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004 その家族紹介は
「やっだぁ、そんな顔して。もしかして、もうヤキモチ?? 大丈夫よ、マチュは家族だもの」
何がそんなに可笑しいのか。
マチュは、隣に座るキーシストの腕をバンバン叩きながら笑っていた。
家族の定義って、なんだっけ。
少なくとも私が知っているモノとは、かなり違うことだけは間違いない。
「ああ、そうだ。マチュは家族なんだから何も気にすることはない」
「……そう、なのですね」
こう返すだけで、今の私には精一杯だった。
それでも笑顔を崩さなかっただけ、まだマシだと思ってほしい。
「それにしても随分あなたのうちから、ここまではかかるのね」
テーブルに置かれた紅茶を傾けながら、義母となる人が声をかけてくる。
今はそんな話などと思いつつも、うちの領地を知ってもらわないと、という義務感にかられる。
「馬車で半日ほどでしょうか。朝出発したのですが、なにぶん休憩も挟みますので」
「あまりに遅いから辻馬車で来たのかと思ったぞ」
「キー君やだぁ、貴族が辻馬車なんて」
声を出しながら笑う二人は、どこまでも醜悪なものに見えてしまった。
この人たちは辻馬車に乗ったことはあるのだろうか。
私は子どもの頃、何度か興味があって父にせがんで乗せてもらったことがある。
確かに乗り心地は極端に悪い。
座席はただの木でしかなく、クッション性がないため慣れないと揺れ具合から酔ってしまう。
それに途中途中で人を乗せるため、目的地までたどり着くのにはかなりの時間を要する。
それでも楽しいのは、自分の目的ではない場所を見られることだ。
普段行かないような離れた村や、変わった目的地。
そして会う予定もなかった見知らぬ人たちと見知らぬ景色は、本当に刺激的だった。
もっとも、貴族たちがそれに乗りたがらないのは理解できる。
時間の無駄だと思う人もいるだろう。
だけど今問題なのはそこではなく、田舎と辻馬車を馬鹿にされていることだ。
「二頭立てのちゃんとした馬車ですわ。ですが、急いで無理をさせますと馬も可哀そうですし」
私の言葉にマチュはあからさまに眉間にシワを寄せ、嫌そうな顔をした。
元貴族なら分かるでしょう。
嫌味に嫌味で返したことくらい。
基本普通の貴族が乗る馬車は、馬一頭で走らせるやや小ぶりのものだ。
だが、うちはあえて二頭立ての大きな馬車を使っている。
もっともただ裕福だからという意味ではなく、何かあった時などに急ぎ大人数でも移送出来るようにしているためなんだけど。
でも二頭立てだと言えば、普通の貴族なら大金持ちアピールしていると思うでしょうね。
別にそんなことまで言う必要性はどこにもないのだけれど、大切なモノを馬鹿にされたような気がして言ってしまった。
「リュシカさんのとこって、お金持ちなんですねー」
「それほどではないと思いますが、領地は広いですから」
「ふーん。でも、そんなお金持ちのお嬢さまに、花嫁修業とか大丈夫なのかなぁ」
マチュはそう言いながら、ちらりと母親の方を見た。
「そうねぇ」
品定めするかのようなその視線が、何とも居心地悪い。
「まぁ、やってないと何とも言えないけれど。うちは王都の由緒ある男爵家ですから? しっかりしてもらわないとね」
「まぁまぁ二人とも。今日はまだ来たばかりなんだ。明日からで構わないだろう?」
まるで助け舟だと言わんばかりに、キーシストが立ち上がった。
そして私の正面まで来ると、そっと私に手を差し出す。
エスコートしてくれる気はあるらしい。
私はその手にそっと自分の手を添える。
「まずは部屋に案内するよ。夕食の時間まで、ゆっくりするといい」
「……はい。ありがとうございます、キーシスト様」
この場からほんの少しでも離れられることに、私はホッとしつつ、彼と共に歩き出した。
何がそんなに可笑しいのか。
マチュは、隣に座るキーシストの腕をバンバン叩きながら笑っていた。
家族の定義って、なんだっけ。
少なくとも私が知っているモノとは、かなり違うことだけは間違いない。
「ああ、そうだ。マチュは家族なんだから何も気にすることはない」
「……そう、なのですね」
こう返すだけで、今の私には精一杯だった。
それでも笑顔を崩さなかっただけ、まだマシだと思ってほしい。
「それにしても随分あなたのうちから、ここまではかかるのね」
テーブルに置かれた紅茶を傾けながら、義母となる人が声をかけてくる。
今はそんな話などと思いつつも、うちの領地を知ってもらわないと、という義務感にかられる。
「馬車で半日ほどでしょうか。朝出発したのですが、なにぶん休憩も挟みますので」
「あまりに遅いから辻馬車で来たのかと思ったぞ」
「キー君やだぁ、貴族が辻馬車なんて」
声を出しながら笑う二人は、どこまでも醜悪なものに見えてしまった。
この人たちは辻馬車に乗ったことはあるのだろうか。
私は子どもの頃、何度か興味があって父にせがんで乗せてもらったことがある。
確かに乗り心地は極端に悪い。
座席はただの木でしかなく、クッション性がないため慣れないと揺れ具合から酔ってしまう。
それに途中途中で人を乗せるため、目的地までたどり着くのにはかなりの時間を要する。
それでも楽しいのは、自分の目的ではない場所を見られることだ。
普段行かないような離れた村や、変わった目的地。
そして会う予定もなかった見知らぬ人たちと見知らぬ景色は、本当に刺激的だった。
もっとも、貴族たちがそれに乗りたがらないのは理解できる。
時間の無駄だと思う人もいるだろう。
だけど今問題なのはそこではなく、田舎と辻馬車を馬鹿にされていることだ。
「二頭立てのちゃんとした馬車ですわ。ですが、急いで無理をさせますと馬も可哀そうですし」
私の言葉にマチュはあからさまに眉間にシワを寄せ、嫌そうな顔をした。
元貴族なら分かるでしょう。
嫌味に嫌味で返したことくらい。
基本普通の貴族が乗る馬車は、馬一頭で走らせるやや小ぶりのものだ。
だが、うちはあえて二頭立ての大きな馬車を使っている。
もっともただ裕福だからという意味ではなく、何かあった時などに急ぎ大人数でも移送出来るようにしているためなんだけど。
でも二頭立てだと言えば、普通の貴族なら大金持ちアピールしていると思うでしょうね。
別にそんなことまで言う必要性はどこにもないのだけれど、大切なモノを馬鹿にされたような気がして言ってしまった。
「リュシカさんのとこって、お金持ちなんですねー」
「それほどではないと思いますが、領地は広いですから」
「ふーん。でも、そんなお金持ちのお嬢さまに、花嫁修業とか大丈夫なのかなぁ」
マチュはそう言いながら、ちらりと母親の方を見た。
「そうねぇ」
品定めするかのようなその視線が、何とも居心地悪い。
「まぁ、やってないと何とも言えないけれど。うちは王都の由緒ある男爵家ですから? しっかりしてもらわないとね」
「まぁまぁ二人とも。今日はまだ来たばかりなんだ。明日からで構わないだろう?」
まるで助け舟だと言わんばかりに、キーシストが立ち上がった。
そして私の正面まで来ると、そっと私に手を差し出す。
エスコートしてくれる気はあるらしい。
私はその手にそっと自分の手を添える。
「まずは部屋に案内するよ。夕食の時間まで、ゆっくりするといい」
「……はい。ありがとうございます、キーシスト様」
この場からほんの少しでも離れられることに、私はホッとしつつ、彼と共に歩き出した。
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