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エピローグ 晴れやかな音楽と共に復讐を
どこまでも上機嫌な聖女は、各国から集められたお酒を振舞われるままに飲んでいた。
そしてそれは、彼女と組んでいるダレンも同じ。
ダンスを踊らないキララのせいもあってか、二人はあっという間に酔ってしまったらしい。
顔を真っ赤にしている二人を危惧した王女殿下の手配で、二人は休憩室へと消えていく。
私は二人がきちんと部屋に入室したのを確認したあと、柱の陰からそっと部屋を外から見ていた。
時間にしてどれくらいだろうか。
広間から流れる優雅な音楽が、一曲、二曲と終わっていく。
「ああ、そろそろ頃合いね」
そして三曲目が始まる頃、私はゆっくりと動き出した。
曲はゆったりとして優雅なメヌエットから、テンポが良く小気味よいワルツに変わる。
その曲に合わせるように動けば、なんだか心は一気に晴れやかになった。
私はキララとダレンが入った休憩室を、ノックすることなく一気に開ける。
予想していた通り、中では裸で絡み合う二人がベッド上にいた。
私はそれを確認すると、躊躇なく一気に大声を上げる。
いくら王宮内で音楽がかかっているとはいえ、女性の大きな悲鳴が上がれば、誰もが立ち止まった。
そして慌てふためく彼らに一度微笑みかけたあと、私はその場にへたり込み、両手で顔を覆い尽くす。
「な、何よあんた!」
「リー、リーシア、こ、これは違うんだ!」
二人の怒号など誰も気にしない。
ただ私の悲鳴を聞きつけた多くの参加者たちが、急ぎ部屋の前に駆けつけてくれた。
布団でキララたちは自分たちの裸を隠そうと躍起になっている。
しかし隠したところで、だ。
ここで何が行われていたかなど、誰が見ても分かることだろう。
あまりの光景に叫ぶ令嬢や、彼ら以上に慌てふためく大臣たち。
全ては私の計画通りだった。
勧められるままに二人が飲んでいたお酒には、私が用意した媚薬が混ぜられていたのだ。
そうとも知らずに、ガバガバとよく飲んでくれたわね。
もっとも、飲まなかったとしても結果はほぼ同じだと私は思っている。
ただこの方が、みんないろいろと納得すえるでしょう?
「あんたが勝手に部屋を開けるからこんなことになったのよ! わざとでしょう!」
どこまでも怒りが収まらない聖女は、私を非難し続ける。
そんな言葉を投げかければ投げかけるほど、みんなはあなたの本性を知ることになるというのに。
馬鹿は扱いやすくていいわね。
「私はただ……休憩室に二人が入ったまま戻らなかったから心配で……」
顔を覆い尽くしたまま泣きまねをすれば、すぐさまいろんな令嬢たちが私を取り囲んでくれた。
そして彼女たちの手を借りて、よろよろと立ち上がる。
「まさか聖女様がこんなお方だったなんて……」
「穢れてしまっても聖女だなんて言うのかしら」
「それにダレン様はどう償うつもりなんです?」
「ほんと、汚らわしい」
一気に他の令嬢たちから睨みつけられ責め立てられた二人は、言葉に詰まる。
「私はもういいのです。ダレン様が私ではなく聖女様のことを愛していたのは知っていました。だから……」
「違うんだ! 違うんだ、リーシア! おれの話を聞いてくれ。これは違うんだ」
下半身に布団を巻きつけた状態で、ゆっくりとダレンが近づいてくる。
しかし他の令嬢たちが私を庇うように壁を作りガードしてくれていた。
でもそうね。
せっかく最後なんだもの、言っておいた方がいいかもしれないわね。
私たちはそっと彼女たちに触れて顔を見たあと、ダレンの前に立った。
「リーシア、おれが愛しているのは君だけなんだ。これはそう……ただの間違いで」
身振り手振りでダレンは私に説明をし始める。
いかに婚約者として私を愛してきたのか。
今もまだ愛しているのか。
婚約は取りやめたくない。
結婚しよう。
この過ちは全部聖女のせいだと……。
後ろでキララが「ふざけるな」と激怒していても、ダレンは気にも留めなかった。
そして縋りつく様な瞳で私を見つめる。
「リーシアはまだおれのことが好きなんだろう? だからこんなことまでして……」
「もういいです」
「ん? 許してくれるのか?」
希望に満ちたダレンの笑みに、私は満面の笑みで返す。
そして彼にそっと近づき、その耳元で囁いてみた。
「私はダレン様のことを好きでも嫌いでもありませんわ。むしろもう、どうでもいいんです。あなたがこの先どうなろうと、どうでもいい。だから私の目の前からとっとと消えて下さいな」
「リー……シア」
ダレンは顔を蒼白にしながら、私を見て小刻みに震えていた。
ああ、うん。これでよかった。
「どうでもいい」この言葉はピッタリね。
ずっと考えていた。冷めた情は、どうなるのかと。
初めは嫌いになるのかと思っていたけれど、それ以上ね。
嫌いと思うことすら面倒なほど、とっとと視界から消えてもらいたい。
でもこれで国は一気に動き出すだろう。
穢れてしまった聖女の地位のために、きっと彼らはキララを女しかいない教会に収容するはず。
ダレンはまぁ、知らないけれど。
廃嫡は免れないだろうし、この先結婚も無理。
そこまでのことをしてくれたのだ。
後ろで額に手を当てる父には、きっとあとで説教を食らうわね。
私ももう、この国では良縁は難しいかもしれない。
でもいいのだ。
今はこんなにも晴れやかな気分なのだから。
鳴り止まない音楽たちが、今の私の心の中をどこまでも高揚させてくれていた。
そしてそれは、彼女と組んでいるダレンも同じ。
ダンスを踊らないキララのせいもあってか、二人はあっという間に酔ってしまったらしい。
顔を真っ赤にしている二人を危惧した王女殿下の手配で、二人は休憩室へと消えていく。
私は二人がきちんと部屋に入室したのを確認したあと、柱の陰からそっと部屋を外から見ていた。
時間にしてどれくらいだろうか。
広間から流れる優雅な音楽が、一曲、二曲と終わっていく。
「ああ、そろそろ頃合いね」
そして三曲目が始まる頃、私はゆっくりと動き出した。
曲はゆったりとして優雅なメヌエットから、テンポが良く小気味よいワルツに変わる。
その曲に合わせるように動けば、なんだか心は一気に晴れやかになった。
私はキララとダレンが入った休憩室を、ノックすることなく一気に開ける。
予想していた通り、中では裸で絡み合う二人がベッド上にいた。
私はそれを確認すると、躊躇なく一気に大声を上げる。
いくら王宮内で音楽がかかっているとはいえ、女性の大きな悲鳴が上がれば、誰もが立ち止まった。
そして慌てふためく彼らに一度微笑みかけたあと、私はその場にへたり込み、両手で顔を覆い尽くす。
「な、何よあんた!」
「リー、リーシア、こ、これは違うんだ!」
二人の怒号など誰も気にしない。
ただ私の悲鳴を聞きつけた多くの参加者たちが、急ぎ部屋の前に駆けつけてくれた。
布団でキララたちは自分たちの裸を隠そうと躍起になっている。
しかし隠したところで、だ。
ここで何が行われていたかなど、誰が見ても分かることだろう。
あまりの光景に叫ぶ令嬢や、彼ら以上に慌てふためく大臣たち。
全ては私の計画通りだった。
勧められるままに二人が飲んでいたお酒には、私が用意した媚薬が混ぜられていたのだ。
そうとも知らずに、ガバガバとよく飲んでくれたわね。
もっとも、飲まなかったとしても結果はほぼ同じだと私は思っている。
ただこの方が、みんないろいろと納得すえるでしょう?
「あんたが勝手に部屋を開けるからこんなことになったのよ! わざとでしょう!」
どこまでも怒りが収まらない聖女は、私を非難し続ける。
そんな言葉を投げかければ投げかけるほど、みんなはあなたの本性を知ることになるというのに。
馬鹿は扱いやすくていいわね。
「私はただ……休憩室に二人が入ったまま戻らなかったから心配で……」
顔を覆い尽くしたまま泣きまねをすれば、すぐさまいろんな令嬢たちが私を取り囲んでくれた。
そして彼女たちの手を借りて、よろよろと立ち上がる。
「まさか聖女様がこんなお方だったなんて……」
「穢れてしまっても聖女だなんて言うのかしら」
「それにダレン様はどう償うつもりなんです?」
「ほんと、汚らわしい」
一気に他の令嬢たちから睨みつけられ責め立てられた二人は、言葉に詰まる。
「私はもういいのです。ダレン様が私ではなく聖女様のことを愛していたのは知っていました。だから……」
「違うんだ! 違うんだ、リーシア! おれの話を聞いてくれ。これは違うんだ」
下半身に布団を巻きつけた状態で、ゆっくりとダレンが近づいてくる。
しかし他の令嬢たちが私を庇うように壁を作りガードしてくれていた。
でもそうね。
せっかく最後なんだもの、言っておいた方がいいかもしれないわね。
私たちはそっと彼女たちに触れて顔を見たあと、ダレンの前に立った。
「リーシア、おれが愛しているのは君だけなんだ。これはそう……ただの間違いで」
身振り手振りでダレンは私に説明をし始める。
いかに婚約者として私を愛してきたのか。
今もまだ愛しているのか。
婚約は取りやめたくない。
結婚しよう。
この過ちは全部聖女のせいだと……。
後ろでキララが「ふざけるな」と激怒していても、ダレンは気にも留めなかった。
そして縋りつく様な瞳で私を見つめる。
「リーシアはまだおれのことが好きなんだろう? だからこんなことまでして……」
「もういいです」
「ん? 許してくれるのか?」
希望に満ちたダレンの笑みに、私は満面の笑みで返す。
そして彼にそっと近づき、その耳元で囁いてみた。
「私はダレン様のことを好きでも嫌いでもありませんわ。むしろもう、どうでもいいんです。あなたがこの先どうなろうと、どうでもいい。だから私の目の前からとっとと消えて下さいな」
「リー……シア」
ダレンは顔を蒼白にしながら、私を見て小刻みに震えていた。
ああ、うん。これでよかった。
「どうでもいい」この言葉はピッタリね。
ずっと考えていた。冷めた情は、どうなるのかと。
初めは嫌いになるのかと思っていたけれど、それ以上ね。
嫌いと思うことすら面倒なほど、とっとと視界から消えてもらいたい。
でもこれで国は一気に動き出すだろう。
穢れてしまった聖女の地位のために、きっと彼らはキララを女しかいない教会に収容するはず。
ダレンはまぁ、知らないけれど。
廃嫡は免れないだろうし、この先結婚も無理。
そこまでのことをしてくれたのだ。
後ろで額に手を当てる父には、きっとあとで説教を食らうわね。
私ももう、この国では良縁は難しいかもしれない。
でもいいのだ。
今はこんなにも晴れやかな気分なのだから。
鳴り止まない音楽たちが、今の私の心の中をどこまでも高揚させてくれていた。
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