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学園内の広場からやや外れ、先生たちのいる職員室を背にする形で、木の掲示板が置かれていた。
私の手を広げた大きさよりも大きな掲示板には、たくさんの張り紙が貼られている。
個人的な募集から、校内での募集。
またよく見ると、校外の飲食店などの仕事まで書かれていた。
「ん-。校外はさすがに何かあるといけないから、校内で探したいんだけど……」
ただあまり目立つものはやめた方がいいだろう。
公爵家に迷惑をかけてしまっても困るし、変な噂が流れてしまっても困る。
身分を隠せれば一番いいのだけど、中々それも難しそうだし。
みんながカイルのことを知っていて、その婚約者である私のことを知らない人はそんなにいなさそうなのよね。
「食堂の配膳や清掃……配膳はさすがに人前だからなぁ。こっちは職員室の清掃かぁ。職員室なら、何とかなるかしら」
でも職員室には生徒も出入りするわけだから、さすがに微妙かしら。
他には何か……。
「研究棟での書物整理!」
これはいいんじゃないかしら。
この学園には生徒が通う場所の奥に、学園の先生たちが行う研究棟がある。
基本的にそこには一般の生徒は入ることが出来ない。
前にその話をした時に、薄暗くて気持ち悪いなんて言っている生徒もいたっけ。
あそこなら、ほとんど人にも合わないし、何か言われたら先生のお手伝いをしてるんですって言ってしまえば完璧じゃない。
「うん。これにしよう」
私はその張り紙をはがし、注意事項などを読む。
んと、うるさくない者、根気のある者、出来れば古代語などが読める者。
作業は簡単な書物の片付け等です。
気になるものは研究棟一階奥までお越しください。
「こんなに良さそうなのがあって良かったわ」
『そう? あんまり良さそうには思えないけど』
「えー。だってシロ、作業は簡単そうよ。古代語はそんなに得意ではないけど」
『古代語は最悪アタシがなんとかなるけど、たぶんこれ書いたヤツ、気難しそうよ』
「そうなの?」
『そうでしょう。だって作業内容よりもまず、こんな人募集って書いてる辺りからして』
「でもやっぱり一緒に働く以上、気の合う人がいいんじゃないかな」
『そんな簡単なコトじゃないと思うけど』
猫の眉間って、シワ寄ってもほぼ分からないわね。でも、気にし過ぎだと思うんだけどなぁ。
だって一緒に働くなら、きっと気が合う働き者の方がいいわけだし。
確かにそれを前面に押し出してるのは、ちょっと圧強めではあるけど。
「とにかく行ってみましょう? 採用されるとも限らないし」
『……まぁ、そうね。でも……うん。行けば分かるから、いいんじゃない』
なんともシロは歯切れの悪い言い方をしながらも、私の先をトコトコとその小さな足で歩き出す。
道分かるのすごいなぁなんて、やや的外れなことを考えながら私はその後に続く。
まだ早朝。ほぼ誰も歩いていない校舎を眺めつつ歩き出すと、爽やかな風が足元を通り過ぎて行った。
私の手を広げた大きさよりも大きな掲示板には、たくさんの張り紙が貼られている。
個人的な募集から、校内での募集。
またよく見ると、校外の飲食店などの仕事まで書かれていた。
「ん-。校外はさすがに何かあるといけないから、校内で探したいんだけど……」
ただあまり目立つものはやめた方がいいだろう。
公爵家に迷惑をかけてしまっても困るし、変な噂が流れてしまっても困る。
身分を隠せれば一番いいのだけど、中々それも難しそうだし。
みんながカイルのことを知っていて、その婚約者である私のことを知らない人はそんなにいなさそうなのよね。
「食堂の配膳や清掃……配膳はさすがに人前だからなぁ。こっちは職員室の清掃かぁ。職員室なら、何とかなるかしら」
でも職員室には生徒も出入りするわけだから、さすがに微妙かしら。
他には何か……。
「研究棟での書物整理!」
これはいいんじゃないかしら。
この学園には生徒が通う場所の奥に、学園の先生たちが行う研究棟がある。
基本的にそこには一般の生徒は入ることが出来ない。
前にその話をした時に、薄暗くて気持ち悪いなんて言っている生徒もいたっけ。
あそこなら、ほとんど人にも合わないし、何か言われたら先生のお手伝いをしてるんですって言ってしまえば完璧じゃない。
「うん。これにしよう」
私はその張り紙をはがし、注意事項などを読む。
んと、うるさくない者、根気のある者、出来れば古代語などが読める者。
作業は簡単な書物の片付け等です。
気になるものは研究棟一階奥までお越しください。
「こんなに良さそうなのがあって良かったわ」
『そう? あんまり良さそうには思えないけど』
「えー。だってシロ、作業は簡単そうよ。古代語はそんなに得意ではないけど」
『古代語は最悪アタシがなんとかなるけど、たぶんこれ書いたヤツ、気難しそうよ』
「そうなの?」
『そうでしょう。だって作業内容よりもまず、こんな人募集って書いてる辺りからして』
「でもやっぱり一緒に働く以上、気の合う人がいいんじゃないかな」
『そんな簡単なコトじゃないと思うけど』
猫の眉間って、シワ寄ってもほぼ分からないわね。でも、気にし過ぎだと思うんだけどなぁ。
だって一緒に働くなら、きっと気が合う働き者の方がいいわけだし。
確かにそれを前面に押し出してるのは、ちょっと圧強めではあるけど。
「とにかく行ってみましょう? 採用されるとも限らないし」
『……まぁ、そうね。でも……うん。行けば分かるから、いいんじゃない』
なんともシロは歯切れの悪い言い方をしながらも、私の先をトコトコとその小さな足で歩き出す。
道分かるのすごいなぁなんて、やや的外れなことを考えながら私はその後に続く。
まだ早朝。ほぼ誰も歩いていない校舎を眺めつつ歩き出すと、爽やかな風が足元を通り過ぎて行った。
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