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あくる日、葬儀はしめやかに行われることとなった。
黒い服に身を包んだ参列者たちが、棺の横に佇む私に挨拶をしていく。
もう泣かない。そう心に決めた。
私が強くならなければ、きっと死んでしまった両親が不安になると思うから。
「ああ、ティア大変だったね。でもぼくたちが来たからにはもう大丈夫だよ」
「あ、あの……?」
不意に参列者の一人に声をかけられた。
その男性は黒い服に身をつつみ、背は私と同じくらいだろうか。
その姿からは一瞬、誰か分からず私の思考は停止する。
どこかで見たことはあるのだけれど。
でも誰……。
ああでも、その隣にいる女性が父と同じ茶色い髪にグリーンの瞳。
「……叔父様?」
「ああ、そうだよ。君の父親の義兄だ。そうか、もう何年振りだからな。分からなくも無理はない」
「あんなに小さかったティアがこんなにも大きくなったのね。それなのに、こんなにかわいい娘を置いて旅立ってしまうなんて、きっとご両親もさずかし残念だったことだと思うわ」
「叔母様?」
黒い服にやや不釣り合いな、大きなダイヤの指輪とネックレス。
叔父よりもやや背が高いものの、同じように体形はふくよかだ。
長女だった叔母は、女のため家を継ぐことは出来なかった。
そして叔父は商人。
恋愛結婚らしいのだが、爵位を継げなかった叔母のために父が領地に家と店を建て、そこで暮らしているとは聞いていた。
だた二人がこの王都まで出てくることはほどんどなく、最後に会ったのはもういつのことだろう。
しかし両親の葬儀のために出てきてくれたのね。
でも、もう大丈夫というのはどういうことだろう。
「この度はわざわざ葬儀に起こしいただきありがとうございます」
「そんな堅苦しい挨拶はいいさ。ぼくたちは家族になるのだから」
「家族?」
「そうだ、家族だよ」
私はその言葉の意味が分からず、反芻する。
家族っていうのは、私が知っている家族のことかしら。
でももう私の家族は誰一人いなくなってしまったのに。
「そうよ、家族よ。だって女では爵位を継げないのは知っているでしょう? しかもうちの家系には、もう継げる直系の男はいないわ。なにせ、兄さんが死んでしまったのだから」
「ええ……そうですね」
「だからわたくしたちがここに来たのよ! わたくしたちがあなたの家族になって、その上でこの人が爵位を継ぐのよ」
「叔父様が爵位、を」
それは確かにそうだ。女では爵位を継げない。
私がカイルと結婚をしたとしても、私は公爵家に嫁に行く身だし。
どう頑張ったところで、私にはこの男爵家をどうすることも出来ない。
確かに血がつながってはいないとはいえ、叔父がここを継がなければこの男爵家はなくなってしまうわ。
ただ両親の思い出が詰まったこの家を、叔父たちとともに暮らす。
それがどこか、心に引っかかる。
今じゃなくたって。
何も今日じゃなくたって。
でもまだ未成年でしかない私には、大人が必要だものね。
ありがたい。そう思わなくちゃ。
「ああ、そういうことだったのですね」
「あらティア、あなたうれしくないの?」
「いいえ、そんなことはありません。ただいろいろ急なことばかりで混乱してしまって」
「まぁそれも無理のないことね。まさかこんな形で二人が死んでしまうなんて誰も思わなかったでしょう。幸い、親族が近くにいてよかったわね。そうでもなきゃ、家は取り潰されてしまうところだったもの」
「ええ、そうですね。ありがとうございます叔母様」
「いいのよ。困った時はお互い様でしょう。もう領地の家は引き払ってきたらか、今日からここに住むわ。あとで娘を紹介するわね。少し体が弱い子だから、先に部屋へ通してもらっているのよ」
「ああ、そうなのですね。気づかずに申し訳ありません」
「あなたと同じ年だから、すぐに仲良くなれると思うわ」
「……はい」
何から何まで本当に話が急すぎて、頭に入ってこなかった。
昨日まで領地に住んでいたのに、今日のためにもう家を引き払っただなんて。
仕事が早いというか、なんというか。
まるで初めからこうなることを分かっていたみたいにさえ、思える。
ダメね。疲れてるのかもしれない。
叔父様たちの善意を、そんな風に思ってしまうなんて。
二人は私とこの家のために、急いで駆けつけてくれたのだもの。
ちゃんと感謝しないと。
それにこれからは家族四人になるわけだし。
きっと領地から来られた叔父様たちは、勝手がわからないでしょう。
私が率先していろんなことをこなしたり、教えたりしていかないと。
残った使用人たちにまで迷惑をかけてしまうわ。
「これからよろしくお願いします」
私は深々と二人に頭を下げた。
「ああ、こちらこそなティア。これからはぼくたちを両親のように慕ってくれればいいからな」
「はい、叔父様」
「さぁ、これから忙しくなるぞ~」
「……」
葬儀会場の中に不釣り合いなほどの大きな叔父の声が響き渡る。
参列していた貴族たちがやや不快そうな顔を浮かべていた。
私はその参列者たちに頭を下げ、ただこの先の未来を不安に思っていた。
黒い服に身を包んだ参列者たちが、棺の横に佇む私に挨拶をしていく。
もう泣かない。そう心に決めた。
私が強くならなければ、きっと死んでしまった両親が不安になると思うから。
「ああ、ティア大変だったね。でもぼくたちが来たからにはもう大丈夫だよ」
「あ、あの……?」
不意に参列者の一人に声をかけられた。
その男性は黒い服に身をつつみ、背は私と同じくらいだろうか。
その姿からは一瞬、誰か分からず私の思考は停止する。
どこかで見たことはあるのだけれど。
でも誰……。
ああでも、その隣にいる女性が父と同じ茶色い髪にグリーンの瞳。
「……叔父様?」
「ああ、そうだよ。君の父親の義兄だ。そうか、もう何年振りだからな。分からなくも無理はない」
「あんなに小さかったティアがこんなにも大きくなったのね。それなのに、こんなにかわいい娘を置いて旅立ってしまうなんて、きっとご両親もさずかし残念だったことだと思うわ」
「叔母様?」
黒い服にやや不釣り合いな、大きなダイヤの指輪とネックレス。
叔父よりもやや背が高いものの、同じように体形はふくよかだ。
長女だった叔母は、女のため家を継ぐことは出来なかった。
そして叔父は商人。
恋愛結婚らしいのだが、爵位を継げなかった叔母のために父が領地に家と店を建て、そこで暮らしているとは聞いていた。
だた二人がこの王都まで出てくることはほどんどなく、最後に会ったのはもういつのことだろう。
しかし両親の葬儀のために出てきてくれたのね。
でも、もう大丈夫というのはどういうことだろう。
「この度はわざわざ葬儀に起こしいただきありがとうございます」
「そんな堅苦しい挨拶はいいさ。ぼくたちは家族になるのだから」
「家族?」
「そうだ、家族だよ」
私はその言葉の意味が分からず、反芻する。
家族っていうのは、私が知っている家族のことかしら。
でももう私の家族は誰一人いなくなってしまったのに。
「そうよ、家族よ。だって女では爵位を継げないのは知っているでしょう? しかもうちの家系には、もう継げる直系の男はいないわ。なにせ、兄さんが死んでしまったのだから」
「ええ……そうですね」
「だからわたくしたちがここに来たのよ! わたくしたちがあなたの家族になって、その上でこの人が爵位を継ぐのよ」
「叔父様が爵位、を」
それは確かにそうだ。女では爵位を継げない。
私がカイルと結婚をしたとしても、私は公爵家に嫁に行く身だし。
どう頑張ったところで、私にはこの男爵家をどうすることも出来ない。
確かに血がつながってはいないとはいえ、叔父がここを継がなければこの男爵家はなくなってしまうわ。
ただ両親の思い出が詰まったこの家を、叔父たちとともに暮らす。
それがどこか、心に引っかかる。
今じゃなくたって。
何も今日じゃなくたって。
でもまだ未成年でしかない私には、大人が必要だものね。
ありがたい。そう思わなくちゃ。
「ああ、そういうことだったのですね」
「あらティア、あなたうれしくないの?」
「いいえ、そんなことはありません。ただいろいろ急なことばかりで混乱してしまって」
「まぁそれも無理のないことね。まさかこんな形で二人が死んでしまうなんて誰も思わなかったでしょう。幸い、親族が近くにいてよかったわね。そうでもなきゃ、家は取り潰されてしまうところだったもの」
「ええ、そうですね。ありがとうございます叔母様」
「いいのよ。困った時はお互い様でしょう。もう領地の家は引き払ってきたらか、今日からここに住むわ。あとで娘を紹介するわね。少し体が弱い子だから、先に部屋へ通してもらっているのよ」
「ああ、そうなのですね。気づかずに申し訳ありません」
「あなたと同じ年だから、すぐに仲良くなれると思うわ」
「……はい」
何から何まで本当に話が急すぎて、頭に入ってこなかった。
昨日まで領地に住んでいたのに、今日のためにもう家を引き払っただなんて。
仕事が早いというか、なんというか。
まるで初めからこうなることを分かっていたみたいにさえ、思える。
ダメね。疲れてるのかもしれない。
叔父様たちの善意を、そんな風に思ってしまうなんて。
二人は私とこの家のために、急いで駆けつけてくれたのだもの。
ちゃんと感謝しないと。
それにこれからは家族四人になるわけだし。
きっと領地から来られた叔父様たちは、勝手がわからないでしょう。
私が率先していろんなことをこなしたり、教えたりしていかないと。
残った使用人たちにまで迷惑をかけてしまうわ。
「これからよろしくお願いします」
私は深々と二人に頭を下げた。
「ああ、こちらこそなティア。これからはぼくたちを両親のように慕ってくれればいいからな」
「はい、叔父様」
「さぁ、これから忙しくなるぞ~」
「……」
葬儀会場の中に不釣り合いなほどの大きな叔父の声が響き渡る。
参列していた貴族たちがやや不快そうな顔を浮かべていた。
私はその参列者たちに頭を下げ、ただこの先の未来を不安に思っていた。
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