愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

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061 一人でやってみよう

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 スタンピードによる騒ぎが収まった数週間後、だんだんと秋は深まりつつあった。
 
 あれほど青々としていた庭の木々はやや色を失い、落ち葉が風に舞うように。
 そして夏とはまた違った虫たちが夜は鳴いていた。

 ルカは毎日行っていた虫の観察を週の半分ほどに減らし、その代わり騎士団との体力づくりに参加したり、次期公爵となるための勉強も始めた。

 そうなると手持ち無沙汰になるのは私だった。
 元より一人ここでの仕事がない私は、本当に何もすることがなかった。
 
 しかも貴族令嬢が嗜むというような、刺繍や絵画などは驚くほど才能がない。
 辛うじてお菓子は作れるけど、料理長の腕にはかなわなかった。

 ただ一つだけ良かったことがある。
 それはあの別荘の湖の奥で、オパールによく似た宝石が採取出来たことだ。

 そして私の絶妙に下手な絵を元に、職人がブローチやタイピンを作ってくれている。
 完成したものを売るか何かすれば、かろうじて一人無職というわけでもなくなるというもの。

 公爵夫人なのだから働かなくてもいいのは分かっているけど、どうしても一人だけ楽しているのは嫌なのよね。前みたいな社畜になるつもりはないけど、少しくらい働かないと。

 そんなことを自室でぼんやり考えていると、最近はほぼ私付同然のアーユがノックのあと入室してきた。

「奥様、工房から試作品と奥様宛のお手紙が届いております」

 その手には私が職人に頼んでおいたものが入った宝石箱と、薄紫色の花が添えられた手紙が。

「手紙? 珍しいわね」

 ひとまず手紙を自室のテーブルの上に置くと、先に宝石箱を開けた。

 中には二サイズのネクタイピンと、同じ石を使ったブローチが入っている。
 驚くほど絵心がない絵から、オパールを中心に座した細やかな金細工のブローチが出来上がるなんてすごいわね。

 読解力というか、なんというか。
 こんなに綺麗なものを作ってくれて感謝しかないけど、それ以上に職人さんへ平謝りしたい気分だわ。
 もう少し絵が上手くなるように最低限の練習はしなくちゃ。あれじゃあ、幼稚園児の方がまだ上手だと自分でも思うもの。

「それはルカ様のお誕生日祝いですか?」

 アーユが宝石箱をのぞき込み、尋ねる。
 そうなのだ。
 あっという間で、ルカのお誕生日まではあと一か月ほど。

 それまでに招待客の選定と、プレゼント、あとは会場の飾りつけの打ち合わせや料理の打ち合わせなど、やらなければいけないことが山積みだ。

 取り急ぎ、私が一番にとりかかったのはこのネクタイピン。
 家族みんなでお揃いにするために、特注したのだ。

「そうなの。いいと思わない?」
「初めて見る石ですね。それがあの湖で取れたものですか?」
「そうなの。こんなに綺麗なら売れそうじゃない?」
「確かに……高値で売れそうですね」

 まじまじと見れば、確かに売れそうな気がする。
 もっとも、デザインはちゃんとした人に頼む方が良さそうだけど。

 この世界で主流な宝石たちで、こんな石見たことないものね。
 やってみないとお金になるか分からないけど、楽しそうなことはやってみたいかな。さすがに赤字にはたぶんならないでしょう。

「ルカのお誕生日が終わったら、ちょっと何か作って売ってみようかしら」
「それはいい案かもしれませんね」
「ふふふ。ちょっと楽しみだわ。で、これは誰からかしら?」

 私宛に手紙が届くのは初めてだ。しかも花まで添えられて、とても丁寧だし。

「んー?」

 でも見たコトがない家門ね。誰からかしら。
 私は少しワクワク感を覚えながら、手紙を開いた。
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