愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

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077 かくれんぼ

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 子猫の世話はとにかく大変だった。
 餌やりにトイレの躾。そしてヤンチャな子猫がいろんなものを破壊してしまい、都度その修理など。
 やることが多岐にわたり、王宮から帰ってきてから一週間たっても私が落ち着けることはなかった。

 ルカは毎日のように子猫の様子を見るために、騎士団との練習の合間に部屋を訪れてくれた。
 だけどなぜか子猫は私にばかりべったりで、気ままに振舞う猫にルカは時折悲しそうな顔をしていた。

「子猫の世話がこんなにも大変だとは思わなかったわ」

 自室で一人根を上げながら、ため息をつく。
 ルカのお誕生日パーティーまではあと五日。親しい人たちには招待状はすでに発送し、お誕生日プレゼントも用意した。

 パーティーに必要なお菓子や料理たちは、料理長たちとの相談も終わったし、飾りつけは侍女たちが行ってくれることとなった。
 ルカの衣装は明後日届くはずだったわね。

 毎日が忙しすぎて、なんだか何かを忘れている気もするけどそこまで頭が回らない。
 
「でも本当になんで、ルカへのプレゼントが子猫だったのかしら」

 部屋でのんきにお昼寝を楽しむ子猫を見た。
 まだ数日だが気づいたことがある。この猫はどうやら女性が好きなようだ。
 アッシュが触ろうとすると威嚇していたし、ルカにもあまり懐いてはしない。アーユが香水の匂いが好きなのかもしれないと言っていたけど、そんなのあるのかしら。

 猫自体は向こうの世界と見た目的には何も変わりないけど、まったく同じかと言われたら分からないのよね。飼っていたことがあるわけでもないし。

「可愛いから贈ったのだと思いたいけど、現状ルカと遊ぶ時間も全然なくなってしまったから嫌がらせかと思っちゃうわよね」

 そんなこと言ったらノベリアに被害妄想だとか言われそうだけど。
 でもせっかく命あるものを預かっているのだから、大事にしないと。それに猫だってもう少し大きくなって慣れてきたら、ルカやアッシュのとこにも行くようになるんじゃないかな、たぶん。

「どっちにしてもルカ不足だわ。最近全然まともに遊べていないし。お誕生日パーティーが終わったら、またどこかにお出かけしたいな」

 テーブルに右手を伸ばしながら突っ伏し、すやすやと寝息を立てる猫を見る。
 侍女たちにだけでも世話ができるようにならないと、お出かけも難しいのかな。
 でも、なんか本当に疲れちゃった。

 睡眠時間を削っていたせいか、窓から降り注ぐ温かな日差しのせいか。
 落ちていく瞼は止められず、心地好い昼寝をしてしまった。

 そしてどれだけ寝ただろうか。
 廊下がやや騒がしくなった音で、ふと目を覚ます。
 時間にしたら数時間ほどだとは思う。窓の外は辛うじて暗くなりかけたくらいだから。

 それにしてもこんなに屋敷が騒がしいなんて、何かあったのかしら。
 私はこわばる体を伸ばしながら、立ち上がると、ノックもなく息を切らしたアーユが部屋に飛び込んできた。

 彼女の顔を見たその瞬間、緊急事態なのだとすぐに分かる。

「何があったの、アーユ」
「奥様、ルカ様はこちらにはいらっしゃいませんでしたか?」

 焦り上ずったアーユの声。
 開け放たれたドアの向こう側にはいろんな使用人たちが、蒼白な顔で行き来している。

「ルカは朝訓練の前に一度立ち寄ってくれたけど……。ルカに何かあったの?」
「……ルカ様を侍女が見失いました」

 私はアーユの言葉の意味が分からず、何度もその言葉を頭の中で反すうさせる。

「ルカを見失った?」

 どういう意味だろう。
 見失ったって、何? ここは公爵家の屋敷の中で、どれだけの人間が働いていると思っているの?
 いくら大きな屋敷の中だからといって、見失うなんてことはあるのだろうか。

「かくれんぼでも……しているのよね」
「奥様……」

 それしか考えられないじゃない。
 アーユの目はそれを否定していても、そうではないと分かっていても、屋敷の中で見つからないだなんて、あるわけがない。

「誰がルカとかくれんぼを始めたの?」
「奥様! そうではないのです。付きの侍女が一旦目を離したすきに、忽然といなくなってしまったんです。今、屋敷の者たち総出で探しておりますが、一向に見つからず……」

 いろんなことが頭をよぎる。
 神隠しや誘拐。何にしても、いい予想ではない。
 でも屋敷の中でそんなこと起こるはずがないわ。外には騎士たちだっているし、使用人たちに見つからないように攫うなんて無理に決まっている。

「どこかに隠れて眠ってしまったとかではないの? 侵入された形跡がないのなら、いくらなんでもこんな厳重な屋敷の中で誘拐なんて無理でしょう」
「屋敷中の全ての部屋も倉庫も探しつくしたところです。ですが、どこにもいらっしゃらなくて」
「そんな……」

 私は何もかもが信じられず、ルカの部屋へ向かい走り出していた。 
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