悪役令嬢の涙。虐げられた泣き虫令嬢は、愛する人のために白猫と悪役令嬢を目指します。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
20 / 31

020

しおりを挟む
 本当に楽しく幸せな時間はあっという間だ。

 カイルとのお茶会は、カイルが昨日のお詫びにとたくさんのお茶菓子を用意してくれていた。

 公爵家のシェフによって作られたものと、カイルが朝から街まで出かけて買ってきてくれたスイーツたち。

 それらは全て、初めて食べるものばかりだった。

 そしてそんなお菓子を食べ紅茶を飲みながら、ゆったりと二人での会話を楽しんだ。

 まるで昔のように。

 時間があの頃に戻ったかのように、本当に幸せなものだった。


「今日はありがとうございます。お茶だけではなく、お庭のお散歩にまで誘っていただいて」

「最近はずっと婚約者らしいことが出来なかったから、そのお詫びだよティア」

「お詫びだなんて……何から何まですみません」


 カイルに送ってもらった部屋のドアを背にして立ち、カイルを見上げた。

 ホント、カイルは私になどもったいないような人ね。

 それぐらい優しくて誠実で……。なんで私なんだろう。

 なんで……なんで私は……。

 微笑みながら、答えのない問が頭の中をぐるぐると回る。

 こんな状況でなければ、父たちが生きていた頃なら純粋に喜べたのに。

 
「君が謝ることなど何もないよティア。だってそうだろう? 何も悪いことなどしていないのに、どうして謝らなければいけないんだい?」


 答えの言い出せない私は、ただ微笑むしか出来なかった。

 たとえそれがどんなに不細工な笑みだとしても。

 だって分かっていたから。

 悪いことはそう、私が非力で無力だということだって。

 でもそれを口にしたら、惨めさが増してしまう。

 だから微笑むことしか出来なかった。


「……すまない。君にそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。ただ君を見ていると、自分がとても非力に思えてしまう」

「非力? カイル様が、ですか?」

「ああそうだ。まだまだ俺は非力で何も出来なさすぎる」

「どうしてそんなこと言うのですか? 私をあそこから助け出して下さったのに」

「いいや。俺はあそこから連れ出せただけで、まだ君を救えてはいない。でも約束する。必ず君を救って見せるから。そして君の本当の笑顔を取り戻してみせる」

「カイル様……」


 カイルが非力と言うのならば、私なんてどうなるんだろう。

 ただずっと泣くのを我慢しているだけ。

 状況に流され、自分から動くこともせず、なんにも出来ていないじゃない。

 そう。やっぱりこれではダメなのよ。

 カイルが私を救ってくれるというのならば、私はせめてふさわしい人間にならないと。

 学園に着いたら、今後のことをしっかり決めていかないとダメね。

 私自身、自分の考えで。


「だから……」

「だから?」

「いや。今話すことではないな。きちんと行動で示していくよティア。一緒に頑張ろう」

「はい、カイル様」


 私の返事に満足したのか、カイルは私の頭を撫でると自分の部屋へ戻っていく。

 赤くなった頬を抑えつつ、私も部屋に入った。

 

     ◇     ◇     ◇



 部屋は昼間のような賑やかさはなく、静まり返っていた。

 あれほど人や物で溢れかえっていたのに、全て綺麗に片づけられている。

 さすが公爵家の侍女たちね。

 びっくりするほど手際がいいもの。

 私はきょろきょろと室内を見渡したあと、ベッドの縁に腰かけた。

 するとどこからともなく、白く私と同じ瞳の色をした猫がトコトコと近づいてくる。


「シロ! どこにいたの?」


 私と一緒にこの公爵家に来たものの、ずっと姿が見えなかったから心配していたというのに、本人はまるでどこ吹く風という感じでベッドに乗った。


『ちょっとイロイロねー。確認したいことがたくさんあったし~』

「それならそれで、一言ぐらい声かけてもいいじゃないの。私、すごく心配したんだから」

『あなたねぇ、精霊相手に心配してどうするのよ』


 猫なのに、明らかに呆れてる顔してる。

 だってしょうがないじゃない。精霊ってどんな存在かあまりよく知らないし。

 一緒に来たものが急にいなくなったら、普通心配するでしょう。


「精霊でも何でもよ。あそこから抜け出し、ココに来れたのはシロのおかげだし」

『まぁね。んで、学園行きが決まった感じ?』

「よく知ってるわね。シロすごーい。公爵様の提案で明日から学園の寄宿舎に入ることになったの。それでね、学園に行くための必要な服などを公爵夫人が用意して下さったのよ」

『ああ、でしょうね。二人は元々はティアに好意的だったものね』

「元々、は?」


 なんだろう。シロの言い方はすごく棘がある気がする。

 元々ってことは、いつかは違う日が来るってことなのかしら。

 もしかして精霊には未来予知とかの力があるのかな。

 でもそうだとしたら、いつかあの優しさがなくなってしまうってことよね。

 理解は出来ても、嫌だって思えてしまう。


『大丈夫よ。状況も全部変わってきているし、このままいけばなんの問題もないわ』

「そうなの?」

『そうよ。それにまだ起こってもいないことにぐずぐず悩んでも始まらないでしょう』

「うん。本当にそうね。でも良かったわ」

『何が?』

「シロが傍にいてくれて。私一人じゃ全然ダメだったもの。あの中でただずっと泣いてるだけだったわ」

『……そうね……そしていつしか歪んでいった……』

「え?」

『ううん。なんでもない。いいのよ。これはワタシがしたくてやってる、いわば贖罪しょくざいのようなものだから』

「シロの言うことは難しいことばかりね」

『あははは。気にしない気にしない。それより明日は早いんでしょう。さっさと寝るわよ』


 シロは器用に私のベッドの布団の中に潜り込む。

 こう見ると、本当にただの猫でしかないのに。なんだか不思議ね。

 でもシロの言う通り、まだ起きてもいない未来を考えても仕方ないわ。

 ますは一つずつ解決していかないとね。


「そうね。おやすみなさいシロ」

『おやすみティア。よい夢を、そして新しく素晴らしい明日を』


 シロの言葉を薄れゆく意識の中で聞いた。

 母とまったく同じセリフ。

 ああ、こんなこともあるのね。もう二度と聞くことはないと思っていたのに……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...