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005 最低な夜会
王子殿下の生誕を祝う夜会は、聖女とのお茶会のちょうど二週間後に行われた。
それまでの間、ダレンが私の屋敷に訪ねて来ることも、手紙をよこすことも一度もなかった。
本来ならば夜会のエスコートのために、衣装などの打ち合わせ連絡があるはずなのに。
大方聖女からエスコートの件は話をつけたとでも言われたのだろう。
それでも私に一言、伺いを彼の口から立てるべきなのに。
それすら必要ないと思っているのかもしれない。婚約者とは、彼にとってなんなのだろう。
考えても仕方のないことだとは思っても、考えずにはいられなかった。
仕方なく私は、父と夜会へ行くことに。
父は王宮まで向かう馬車の中でも、ずっと無言だった。
親子仲はそれほど悪くはなかったものの、父は昔から口数が家でも少ない。
兄たちのように私は父から怒鳴られたことはなかったけれど、表情の読み取れない父は苦手でしかなかった。
今日だってエスコートはしてくれているけれど、実際何を思っているのだろう。
不甲斐ない娘だと思っているのかな。
思われたところで、父が彼と聖女をセットにしたのでしょう、と言ってしまえばいいだけなんだけど。
感情論で話せば、理詰めで返されるのがオチよね。
父が何も言い出さないからこそ、私からも何も言うことをやめた。
正解ではなくても、これが最適解だと思っている。
「ガーラント公爵家様」
そう名前を呼ばれ王宮の広間に入ると、その場にいた貴族たちの視線が一斉に降り注ぐ。
今までにはない反応ね。
彼らはどこまでも好奇の目で私を見ていた。
そして私と彼らを見比べるように、次の視線は広間の中央にいる二人に向けられる。
モスグリーンのドレスに大粒のエメラルドのネックレスを付けた聖女キララと、黒い衣装に身を包んだダレンだった。
婚約者ではなく、彼女と衣装を合わせてきたのね。
暗黙のルールであっても、それがどういう意味になるか知っているでしょうに。
観客たちは二人をどう見ているのかしら。
お似合いの二人? それとも仕方のないこと?
数名の知った顔たちは、私の代わりに泣きそうな顔をしている。
婚約者と揃えるべき衣装を、わざとしていなのだもの。
誰が見てもおかしいとは思うだろう。
私自身も、彼の色をまったく身に着けていないのだから。
まるで向こうの方が婚約者同士みたいね。
「あー、リーシア様!」
なぜかそう言いながら聖女がこちらを向き、手を振った。
そしてダレンと腕を組んだまま、にこやかな顔で近づいて来る。
「あれぇ、パートナーはお父様なんですの?」
彼女は口元を押さえ、嬉しそうに私に尋ねる。
「ええ。他に適役がおりませんでしたので」
「えー。それじゃあ、この先も困っちゃうじゃない」
「そうでしょうか」
「やだぁ、もしかして強がっちゃってる感じぃ?」
どこまでもこの人は神経を逆なでする人ね。
わざとだと分かっていても、腹が立つ。
この先もダレンを返すつもりはない。そう言いたいのでしょう。
だけど顔になど感情を出してはあげない。
少なくとも彼女の思い通りになんてならないんだから。
「ダレンが婚約者である以上、他を立てるなど不誠実になりますので」
「ふーん。なんか大変ね」
ケラケラと笑う彼女を無視し、私はダレンを見上げる。
ダレンは困った顔をするわけでもなく、また私から視線を逸らした。
きっとこれが答えなのね。
そう思った私も、わざと彼から視線を外す。
私の視界の端で、聖女がニタリと笑ったのが見えた。
それまでの間、ダレンが私の屋敷に訪ねて来ることも、手紙をよこすことも一度もなかった。
本来ならば夜会のエスコートのために、衣装などの打ち合わせ連絡があるはずなのに。
大方聖女からエスコートの件は話をつけたとでも言われたのだろう。
それでも私に一言、伺いを彼の口から立てるべきなのに。
それすら必要ないと思っているのかもしれない。婚約者とは、彼にとってなんなのだろう。
考えても仕方のないことだとは思っても、考えずにはいられなかった。
仕方なく私は、父と夜会へ行くことに。
父は王宮まで向かう馬車の中でも、ずっと無言だった。
親子仲はそれほど悪くはなかったものの、父は昔から口数が家でも少ない。
兄たちのように私は父から怒鳴られたことはなかったけれど、表情の読み取れない父は苦手でしかなかった。
今日だってエスコートはしてくれているけれど、実際何を思っているのだろう。
不甲斐ない娘だと思っているのかな。
思われたところで、父が彼と聖女をセットにしたのでしょう、と言ってしまえばいいだけなんだけど。
感情論で話せば、理詰めで返されるのがオチよね。
父が何も言い出さないからこそ、私からも何も言うことをやめた。
正解ではなくても、これが最適解だと思っている。
「ガーラント公爵家様」
そう名前を呼ばれ王宮の広間に入ると、その場にいた貴族たちの視線が一斉に降り注ぐ。
今までにはない反応ね。
彼らはどこまでも好奇の目で私を見ていた。
そして私と彼らを見比べるように、次の視線は広間の中央にいる二人に向けられる。
モスグリーンのドレスに大粒のエメラルドのネックレスを付けた聖女キララと、黒い衣装に身を包んだダレンだった。
婚約者ではなく、彼女と衣装を合わせてきたのね。
暗黙のルールであっても、それがどういう意味になるか知っているでしょうに。
観客たちは二人をどう見ているのかしら。
お似合いの二人? それとも仕方のないこと?
数名の知った顔たちは、私の代わりに泣きそうな顔をしている。
婚約者と揃えるべき衣装を、わざとしていなのだもの。
誰が見てもおかしいとは思うだろう。
私自身も、彼の色をまったく身に着けていないのだから。
まるで向こうの方が婚約者同士みたいね。
「あー、リーシア様!」
なぜかそう言いながら聖女がこちらを向き、手を振った。
そしてダレンと腕を組んだまま、にこやかな顔で近づいて来る。
「あれぇ、パートナーはお父様なんですの?」
彼女は口元を押さえ、嬉しそうに私に尋ねる。
「ええ。他に適役がおりませんでしたので」
「えー。それじゃあ、この先も困っちゃうじゃない」
「そうでしょうか」
「やだぁ、もしかして強がっちゃってる感じぃ?」
どこまでもこの人は神経を逆なでする人ね。
わざとだと分かっていても、腹が立つ。
この先もダレンを返すつもりはない。そう言いたいのでしょう。
だけど顔になど感情を出してはあげない。
少なくとも彼女の思い通りになんてならないんだから。
「ダレンが婚約者である以上、他を立てるなど不誠実になりますので」
「ふーん。なんか大変ね」
ケラケラと笑う彼女を無視し、私はダレンを見上げる。
ダレンは困った顔をするわけでもなく、また私から視線を逸らした。
きっとこれが答えなのね。
そう思った私も、わざと彼から視線を外す。
私の視界の端で、聖女がニタリと笑ったのが見えた。
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※以前他のサイトで掲載していた作品です