2 / 5
002 憧れの異世界転生
しおりを挟む
「嘘でしょう。嘘……」
私は人知れず、言葉をこぼす。
だって、転生したっていうことは、一度死んだってことよね。
えー。なんで死んだんだろう。
過労死とか?
まぁ、食生活もずぼらだったし。
でもそれがまさか、夢にまで見た転生だなんて。
キョロキョロと辺りを見回し、人がいないことを確認すると、私は足早に木陰に隠れる。
ああ、ここならきっと誰の目にもつかないわ。
そしてもう一度だけ人目を確認すると、ウキウキとした気分を押さえられずに叫んでいた。
「ステータス、オープン!」
一度言ってみたかったのよ、これ。
だって前の世界でやったら、タダの痛い人だし。
いや、今だって誰かに見つかったら十分痛い人ではあるんだけど。
でも、どーーーーーしてもやってみたかったの。
すると私の期待に応えるように、小さな羽音にも似た機械音がした後、宙にステータスが表示された。
「キタキタキタキタキター」
これがあるってことは、普通の異世界転生じゃなくって乙女ゲームとかそっち系ってことよね。
あー。こんなことならラノベとかだけじゃなくて、そっちも齧《かじ》っておくべきだったなぁ。
ゲーム機は高いし、スマホは要領《ようりょう》小さいのしか買ってなかったからアプリ入れれなかったのよね。
いやぁ、残念過ぎる。
攻略法とか進め方とか全然わかんないじゃない。
「いや、まぁ、そもそも恋愛って……」
私が生まれて死ぬまで、何年あったっけ。
まぁ、若くはなかったと思う。
記憶がかなり曖昧だけど。
でも、一度だって彼氏いなかったもんなぁ。
いわゆる喪女ってやつ。
でも今更死んでしまったんだから、嘆《なげ》いても仕方ないし。
憧れの世界に来れたんだから、今度こそ人生を楽しまなきゃね。
「で、ステータスはどうなっているのかな」
私は一つずつ確認していくことにした。
ステータス―――――――――
ファーナ・オルコルト 16歳
オルコルト子爵家の長女
称号 転生薄幸ヒロイン
職業 学生
体力 30
精神力 50
根性 80
攻撃力 5
俊敏 10
幸運 18
固有スキル
毒耐性 レベル3
恐怖耐性 レベル2
孤独耐性 レベル3
状態異常無効
「うん。思ってたんとなんか違う!」
もうこれは声を大にして言いたい。
数値の凄さっていうのは全く分からないけど、称号の薄幸って何よ。
幸薄いとか、嫌なんだけど。
前世だってさぁ。
親は論外だったし、友だちもいなかったでしょう。
就職先は驚くほどブラックで、イイコトなんて何一つなかったっていうのに。
でも称号よりも酷いのが、スキルだよね。
なんかヒロインにそれって必要?
ってのしかないじゃない。
もっと聖女~とか、愛され~とか。
そういうの想像してたんだけどなぁ。
定番は光とか、聖なるでしょ、ふつー。
癒しの手とか使えたらサイコーなのに。
なんか暗殺者っぽいのしかないじゃん。
「毒……恐怖、孤独……。もしかして、このスキルって前世から引き継いだ系なのかな。ないよりはあった方がよさげなスキルではあるけど」
魔法……は聞いたことなかったっけ。この世界にはないっぽいな。
仕方ない。スキルもないよりはマシだと思おう。
でも毒耐性って。
昔、何か食べたかなぁ。
口元を押さえながら下を向いていると、木々が風に揺れた、
人の気配。
私は急いで視線を見上げる。
そこには心配そうに私をのぞき込む男性の姿があった。
「大丈夫か、オルコルト令嬢」
背が高く、細身のその男性は、やややる気のなさそうに薄緑の頭をかきながら声をかけてきた。
神経質とは真逆のようなその存在は、服も髪型もよれており、イケオジというには程遠かった。
「えっと先生?」
「なんでそこが疑問符なんだよ。おまえの担任だろが」
「あー、そうでした、そうでした」
記憶を一気に取り戻してしまったことで、頭の中が少し混乱してしまったみたい。
でも彼は確かに私の担任だ。
こんな成りでも、一応教授らしい。
「アザーレ教授35歳、独身。彼女ナシ。よし、ちゃんと覚えてる」
「おい。なんでそこを全部読み上げる。っつーか、何見てそんなスラスラ人のことを言ってるんだよ」
「え、あ、記憶力いいんです」
これは本当。
昔から変なとこだけ記憶力いいのよね。
「そんなことより、何かありましたか?」
「それはこっちのセリフだ。おまえが他のヤツに嫌がらせを受けていると、生徒から助けを求められて大急ぎで来たんだが」
おー。
わざわざ教授を誰か呼びに行ってくれたんだ。
すごいすごい。
ちゃんとした人もいるんじゃない、この世界。
お友達になりたいな。
「怪我はないか?」
「へ? 怪我っていうか、そもそも、嫌がらせなんて受けていませんよ?」
「は? なんだ、それは……。見たって奴らが数人いたんだが」
「ん-。いや、たぶん見解の相違みたいな?」
「おまえ、難しい言葉使ってごまかそうとしてないか?」
「いえ? 事実を言ったまでですよ」
だってアレが嫌がらせだなんて。
まぁ、貴族の子にとったらあれぐらいでも嫌がらせにあるのかもしれないけど。
実際の被害は手が濡れただけ。
しかも今は真夏よ。
たとえ頭から水をかぶったとしても、私なら嫌がらせって思えないかもなぁ。
さっきも思ったけど、あれが効果を発揮するのは真冬くらいよね。
これじゃあ、風邪もひけやしない。
一人納得する私に、アザーレ教授はなぜか深いため息をついていた。
「何にもないならいいが。だが一人で抱え込んだり、無理はするなよ。何かあったらすぐ相談しろ」
「んー、はい、了解です!」
私が元気に右手を上げれば、教授は心底呆れたような瞳をしていたが、私はあえて気にしないことにした。
私は人知れず、言葉をこぼす。
だって、転生したっていうことは、一度死んだってことよね。
えー。なんで死んだんだろう。
過労死とか?
まぁ、食生活もずぼらだったし。
でもそれがまさか、夢にまで見た転生だなんて。
キョロキョロと辺りを見回し、人がいないことを確認すると、私は足早に木陰に隠れる。
ああ、ここならきっと誰の目にもつかないわ。
そしてもう一度だけ人目を確認すると、ウキウキとした気分を押さえられずに叫んでいた。
「ステータス、オープン!」
一度言ってみたかったのよ、これ。
だって前の世界でやったら、タダの痛い人だし。
いや、今だって誰かに見つかったら十分痛い人ではあるんだけど。
でも、どーーーーーしてもやってみたかったの。
すると私の期待に応えるように、小さな羽音にも似た機械音がした後、宙にステータスが表示された。
「キタキタキタキタキター」
これがあるってことは、普通の異世界転生じゃなくって乙女ゲームとかそっち系ってことよね。
あー。こんなことならラノベとかだけじゃなくて、そっちも齧《かじ》っておくべきだったなぁ。
ゲーム機は高いし、スマホは要領《ようりょう》小さいのしか買ってなかったからアプリ入れれなかったのよね。
いやぁ、残念過ぎる。
攻略法とか進め方とか全然わかんないじゃない。
「いや、まぁ、そもそも恋愛って……」
私が生まれて死ぬまで、何年あったっけ。
まぁ、若くはなかったと思う。
記憶がかなり曖昧だけど。
でも、一度だって彼氏いなかったもんなぁ。
いわゆる喪女ってやつ。
でも今更死んでしまったんだから、嘆《なげ》いても仕方ないし。
憧れの世界に来れたんだから、今度こそ人生を楽しまなきゃね。
「で、ステータスはどうなっているのかな」
私は一つずつ確認していくことにした。
ステータス―――――――――
ファーナ・オルコルト 16歳
オルコルト子爵家の長女
称号 転生薄幸ヒロイン
職業 学生
体力 30
精神力 50
根性 80
攻撃力 5
俊敏 10
幸運 18
固有スキル
毒耐性 レベル3
恐怖耐性 レベル2
孤独耐性 レベル3
状態異常無効
「うん。思ってたんとなんか違う!」
もうこれは声を大にして言いたい。
数値の凄さっていうのは全く分からないけど、称号の薄幸って何よ。
幸薄いとか、嫌なんだけど。
前世だってさぁ。
親は論外だったし、友だちもいなかったでしょう。
就職先は驚くほどブラックで、イイコトなんて何一つなかったっていうのに。
でも称号よりも酷いのが、スキルだよね。
なんかヒロインにそれって必要?
ってのしかないじゃない。
もっと聖女~とか、愛され~とか。
そういうの想像してたんだけどなぁ。
定番は光とか、聖なるでしょ、ふつー。
癒しの手とか使えたらサイコーなのに。
なんか暗殺者っぽいのしかないじゃん。
「毒……恐怖、孤独……。もしかして、このスキルって前世から引き継いだ系なのかな。ないよりはあった方がよさげなスキルではあるけど」
魔法……は聞いたことなかったっけ。この世界にはないっぽいな。
仕方ない。スキルもないよりはマシだと思おう。
でも毒耐性って。
昔、何か食べたかなぁ。
口元を押さえながら下を向いていると、木々が風に揺れた、
人の気配。
私は急いで視線を見上げる。
そこには心配そうに私をのぞき込む男性の姿があった。
「大丈夫か、オルコルト令嬢」
背が高く、細身のその男性は、やややる気のなさそうに薄緑の頭をかきながら声をかけてきた。
神経質とは真逆のようなその存在は、服も髪型もよれており、イケオジというには程遠かった。
「えっと先生?」
「なんでそこが疑問符なんだよ。おまえの担任だろが」
「あー、そうでした、そうでした」
記憶を一気に取り戻してしまったことで、頭の中が少し混乱してしまったみたい。
でも彼は確かに私の担任だ。
こんな成りでも、一応教授らしい。
「アザーレ教授35歳、独身。彼女ナシ。よし、ちゃんと覚えてる」
「おい。なんでそこを全部読み上げる。っつーか、何見てそんなスラスラ人のことを言ってるんだよ」
「え、あ、記憶力いいんです」
これは本当。
昔から変なとこだけ記憶力いいのよね。
「そんなことより、何かありましたか?」
「それはこっちのセリフだ。おまえが他のヤツに嫌がらせを受けていると、生徒から助けを求められて大急ぎで来たんだが」
おー。
わざわざ教授を誰か呼びに行ってくれたんだ。
すごいすごい。
ちゃんとした人もいるんじゃない、この世界。
お友達になりたいな。
「怪我はないか?」
「へ? 怪我っていうか、そもそも、嫌がらせなんて受けていませんよ?」
「は? なんだ、それは……。見たって奴らが数人いたんだが」
「ん-。いや、たぶん見解の相違みたいな?」
「おまえ、難しい言葉使ってごまかそうとしてないか?」
「いえ? 事実を言ったまでですよ」
だってアレが嫌がらせだなんて。
まぁ、貴族の子にとったらあれぐらいでも嫌がらせにあるのかもしれないけど。
実際の被害は手が濡れただけ。
しかも今は真夏よ。
たとえ頭から水をかぶったとしても、私なら嫌がらせって思えないかもなぁ。
さっきも思ったけど、あれが効果を発揮するのは真冬くらいよね。
これじゃあ、風邪もひけやしない。
一人納得する私に、アザーレ教授はなぜか深いため息をついていた。
「何にもないならいいが。だが一人で抱え込んだり、無理はするなよ。何かあったらすぐ相談しろ」
「んー、はい、了解です!」
私が元気に右手を上げれば、教授は心底呆れたような瞳をしていたが、私はあえて気にしないことにした。
52
あなたにおすすめの小説
妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した
無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。
静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……
ヒロインだけど出番なし⭐︎
ちよこ
恋愛
地味OLから異世界に転生し、ヒロイン枠をゲットしたはずのアリエル。
だが、現実は甘くない。
天才悪役令嬢セシフィリーネに全ルートをかっさらわれ、攻略対象たちは全員そっちに夢中。
出番のないヒロインとして静かに学園生活を過ごすが、卒業後はまさかの42歳子爵の後妻に!?
逃げた先の隣国で、まさかの展開が待っていた——
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?
下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。
異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。
小説家になろう様でも投稿しています。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる