【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
48 / 52

048

しおりを挟む
「っっーーー」

「お嬢様! お嬢様に何を!」


 口の中から血の味がした。サラは私をかばうように、手を広げてユリティスの前に立つ。

 私よりも小柄で華奢なのに、きっとこの人に何かされたら大けがしてしまうわ。


「サラ!」


 私はサラの肩に手を置き、そっと私の後ろに回らせた。


「女性には優しくと習わなかったのかしら?」

「貴様!」


 売り言葉に買い言葉なのは分かっている。そしていかに私が短気だったということも。

 でもそれでも私以上にルドを馬鹿にした行動が、どうしても許せなかった。


「お兄様、それ以上顔に傷をつけると、後が面倒ですわよ」

 
 やや古ぼけ、使われなくなった別荘からユイナ令嬢が出て来た。

 『お兄様』ねぇ。よく言うわ。今頃のこのこ出てきて。

 王妃になりたい妹と、王妃の兄という権力を持ちたい兄。


「仲の良い兄妹ですこと」

「その減らず口だけは、どうにかしたいモノですわね。ホント、嫌な女」


 ユイナ令嬢が吐き捨てるように言った。

 申し訳ないが、それはこちらのセリフである。毒を飲ませた挙句にこんなとこにまでさらってきた人間の言うことじゃないわよ。


「まぁいいですわ。日が暮れて来たので、中に入りましょう? それとも、夜の森を二人で彷徨ってみます?」

「そんなこと言ったって、逃がす気なんてないのでしょう?」

 
 ユイナ令嬢のその形の良い唇が弧を描く。

 悪役そのものだな、心の中で悪態をつき、私たちは二人と共に無言のまま別荘に入って行った。



     ◇     ◇     ◇



 別荘に入り、私は二階の客間、サラは別の部屋へ連れて来られた。

 別荘内のどこもかなりの埃が蓄積されており、長い月日、使用していないことが窺える。

 ただ置いてある装飾品などは、細部まで装飾が施されており高そうだ。

 そんな高いものを平然と放置しているあたり、公爵家の別荘とみてまず間違いないだろう。

 なんともこんな足の付きそうな場所を選ぶなんて、やはり頭が悪いと思えてしまう。

 今頃、王城では私がいなくなったことで大騒ぎになっているはずだ。

 別々に連れて行かれたサラが心配だけど、時間さえ稼げればなんとかなるかもしれないわね。


 「そうそう。何か期待されているようなので言っておきますわ、アーシエ様。城へは空の馬車と共に、あなたからのお手紙を乗せてありますの」

「お手紙?」

「貴女が、他の殿方と駆け落ちしたというモノですわ」

「まぁ、ずいぶん想像豊かなことで。この計画はもしかして、初めからだったの?」

「よくお分かりになりましたね。そうですよ。あなたにあの薬を飲ませた時からね」


 悪気なく、ユイナ令嬢は毒花の様な笑顔を浮かべた。

 初めからアーシエの人格をなくし誰かと既成事実でも作らせ、駆け落ちさせようとでもしたのだろう。

 殺すことのリスクを考えれば、確かに簡単なことなのかもしれない。

 右も左も分からない少女に、颯爽と現れた男がそれを献身的に助け、恋に落ちる。

 夢見る令嬢の考えそうな計画だ。

 頭の中を開けなくても、きっとお花畑なのだろうということは想像できる。


「それで、ご自分が殿下からの寵愛を受けようと?」

「貴女さえいなければ、ルド様はわたくしのモノだったのです。幼い頃から婚約は決まっていたのに」

「でもそれは、あなたの御父上である公爵様とのお話でしかないのですよね?」

「だからなんだというのです」


 今にも噛みつきそうなぐらいの勢いだ。

 すべてにおいて、残念としか言いようがない。

 まぁもっとも、貴族の令嬢ならばユイナ嬢の考え方は普通のことなのだろう。

 私はアーシエであって、アーシエではないから。

 きっと考え方が違うのだ。


「そこには、ルド様の意志はないのですよね。親同士がという結びつきだけで、ユイナ様はルド様の心を少しでもお考えになったことはないのですか?」

「あははははは。殿下の御心? 公爵家の娘たるわたくしが、王妃となるのですよ。それのどこに不満があると言うのですか! 身分すら卑しいくせに、貴女はなにを言っているの?」

「これは身分の話ではなかったはずですが?」

「だったらなんだというの。貴女みたいな、あばずれ女など、社交界ではたくさんいるではないんですか。わたくしのように可憐で礼儀作法も完璧な人間などにいるものですか!」


 自分に絶対的な自信があるのだろうなというコトは理解出来る。

 でもその中にルドの気持ちという概念がない。


「はぁ。自分が可愛ければ、礼儀作法が出来れば、身分があれば、無条件でルド様からも愛してもらえると本気で思っていたのですか?」

「なんですって!」

「無償の愛は家族だけですよ。誰かを愛し、愛されたいのならば、まず相手を理解しないと。理解した上で、お互いが尊敬できる存在にならないと無理だと思うんですけど?」

「貴女、ホントに……。いつもいつもいつも、わたくしをそうやって馬鹿にして!」

「馬鹿にしてではなく、真実を述べたまでです」

「うるさい。貴女になにが分かるというの。分かったような口を聞かないでちょうだい」

「……分かったようなではなく、分かったからです。私はルド様を愛しているから。たとえ記憶がなくても、アーシエではなくても」


 『あの方がもう愛してくれなかったとしても』その一言だけをそっと飲み込む。

 本当だったら、一番にルドに聞かせたかった私の答えだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

処理中です...