが何よりも大切なので、側に置いておきたいのです」
ルドからもらったものが何かは分からないけど、きっと部屋に行けば分かるわよね。
それよりも大事なのは、レオと話をすることと、日記を手に入れること。
サラの話では、アーシエは毎日日記を書いていた。
そこにはきっと私の知らない過去のことや、ルドのことが書かれているはず。
変なアーシエの色恋話も、それがあれば一蹴出来るし。一石二鳥なのよね。
ただそこに恐怖がないわけではない。アーシエを知ることは、どこかで自分を否定することにもなるから。
私はアーシエではない。それを明確にさせに行くようなものだもの。
「分かった……許可しよう」
「ありがとうございます、ルド様。帰ってきたら今日も一緒に食事をしましょうね」
やや曇るルドに微笑みかける。本当はその頬に触れたかった。でも今ここには他の人もいるから、ちょっと我慢かな。
「馬車まではオレが案内いたしましょうクランツ令嬢」
またここでさっきの男が口をはさんでくる。
辞めてよね。許可がせっかく下りたのに、またルドの機嫌が悪くなったらどうするのよ。
「ユリティス」
「殿下、兵士だけでは心もとないのでエスコートしてくるだけですよ」
明らかにルドが敵視されてるのが見て取れる。
ん-。ヤンデレだからって感じではなさそう。んんん。なんていうか、心底嫌っているみたいな感じ。
「結構ですわ。どなたか知りませんが、ルド様に誤解をされてしまっても困りますので」
そう。本当に困るもの。私はあなたなんて知らないし、全く興味もないから。
きっぱりと言い放つと、男は不機嫌さを隠すことなく深く眉間にシワを刻んだ。
本当はこの部屋で外出許可をもらえたら良かったんだけど、昨日の今日では反対されそうだったから。
だから要件を書かずに、執務室にお邪魔してもいいかと文を書き、あえて凸ることにしたのだ。
執務室なら、他の人の目もある。いくらルドがヤンデレだからといって、そう簡単には私の願いを無下には出来ないはず。
ちょっと卑怯な手ではあるけど、別にお願い事は 難しいものでもないし。
嫌々でも、いいって言ってくれると思うのよね。
「お嬢様、殿下から文のお返しがきました」
サラはにこやかや顔で、花が添えられた手紙を私に渡してくれた。
小さな青い花。どこかでわざわざ摘んでくれたのかな。
たったこれだけのことでも、顔がふにゃけてしまう。
「どうでした?」
「え、あ、うん。来てもいいって。サラ、悪いけどコップにでもこのお花さしておいてくれるかしら。あとで帰ってきたら、押し花にしたいし」
「もちろんです。押し花、たくさん増えてきましたね」
「そうね。押し花も飾る方法を考えなければね」
ルドからもらったお花は、押し花に出来るものは全て押し花にしてもらっていた。
ドライフラワーにしたのもあったっけ。
自分でもここまでマメにしてるのは、結構驚いている。
でも捨てるという選択肢が思い付かなかったから、仕方ないわね。
好きな人からもらうものが、こんなにも嬉しいとか思ってもみなかったし。
「さて、じゃあルド様の執務室に行こう。外出許可、もらわないとね」
「大丈夫ですかねぇ」
「たぶん? そのために執務室を選んだわけたわし、大丈夫じゃないかな」
不安げなサラに微笑みかけ、そのまま私たちは執務室を目指した。
◇ ◇ ◇
執務室の前には護衛兵が二人、ドアの両脇に立っていた。
そのうちの一人に話しかけ、私は中のルドに許可を取ってもらう。
あらかじめ文で行くことを伝えてあったおかげで、私たちはすんなりと中に通された。
「ルド様」
「アーシエ、急にどうしたんだい?」
「ルド様にお願いしたいことがあって、来てしまったのですわ」
執務室の椅子にすわり、書類にペンを走らせながら不安げな表情をルドは見せた。
「これは珍しい。お久しぶりぶりです、クランツ令嬢」
部屋の奥から資料のような物を持った一人の貴族が、私に声をかけた。
身長はルドより少し低いくらいだろうか。ややつり目で、ルドよりも細い。
色白でひょろっとしてて……ある意味、もやしみたいな。って、さすがに言い過ぎかしら。
パッと見は、モテるのかな。私はややがっちり目が好きだからこんなに細い人は興味ないけど。
それに思わず悪態をつきたくなるほど、アーシエがこの人を嫌ってる気がする。
だって見た瞬間思わず『うわっ』って言いそうになったぐらいだし。
「お久しぶりです? あ、ルド様アーシエのお願い聞いて下さいますか?」
どうせ名前も覚えてなければ、私は知らない人でしかないその貴族をスルーして、再びルドに声をかけた。
「どんな願いなんだい?」
「実家に荷物を取りに一度戻りたいのです」
「それは!」
「今日の夕方には、戻りますわ。ルド様からいただいたモノたちを家に置いてきてしまっているので、取りに行きたいのです」
「だが……」
「ルド様が用意して下さった馬車で行き、荷物を取ったらすぐに戻りますわ」
「……」
「私にはルド様からいただいたモノが何よりも大切なので、側に置いておきたいのです」
ルドからもらったものが何かは分からないけど、きっと部屋に行けば分かるわよね。
それよりも大事なのは、レオと話をすることと、日記を手に入れること。
サラの話では、アーシエは毎日日記を書いていた。
そこにはきっと私の知らない過去のことや、ルドのことが書かれているはず。
変なアーシエの色恋話も、それがあれば一蹴出来るし。一石二鳥なのよね。
ただそこに恐怖がないわけではない。アーシエを知ることは、どこかで自分を否定することにもなるから。
私はアーシエではない。それを明確にさせに行くようなものだもの。
「分かった……許可しよう」
「ありがとうございます、ルド様。帰ってきたら今日も一緒に食事をしましょうね」
やや曇るルドに微笑みかける。本当はその頬に触れたかった。でも今ここには他の人もいるから、ちょっと我慢かな。
「馬車まではオレが案内いたしましょうクランツ令嬢」
またここでさっきの男が口をはさんでくる。
辞めてよね。許可がせっかく下りたのに、またルドの機嫌が悪くなったらどうするのよ。
「ユリティス」
「殿下、兵士だけでは心もとないのでエスコートしてくるだけですよ」
明らかにルドが敵視されてるのが見て取れる。
ん-。ヤンデレだからって感じではなさそう。んんん。なんていうか、心底嫌っているみたいな感じ。
「結構ですわ。どなたか知りませんが、ルド様に誤解をされてしまっても困りますので」
そう。本当に困るもの。私はあなたなんて知らないし、全く興味もないから。
きっぱりと言い放つと、男は不機嫌さを隠すことなく深く眉間にシワを刻んだ。
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